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RAGNAROK SS 「すべての始まり」(その4)





「なるほど、だいたいの事情はわかった」

あれからあの手この手で慰めてやっとのことで落ち着かせ、ことの経歴をきいていた。

「つまり、ここのモンスターは攻撃をしなければ襲ってこない。でも急に地震が起きて、それで木の実があの猿にぶつかった。猿は君が犯人だと思い込んだ。と言うわけか…」

こくん、とうなずく彼女。

「やれやれ…それじゃぁ完全に俺のせいだな」

「え…」

「すまない。あの揺れは俺が起こしたんだ。もちろんわざとじゃない。」

「いえ…ちゃんと助けてくれましたし…」

「はは。でも半分は君自身の力だよ。あのとき、君があのまま倒れていたら間に合っていなかった。でも君は立ち上がってすごい気迫を猿に向けたよね。あのおかげで猿に一瞬の隙ができたし。なにより十分な時間稼ぎになった」

「そんな…あのときは夢中でしたし…私何をしたのかあんまり覚えてません…」

「なにより、女の子を泣かせてしまったしな」

思っていなかった言葉に彼女は顔を赤らめる。

「そうか。まぁ、いきる意思があれだけあればこれからも大丈夫だよ」

「あ、ありがとうございます」

「そう言えば、君はなんでなところにいるの?しかも一人で」

青年は疑問に思ったことを尋ねる。

「あ、そうだった。私アコになるための試練中でした」

「アコ?」

「あ、すみません。アコライト、服事のことです」

「…よくわからないけど、何かの試練みたいだね」

「はい。森の奥にいる修行僧の方のに会わなくては行けないんです」

「修行僧…ああ、確か…」

彼女は言いかけた青年に慌てて手で口をふさぐ。

「だ、だめです!教えてもらったら試練にならないじゃないですか」

「もごもご…」

「あっ…」

ぱっとすばやく手を離す。

「ごめんごめん。それじゃあ言わないよ。しかし、まいったな。君を危険な目に会わせてしまったのは事実だし、何か埋め合わせを…」

青年は彼女を見る。

「あ、あの…」

人に見られるととたんに顔が赤くなる。

「そうだ」

青年は一言言うと背負ってた鞄から取り出す。

「はい。とりあえず武器壊れちゃっただろ。これからまだ奥に行くんだったら これくらい必要だろ。あとその靴も結構いたんでいるから交換ね」

手渡された短剣とあたしい冒険用の靴。その他もろもろ。

「え…そんな悪いです。こんな高価なもの…」

「まぁまぁほら座って」

「ちょ、ちょっと待って…」

抗議も空しく、その場で靴を交換されてしまう。

「はい。これでもう君のもの」

「あの…」

「あ、そうだ」

青年はかまわず彼女に近づく。
そして、髪に触れ

「はい、女の子なんだからお洒落もしなくちゃな」

結ばれた紫のリボン。

「あ…」

「似合っているぜ」

耳まで真っ赤な彼女。

「さて、そろそと行くか。それじゃあ、ほんとにすまなかった。」

そういって青年は立ち去。

「あの…」

聞き取れるのがやっとの声だったが青年にはしっかりと聞こえた。
振り向き彼は一言

「リオ、だ。それじゃ」

こんどこそ森の中へ消えていった。



「た、ただいま戻りました…」

その言葉を待っていたかとばかりに周りに集まる一同。

「おいおい。えらく時間かかたな」

「そうよ。まったく。心配したわよ」

それぞれ一斉に喋りかける。

「あう、あのですね…実は…」


「へーそりゃ大変だったわねぇ」
彼女はことの一連をかいつまんで皆に喋った。

方向音痴で道に迷ったこと。
強力なモンスターに襲われたこと。
そして、

「嬢ちゃん、惚れたろ?その男に」

「えっ」

ぼっと音が聞こえそうなの勢いで顔を赤める彼女。

「そ、そそそそんな、ことは」

リオと言う青年のこと。

「はっはっは。いいねぇ若いって」

「あんたも十分若いでしょうが」

「しっかし、何物なんだろうなその男」

「そんなことより、ほら」

一人のアコライトの女性が彼女を神父の前まで連れて行く。

「さ、無事試練は合格したのよ。最後の仕上げ。」

「あ…」

神父の言葉が始まる。
目をゆっくり閉じて、心を静かに…

やがて、彼女の周りに光が灯る。
光は強くなり

カッ

目もくらむほどの光が放たれる。
そして、

ここに一人のアコライトが誕生する。

「うわぁ」

なんだか生まれ変わった気分であった。

ガランガラン

「わっ」

いきなり彼女の頭上で金の鐘がなったと思うと

バシュ

今度は蒼き光が彼女の周りを包み込む。

何度も、何度も。

アコライト達の「祝福」である。

「あ、ありがとうございます。すごく感動しました」

そこへふわりと彼女の頭に何かが乗っかる。

「私からの祝福よ」

アコライトの印、ビレタ。
そして彼女をやさしく抱きしめ、微笑む。

「おめでとう」

笑顔に見覚えがあった。

「もしかして、あの時の…」

「そうよ。気づかなかったみたいね」

彼女のがうっすらと滲み出す。
力いっぱい抱きしめる。

「会いたかったです…」

彼女は顔を上げる。

「あらあら、かわいい顔が台無しよ?」

やわらかなハンカチでふき取る。

「そう言えばまだ名前聞いてなかったわね。自分もだけど」

女性は彼女をゆっくり離して、

「あらためて、私の名前はセディア。あなたは?」

彼女も笑顔で向き直って

「ゆかる、私の名前はゆかるです!」

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