*****The Future Ties***** |
「…で?何なんだよ。ただ座ってるだけじゃねーか」 忙しなく煙草をふかして、三蔵が苛立たしげに八戒を睨んだ。 身動ぎもせずに、すっかり大人しく座っている悟浄。 現実逃避気味に視線が遠くを泳いでいる。 「これはですね、お風呂に入って座ったままで使うんですよ」 「やっぱタダの椅子じゃねーか」 「ですから、座るために使うんじゃないんですよ〜」 「あぁ?」 にこやかに話す八戒を、三蔵は不信感いっぱいで見つめ返した。 さっきからどうもはぐらかされてる気がしてならない。 しかもわざと。 上機嫌な八戒に対し、反抗する気力も失せる程打ちのめされている悟浄。 何をどう考えたって怪しすぎる。 二人の力関係を考えると、毎度のことで呆れるのさえ馬鹿馬鹿しいとは思うが。 相当悟浄が嫌がったことから、八戒がロクでもないことを企んでいるのだけは分かった。 それが、何なのか? 一体これから何をしようとしているのか? 展開の見えない状況に、三蔵は憮然とした表情で二人をただ睨め付けるしかない。 狙ってる訳でもなく、三蔵の前頭葉だけは清純無垢だった。 「さてと。コレはですね、三蔵と悟空どちらが使ってもイイと思いますけど、但し二人で使わないと意味がないんですよ」 八戒の説明に、三蔵は無言のまま眉を顰める。 「二人でって…一人しか座れねーじゃねーか」 三蔵の言い分は尤もだ。 八戒はその場にしゃがみ込んで、三蔵を見上げる。 「座るのは一人ですよ、もちろん。で、一人が椅子に座ると、ほらココに隙間が開いてますよね?」 「それがどうかしたのか?」 「…これがポイントなんですよ」 瞳に妖しげな光を湛えて、八戒がうっすらと笑みを浮かべた。 思わず三蔵の背筋をゾクゾクとした寒気が走り抜ける。 イヤな予感がする。 これは訊いてはいけないことだったんじゃ。 知らず掌や額に汗が滲んできた。 緊張感からか心拍数まで異様に上がってくる。 三蔵は小さく息を飲むと、意を決して八戒に問い掛けた。 「それで…何をするってんだ?」 「じゃぁ、実践してみましょうか」 八戒が穏やかに微笑んでも、三蔵の猜疑心は無くならない。 この笑顔にウッカリ騙されると後で手酷い仕打ちを喰らうことぐらい、短くもないこのオトコとの付き合いで身に滲みていた。 寺院の坊主なら心停止するだろう禍々しい凶悪な視線で見下ろしても、八戒の表情は全く変わらない。 「まずですね、ココにこうやると手が通りますでしょ?」 「それが何なんだ?」 三蔵は素直に疑問を投げて首を捻った。 何やら八戒は楽しそうに三蔵の様子を伺っている。 「この手をですね?こう掌を上に向けまして」 にぎ。 「うわあああぁぁっっ!?」 突然悟浄が股間を押さえて悲鳴を上げた。 思わず三蔵もギョッと目を見開く。 にぎにぎにぎ。 「ちょっ…八戒…っ…うあぁ〜っっ!」 ビクンビクンと悟浄の身体が痙攣したように跳ねた。 膝に突っ伏した身体が小刻みに震え出す。 「ヤメッ…ば…かぁっ…んぁっ」 悟浄は拒絶の声を上げるが、段々とその声音も甘く濡れてきた。 服越しの手淫に悶える悟浄を眺め、八戒は嬉しそうにほくそ笑む。 「やだ…ぁっ…こんなっ…はっか…いっ」 とうとう我慢出来ずに、悟浄は啜り泣いて激しく首を振った。 「と、まぁ〜こういうラブラブスキンシップを取る優れモノなんですよvvv」 八戒が笑いながら、あっさりと椅子の隙間から手を抜く。 