*****The Future Bride***** |
悟空は悟浄のお腹に耳を当ててじっとしている。 「あっ、ホントだ!今ポコッて音がした〜!コイツ元気だなっ!!」 瞳を輝かせながら悟空がはしゃぎ出す。 「だろ?も〜大変よ?寝てても思いっきり蹴ってくるから、しょっちゅう目が覚めちまってさ」 「ん〜?こんなに元気だとやっぱ男の子かなぁ〜」 悟空はそっと労るように悟浄のお腹を撫でた。 キッチンから八戒がおやつを持って戻ってくる。 「どうですかね?僕たちも楽しみにしてるんですよ」 「ねーねー、いつ産まれるの?」 「予定では10日後なんですけどね」 「もうすぐだなぁ…」 ニッコリと微笑みながら悟空は悟浄のお腹を眺める。 平均的な妊婦ほどではないが、悟浄のお腹も確実に大きくなっていた。 さすがにマタニティドレスは断固として拒否したが、普段の服ではサイズ的にムリなので、悟浄はデニムのオーバーオールかつなぎを着ている。 本日悟空はお祝いを持って遊びに来ていた。 先日三蔵が悟空にナイショで二人にお祝いを贈ったこと知って、悟空は思いっきり盛大に拗ねてしまう。 悟空だって二人のために何かお祝いをしたかったのに、三蔵が自分に相談もしないで決めてしまったことが悔しくて仕方なかったのだ。 暫く口も聞かない状態が数日続き、とうとう根負けした三蔵が悟空にお祝いの提案してきた。 悟空は寺院近くの果樹園で果物を分けて貰い、お祝いに持ってきたのだ。 「いやぁ、悟空がいっぱい果物持ってきてくれたから嬉しいですよ。最近悟浄ってば果物をいっぱい使ったデザートに凝ってるんですよ」 「へぇ…そうなんだ。喜んで貰えるんなら俺も嬉しい♪」 本日のおやつはベリーをふんだんに使ったタルトだった。 「よく妊娠すると味覚が変わるって聞きますけど、悟浄なんか正にそれで。前なんか甘い物全然食べなかったのに、最近じゃ大好物なんですよ?」 「え?悟浄がそんなに甘いモン食うの??」 「これがまた…すっげぇ旨く感じるんだよなぁ〜。自分でも不思議だけど」 嬉しそうに悟浄はタルトを口に運んでいる。 「ん〜〜〜〜旨いっ!やっぱ買ってくるヤツより八戒が作った菓子の方が断然旨いな♪」 「うんうんっ!八戒の作るお菓子ってすっげー旨い♪」 「そうですか?そんなに誉めたって何も出ませんよ〜。あ、足りなかったらマンゴープリンも作ってありますからね」 二人が美味しそうにお菓子を食べる姿を、八戒は幸せそうに眺めた。 「…あ…つっ…?」 突然悟浄が小さく呻いてフォークを取り落とす。 「悟浄…?」 「悟浄!?どうしたんだよ?」 八戒と悟空が悟浄の元へと駆け寄った。 「な…んかっ…腹が…いた…っ」 眉間を歪めながら、悟浄はお腹を押さえて屈み込んでしまう。 その額には汗が滲んできていた。 「もしかして…陣痛がきちゃったんですか!?」 「ん…そ…かもっ…い…いてぇよぉ…っ…はっかい〜〜〜っっ!」 八戒は悟浄の身体を支えると、何度も背中をさすって宥める。 「どっ…どうしよう八戒!?どうすればいい?」 悟空は何をしていいか分からずオロオロしてしまう。 「すみません、お医者さんに電話を掛けて貰えますか?これから悟浄を連れて行きますからって。番号は横のメモ帳に書いてあります」 「うん!分かった!!」 速攻で電話の元へ飛んでいき、悟空は言われたとおりに電話を掛けた。 「悟浄、大丈夫ですか?もうちょっと我慢して下さいね!」 「スッゲいてぇ〜〜〜ダメかもぉ〜〜〜っっ!!」 「そんな情けないこと言わないで下さいっ!貴方は母親になるんですよ!?」 「分かってっけどぉ〜痛いったら痛いつーんだよっ!コンチクショーッッ!!」 悟浄は速い呼吸を繰り返しながら、痛みを誤魔化すように悪態を吐く。 電話を終えた悟空も直ぐに戻ってきた。 「八戒!直ぐに来て下さいだって!!」 「そうですか。悟空すみません、僕の部屋にボストンバックがありますので、それ持って来てくれますか?必要な物が入ってますので」 「うん!」 悟空は慌ててダイニングを出て行く。 状態をいち早く察知したジープも既に外へ出て待機している。 「悟浄?立ち上がりますよ」 「ん…っ…」 八戒に支えられながら、悟浄はようやっとの思いで立ち上がった。 鞄を抱えた悟空も直ぐに戻ってくる。 「悟空っ!」 八戒は悟空に向かって家の鍵を投げ渡した。 それをひったくるように悟空は掴み取る。 家を出ると八戒は慎重に悟浄を助手席へと座らせた。 ジープのエンジンをかけたところで、戸締まりをした悟空がバックを後部座席へと積む。 