Only One Attraction



散々後から股間を嬲られ、身体に力が入らない。
縛られた上半身は布団へ突っ伏し、腰だけ高く上げた状態を強いられどれぐらい経っただろう。
「あっ…んぁ…っ…イッ…い…もっと強っ!」
止め処なく湧き上がる快感に、悟浄は全身を紅潮させて喘いでいる。
帯が解かれて乱れた着物は、腰で丸まり引っかかってる状態。
八戒の指先から与えられる快楽に、双丘も強請るように揺れた。
溢れ出る体液が八戒の掌からポタポタと零れて、布団へ淫らな染みを大きく作る。
大きく割り開らかれた股間で、グチュグチュと立つ淫らな音が一層悟浄の羞恥を煽った。
「んっ…っか…い…はっか…いぃー…っ」
身体中駆け巡る淫蕩な熱に、悟浄が譫言のように八戒の名前を呼び続ける。
「気持ち悦い?」
ウットリとした甘い声音で尋ねられれば、悟浄はコクコクと素直に頷いた。

八戒の綺麗な指に嬲られている。

欲望の象徴でもあるイヤラシイ雄を繊細な指先に追い立てられ汚していく様が背徳的で、背筋がゾクゾクと震えてしまう。

気持ち悦すぎて悦すぎて。

身体の奥底で燻り続ける熱に耐えきれず、悟浄はあっさり理性を放棄する。

もーこうなったら花魁だろうと町娘だろうとなってやらぁっ!

自分から背後にいる八戒へ腰を差し出し、物欲しげに揺らして見せた。
すると小さな笑い声が聞こえてくる。
「悟浄ってば…指で擦ってるだけなのに。もうこんなに濡らしてますよ?」
感嘆するような甘い声音に、悟浄の頬が羞恥で赤らむ。
これが卑下したり蔑んでいるの訳でなく単純に感心されてるのだから、悟浄もどう返していいか分からない。
何せ経験値が平均的な男と比べてもかなり少ない八戒に、お互いセックスを愉しむ為の駆け引きや言葉遊びなど出来るはずがなかった。
下手に言い返せば傷つけたり、ましてや煽ったりしたら言葉通りに取られて暴走する可能性もある。
ちょっと困って悟浄が悩んでいると、濡れた性器をキュウッと握られた。
「んぁ…っ?」
「何を考えてるんですか?」
刺々しい声に慌てて首だけで振り返れば、八戒がむぅと膨れて拗ねている。
何やら勝手に勘違いしてヤキモチ焼いたらしい。
ふいに可笑しいやら嬉しいやら、愛しいやら。
色んな感情が一気に込み上げ、噴き出しそうになってしまう。
迫り上がる笑いの発作をどうにか飲み込もうと布団へ突っ伏すと、黙り込む悟浄をまたもや邪推して八戒が眉を吊り上げた。
「もうっ!他のことなんか考えないで下さいよっ!」
「してねっ…よ…っ」
何とか笑い出すのは堪えているが肩の震えは誤魔化せない。
八戒にヤキモチ焼かれるのはイイかもー、などと暢気に考えていた悟浄の耳に、んむっとヤケに気合いの入った唸り声が聞こえてきた。
何だ何だ?と笑いが漏れそうな口を塞いで脳裏に『?』を浮かべていると。

「僕…僕こーなったら頑張りますからねっ!!」
「はぁ???」

異様に気合いを漲らせた八戒の宣言に、悟浄は素っ頓狂な声を上げた。
何でいきなり頑張り出すのか、その脈絡は分からない。
はて?何を頑張っちゃうんだろうと首を捻ろうとした途端、股間から湧き上がった強烈な快感にガクンと腰が砕けた。
「え?ええ??」
「他のことなんか考えられないようにしますっ!!」
声高らかに宣誓すると、八戒の指先がモゾモゾと股間で蠢き出す。
「ひゃぁ…ああっ!?」
タダでさえ弱い敏感な部分。
その剥き出しの部位を、八戒の掌が指先が器用に動いて悟浄の快感を追い上げた。
溢れ出る体液を塗り付けながら強く握って扱き立てるかと思えば、プックリ興奮で膨れ上がった袋をキュウキュウ磨り潰すように捏ねる。
サービス旺盛に股間を念入りに可愛がられて、悟浄は腰を捩って喘いだ。
腰だけ突き出した体勢で支えている膝頭がガクガク震えてしまう。
股間から広がる甘美な快楽に、悟浄は嬌声をひたすら身悶えた。
自分の手管で乱れる悟浄を八戒はウットリと魅入る。
熱で火照った全身からは匂い立つ色香が惜しみなく発散されていた。
何て綺麗で淫靡なんだろうと、八戒は瞬きするのも惜しんでじっと注視する。