「んっ…ぁ…れ?」 「………。」 突然の解放に頭が付いていけず、暫し悟浄は呆然とした。 三蔵はと言えば、目を見開いて瞬きもせずに固まった状態。 二人揃って金縛りにあったように動けなかった。 「あれ?どうしたんですか〜?」 暢気な声が聞こえて、先に我に返ったのは三蔵。 「テメッ!よりによって何っつーモノ見せやがるっ!」 怒り心頭で三蔵が八戒の胸倉を掴み上げた。 三蔵の剣幕にも全く動ぜず、八戒は涼しい顔。 「え?三蔵は悟空とお風呂に入って、身体の洗いっこしないんですかぁ〜?」 「…ソレと今の茶番は関係ねーだろっ!」 「関係あるじゃないですか。ああやって悟空のコトを洗って上げたら…どんな反応するでしょうねぇ」 「どんなって…」 ついつい八戒に乗せられ、悟空の反応を妄想してしまう。 『あっ!や…ちょっと…三蔵ぉ…そんなの…ああんっ!』 『何だぁ?もうココ硬くシテんじゃねーか…いやらしいヤツだな』 『あぁ…違…っ…三蔵が触る…からっ…やだ…止めてくれよぉ』 『あ?嘘付け。ココはもっと、って言ってるぞ?こんなに濡らしやがって』 『あ…さんぞ…っ…気持ちイイッ…や…ぁっ』 「三蔵。一人で楽しい想像するのは構いませんけど、鼻血で法衣汚れますよ」 「………あ?」 八戒の声に慌てて下を向くと、何やら鼻を熱いモノが流れていった。 「ああっ!三蔵下向いちゃダメですって!ホラ、ティッシュで鼻押さえて下さいよ」 乱暴な仕草でティッシュごと鼻を押さえられ、三蔵がムッとして八戒を睨み付ける。 「はい、自分で押さえて」 渋々と言われた通りに自分の鼻を押さえると、途端にティッシュに赤い染みが広がった。 別にからかわれた訳ではなく、どうやら本当に鼻血を噴いたようだ。 三蔵はバツ悪そうに八戒から目を逸らす。 すると、視界の先にちらつく赤に、三蔵が思いっきり顔を顰めた。 「うぅぅ〜〜〜っっ!」 未だに悟浄は先程までの余韻で、身も世もなく悶えている。 身体をくの字に折り曲げ、股間を押さえて唸っていた。 腰が不規則に跳ねて、小刻みに震えている。 あんな少しの時間で、どんなテクニックを使ったらここまで追い上げることが出来るのか。 呆れながらも、三蔵は密かにちょっと羨ましかった。 「………おや?」 わざとらしくも今気付いたとばかりに、八戒は悟浄の方を振り向く。 「悟浄?どうしちゃいました?」 「っかいぃ…テメッ…何っつーコトしやがんだ…よぉっ!」 「三蔵にスケベ椅子の使い方、少ぉ〜しばかり教えて差し上げただけですけど?」 「少し…て…クソッ!」 辛そうに顔を歪ませ、悟浄が震える身体を自分で抱き締めた。 それでも湧き上がった熱は押さえきれなくて。 悪態でも吐いてないと、頭がどうにかなってしまいそうだ。 悟浄は顔を真っ赤にして、次第に息も乱れてくる。 昂ぶった熱が解放を求めて、身体中で逆巻いた。 悟浄の様子に、三蔵もさすがに同情する。 溜息吐いて八戒に目を向けると、ウットリと悟浄の様子に見惚れていた。 瞳の色がかなり危ない。 三蔵の理解の範疇を超えて、異次元にイッちゃっていた。 「…おい、八戒」 コホン、と大袈裟に咳払いをする。 「悟浄…可愛いですvvv」 すっかり自分の世界にはまり込んでいる八戒に、三蔵の声は届かない。 深々と眉間に皺を刻むと、三蔵は肺にはいるだけ大きく息を吸った。 「この色ボケカップルがっ!いいかげんにしやがれっ!!」 