紅潮した褐色の肌は滑らかで、浮き出て流れる汗に頬擦りしたくなるぐらい気持ち良さそうだ。
骨格はしっかりしているが細身の姿態はしなやかで均整が取れている。
その無駄な肉のない背筋から意外な程締まって細い腰。
目の前で揺れている双丘は小さくて、それを支える長い脚は腿から爪先まで綺麗に筋肉が浮き出ていた。

どこからどう見ても男の身体。
だけどどうしようもないぐらい綺麗でイヤラシイ。
普段から悟浄は自他共に認める男前で、無意識に放つ卑猥な芳香に男女問わず惹き寄せられる。
八戒もすっかり当てられた一人だが。
来る者拒まず去る者追わず、飄々とヒトの善意も悪意も上手にかわしてすり抜ける。
それでも格好付けの悟浄は社交的で人当たりも良い反面、ヒトに自分の弱みは殆ど見せなかった。
八戒に猪突猛進アタックしていた時は、随分と世慣れたヒトだなと過剰に警戒したぐらいだ。
絶対自分はからかわれてるんだと思って。

それがどうだろう。

つき合いだしてからは『え?ええ??』と驚愕の日々。
普段のスカした格好付けはどこへやら。
こんなに甘えたさんで我が儘なんて想像すらしていなかった。
第一印象からの悟浄イメージは、あの記念すべき初めての朝で見事崩れ去っている。
しかしそれに幻滅したのかと言えばまるっきり逆で。
甘えて構って攻撃を繰り出しゴロゴロ懐いてくる悟浄は物凄く可愛かった。
元来面倒見の良い八戒は、ついつい嬉しくて構い倒してしまう。
尤も悟浄がそうして気概なく自分自身を曝らけ出すのは、恋人の八戒と身内の捲簾ぐらいだ。
案外ブラコンの気がある悟浄が兄の捲簾と同じぐらい、いやそれ以上に甘えてくれるのは八戒にとって至福の一時になっている。
それは当然恋人同士の甘く淫靡なお付き合いでも、八戒の『甘やかしたい』衝動は遺憾なく発揮された。
今もその真っ最中で。
気取ることもなく素直に気持ち悦さそうに嬌声を漏らす悟浄に、八戒は俄然気合いが入る。

もっともっと気持ち悦くして上げますねっ!!

改めて頷くと、八戒は悟浄の濡れた性器をせっせと弄くり捏ね回すのだが。
されている悟浄と言えば、次第に苛立ちを募らせていた。
八戒の愛撫が拙いとかそう言う訳じゃない。
そこら辺は八戒だって同じ男、経験値は少なかろうがドコをどう触れば堪らなく悦いかぐらいは熟知していた。
それに実際気持ち悦い。
それはもう頭がグチャグチャになって真っ白く吹っ飛びそうなぐらい悦かった、けど。
悟浄は物足りなさに喘ぎながら唸る。

もっと何かあるだろうっ!
撫で回すとか舐めるとか噛みつくとかしゃぶるとかっ!!
何でソレだけしかやんねーのっ!?

八戒の欲情を誘うように双丘を揺らしても、物欲しそうな視線を肩越しに向けても。
八戒は悟浄の背後でキッチリ正座をしたまま、ひたすら股間を注視して性器だけを愛撫していた。
悟浄の着物は脱げ落ちて腰で丸まってるような乱雑さなのに、八戒はピシッと浴衣を着たまま裾さえ崩していない。
コレにはさすがに悟浄もキレそうになる。
八戒が一度でも悟浄を達かしてさえいれば、ここまで焦燥感は湧き上がらなかった。
これだけネチネチグチュグチュ性器を弄ばれているにも拘わらず、まだ悟浄は吐精出来ないで居る。
後もう少しで!と身体が緊張すると、ふいに八戒の指から力が抜けた。
はぐらかされて恨めしそうに溜息を吐けば、今度は執拗なぐらいに肉芯の熱を煽ってくる。

昂められたら失墜して、またジワジワと追い上げられた。
ソレの繰り返し。

後ろ手に亀甲縛りされた状態では、自分で弄ることも出来なかった。
苛立ちが次第に大きく膨れ上がり、悟浄は八戒の指先が気紛れに弄んでいるようにしか思えなくなる。
理不尽な憤りが沸々胸で燻り、いっそのこと自分からのし掛かってやろうかとさえ思った。
それほど悟浄の身体は限界いっぱいっぱいで苛立っている。

「あ…もっ…い加減…しろ…ってぇ!」
「何がですか?」

欲情のカケラもない涼しげな返事に、悟浄の頬に朱が散った。
自分だけこんな風に乱されるのが悔しくて悔しくて。
悟浄は強張っていた身体から力を抜くと、パフッと枕に顔を埋めた。

くっそぉ〜八戒のヤツ!ホントはギンギンに勃起してるクセにっ!!
俺だけなんてすっげムカツクーッッ!!