ビシビシと音を立てて部屋の窓が振動する。 一心不乱に悟浄を注視していた八戒が、首だけでゆっくりと三蔵を振り返った。 「…一体誰のコトですか?」 ニッコリ。 瞳を欲情で滾らせ捲りながら、八戒は禍々しい笑顔で脅してくる。 仮にも世の最高僧を脅すとは。 ここで屈したら、俺は死ぬまでコイツに弄ばれる。 三蔵は射殺す勢いで八戒をただひたすら見つめ返した。 今ココが一生のボーダーライン。 後にあるのは、底の見えない崖っぷち。 悲壮なまでの三蔵の決意だった。 とにかく冷静に対応しなくてはと、三蔵は一度目を瞑る。 そして目を開けると、いつも通りの不遜な態度で顎をしゃくった。 「おい、アレ鬱陶しいからさっさとどうにかしろ」 「アレ、とは?」 八戒は小さく首を傾げて三蔵を上目遣いで見る。 一瞬殺意でこめかみが浮いたが、どうにか耐えきった。 「とぼけるんじゃねーよ。そこのバカだ。テメェのだろ。目障りだから何とかしろ。悟空が起きてきたらどうする気だ」 三蔵の声も悟浄には届いてないらしい。 ただひたすら身体を震わせていた。 悪態を吐いて唇も、今では涙声でぐずっている。 八戒は悟浄の頭を優しく撫で、全開の笑顔を三蔵へと向けた。 「悟空が起きてきたら丁度良い。ぜひさっきのおさらいを〜♪」 「いいかげんにしろっ!」 ブチブチッと、何処かの血管が切れた気がする。 「もぅ…相変わらず三蔵は我が儘ですねぇ」 「どこをっ!どういう風にとったら!我が儘になるんだっ!俺のせいにすんじゃねーよ!テメェの悪行じゃねーかっ!!」 我慢の限界ギリギリに来ていた三蔵は、思いっきり八戒を怒鳴りつけた。 八戒は何も言い返さず、ただ穏やかに微笑んだまま。 何か企んでいるに違いないと、三蔵は身を引いて警戒した。 「悪行なんてヒドイですよぉ。僕はお祝いのプレゼントをただ正しく楽しくっ!使って貰おうと思っただけですよ〜?」 「デッケェお世話だっ!!」 「…スッゴイ妄想して鼻血垂らしたクセに」 ポツリと呟かれた言葉に、三蔵は怒鳴りつけたい衝動を喉で飲み込んで堪える。 八戒の掌が悟浄の背中を愛しそうに撫でると、ピクリと肩を震えた。 涙に濡れた虚ろな視線で、悟浄が必死に見上げてくる。 「八戒ぃ…」 「大丈夫ですよ。三蔵のお許しも出たことですし、ちゃんと楽にして上げますからね」 「ん…」 漸く安心したのか、悟浄がコクッと小さく頷いた。 二人の遣り取りを三蔵が怪訝な表情で見つめる。 まさか…コイツら。 疑心暗鬼で様子を伺う三蔵の目の前で八戒が動いた。 椅子に座り込んでいる悟浄の腋に手を差し込むと、自分へ引き寄せながら立ち上がらせる。 脚に力の入らない悟浄が、必死に八戒へとしがみ付いた。 「悟浄…」 背中をあやしていた八戒の掌が、ゆっくりと悟浄の服の中へと潜り込んだ。 予感的中。 三蔵の身体が怒りでカタカタと震え出す。 もう八戒と悟浄は今自分が居る場所が何処かなど、綺麗サッパリ忘れ去っていた。 尤も八戒は最初っから気にも留めないだろうが。 黙って成り行きを見つめていたが、限界を超えて三蔵の頭の中が真っ白に弾け飛んだ。 大きく大きく。 肺一杯に空気を吸い込む。 「誰がココで犯ってもいいって言ったあああぁぁっっ!!」 断末魔の叫びが、寺院中に大きく地鳴りとなって響き渡った。 |
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