理不尽な目に遭わされている気がしてならない悟浄が枕相手にブツブツ悪態を吐く。
「おいコラ八戒」
「え?どーしたんですか?」
「どーしたじゃねーっ!いつまでこのまま弄ってるつもりだ?あぁ?」
不機嫌だと顔中に顕して悟浄がじっとり恨みがましい視線を向ければ、八戒がきょとんと首を傾げた。
「だって生娘の町娘さんを手籠めにするんですから、抵抗する気も無くなるぐらい快楽に溺れさせなきゃダメでしょう?」

まだ悪代官と町娘ゴッコは続行してたのかっ!?

当たり前のように言い返してニッコリと満面の笑顔で応える八戒に、悟浄は真ん丸く目を見開いたまま愕然とした。
どうりでいつもと違うはずだ。
散々焦らされていたのも、これ見よがしに羞恥を煽るような恥ずかしい格好をさせたのも。

「…八戒。悪代官はこんな手間かけたりなんかしねーぞ?」
「はい?」

予想もしない悟浄の言葉に、八戒が不思議そうに瞬きする。
やっぱりな、と悟浄は縛られた身体でぎこちなくコロリと身体を返した。

「よぉ〜く考えてみ?悪代官だぞ?悪いヤツなんだから、町娘が泣いて抵抗しようが無理矢理押さえ込んでさっさと犯すだろ?ソレが目的なんだから」
「え?あれ??」
「それこそ八戒がしてんのって、どっちかって言えば遊女の水揚げじゃねーの?」
「水揚げ?」
「見習いの女の子が初めて遊女として座敷に上がるっての?要は初めて客が付くことを言うんだけど〜」

何で俺がこんなことまで説明しなきゃならないんだ?と悟浄が呆れて溜息を零す。
やれやれと見上げれば、八戒は相変わらず正座したまま驚愕で目を見開いて全く身動ぎしない。
折角乗り気で悪代官役を演じているつもりだったのが実は違うと指摘され、余程ショックを受けたのだろうか。

あー…なぁ〜んかシラけちまったな。

悟浄が額に掛かった前髪を吐息で吹き上げ俯せに寝転んだ瞬間。
「ぐえっ!?」
不意打ちで悟浄の背中へ八戒がドスッと飛び乗り跨ってきた。
気を抜いていた悟浄は急激に掛かった重みで肺を圧迫され激しく咽せる。
「ゲホッ…んだよっ!いきなりっ!?」
「ごじょぉー…vvv」
八戒の甘ったるい猫撫で声が耳朶を擽った。

…何だかとてつもなくイヤな予感が過ぎった。

悟浄の背中にゾワゾワと悪寒が走る。
チラリ。と、恐々視線だけで背後を振り返れば。

キラキラキラーッッ☆

「うわわっ!何っ!なになになにっ!?」
八戒がそれはそれは嬉しそうに瞳を輝かせてウットリと悟浄を見下ろしてきた。
こんな八戒は今までの経験上、ろくなコトを言い出しかねない。
「な…何だよ?」
思いっきり顔を強張らせながら、確かめたくないけどとりあえず聞いてみた。
八戒は悟浄の背中へペッタリ貼り付き、身体を屈めて顔を覗き込む。
「それじゃぁー、やっぱり目指せ花魁プレイですよねvvv」
「………はい?」
「だって悟浄、その花魁のタマゴ役のつもりだったんでしょ?」
「………………誰が?」
「初々しい遊女見習いのつもりで僕の好きなようにさせてくれてた訳ですよね?」
「……………………えーっと?」
「と、いうことは?僕が初めてのお客さんで、悟浄のことシッポリ仕込んじゃっていいってことですよねっ!?」
「うええええぇぇぇええええっっ!??」
突拍子もない八戒の戯れ言に、悟浄はサーッと顔面蒼白になった。
頬を嬉しそうに赤らめ興奮気味に捲し立てる八戒は、何だか猛烈に恐ろしい。
悟浄がしっかり縄が食い込んだ身体を布団の上でジタバタ藻掻くと、八戒がこともなげにコロンと身体を仰向けにひっくり返した。
「いっ!つ…ぅっ」
仰け反った背中の重みが縛られた腕に掛かって、悟浄が痛みで眉を歪める。
悟浄が怯んでいる隙に、八戒は悟浄の足を掴んで大きく左右へ割り開いた。
散々弄られて未だ熱く疼いている無防備な股間が八戒の視線に曝される。
「ちょっ…待っ!はっか…いっ!」
「では。悟浄が立派な花魁になれるよう、僕全身全霊を懸けて仕込んで見せますからっ!!」

どんなプレイなんだそりゃーーーっっ!?

悟浄の叫びは吐き出される前に嬌声へと変わってしまった。



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