「それじゃ、すみませんけど…悟空お願いしますね」 鍵を預けたのは、何かあったときに悟空に動いて貰えるように。 悟空もその懇願を敏感に察知していた。 「任せてっ!悟浄、頑張れよな!!」 「うっせー…言われるまでもねーよっ」 悟浄が顔を痛みで歪めながらも、悟空へ口端で笑う。 ジープは猛スピードで発進していった。 その姿が見えなくなるまで悟空は庭先で見送る。 「…頑張れよっ!ああっ!?そうだ、三蔵にも早く教えなきゃっ!!」 悟空は踵を返すと、慌てて寺院へ向かって走り出した。 ストレッチャーに乗せられた悟浄の手を、八戒はしっかりと握り締める。 「悟浄っ!頑張って下さいねっ!!ひーひーふー、ですよっ!!」 「八戒…それ帝王切開だから関係ねーっての」 「あれ?そうでしたっけ??」 どうも八戒の方が混乱しているようだ。 「すぐ側で待ってますからっ!!」 悟浄が小さく頷くと、ストレッチャーは分娩室へと入っていった。 八戒の目の前で扉が閉められる。 「悟浄…」 八戒は胸元で手を組みながら、祈るように扉を見つめた。 長いような短いような。 実際どれぐらいの時間が経っているのか、既に感覚が分からなくなっていた。 病院の廊下を八戒は、ウロウロと落ち着きなく歩き回っている。 「ああっ…どうしたんでしょうか?どれぐらいで産まれるもんなんでしょうねぇ。まさか未熟児とかじゃないですよね…」 とりとめもなく嫌な考えしか浮かんでこない。 深々と溜息を吐くと、廊下の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。 「はっかいーっっ!!」 「病院の廊下を全力疾走するんじゃねーっ!!」 大声で自分を呼ぶ声と、軽快なハリセンの音が静かな病院内に響き渡る。 涙目で頭を抱えた悟空と不機嫌全開の三蔵が、こちらへ近付いてきた。 「悟空…三蔵まで…来てくれたんですか」 「コイツが本堂でギャーギャー喚き散らすから仕事になんねーんだよ」 「八戒!赤ちゃんは?まだ産まれないの!?」 「ええ…まだみたいなんです」 不安げに瞳を揺らめかせ、八戒は分娩室の扉を見つめる。 すると。 ホギャーッ! 元気な泣き声が分娩室から上がった。 「…産まれた?」 「産まれたよぉっ!!」 悟空がはしゃぎながらピョンピョンと跳ね上がる。 八戒の表情にも、見る見る安堵と歓びの笑顔が浮かんだ。 分娩室の扉が開き、看護婦が布にくるまれた小さな身体を抱いて出てくる。 「あ、お父さんですね。おめでとうございます、元気な男の子ですよ〜」 そっと小さな身体を八戒へと手渡した。 「お父さん…なんですよね、僕」 腕に抱いた小さな我が子をじっと慈しむように見つめる。 やはり少しでも人間の血が混じっているせいか、妖怪に出るはずの印は何処にもなかった。 フワフワの柔らかい髪の毛は、自分と同じ黒髪。 まだ瞳は閉じられているが、目尻の下がり具合や表情はどうも悟浄似のようだ。 「八戒っ!八戒っ!!俺にも見せて〜っっ!!」 悟空は赤ちゃんの顔を見ようと、一生懸命飛び上がっている。 八戒は苦笑しながら、近くの長椅子に腰を掛けた。 悟空は食い入るようにじっと赤ちゃんの顔を見つめる。 「…なんかさ、シワシワでサルみてぇな」 「てめぇと一緒だな」 「何だよっ!三蔵のハゲッ!!」 「んだとぉ?」 「もう…そんなに騒いだら赤ちゃんが驚いちゃいますって」 「あ…ゴメン」 悟空はしゅんと項垂れた。 三蔵もチラッと八戒の手元を覗き込む。 「フン…印は出てねーみたいだな」 「そうですね…やはりクウォーターですから」 「くおーたぁー??」 「あはは…4分の1人間の血が混ざってるってことですよ」 「ふぅ〜ん…何かさ、コイツ悟浄に似てるな」 悟空は赤ちゃんのプニプニほっぺを指で突っついた。 「あ、悟空もそう思いますぅ〜?もう絶対可愛い子に育ちますよねぇvvv」 八戒はニヘラと相貌を思いっきり崩れさせる。 すでに親バカ全開状態だ。 「目の色は何色かなぁ。悟浄似だし、やっぱ紅なのかな?」 「どうでしょうねぇ?赤ちゃんはまだ目が開きませんからね」 ニッコリ笑いながら看護婦の手に赤ちゃんを引き渡すと、分娩室からストレッチャーに乗った悟浄が出てきた。 医師も一緒に説明のために出てくる。 「先生…ありがとうございました」 深々と八戒は頭を下げた。 「母子共に健康ですから。今は麻酔でまだ眠ってますけど心配要りませんよ」 「ご苦労だったな」 横にいた三蔵が声を掛ける。 「ああ、三蔵様もおいでになってましたか。私もこんなケースは初めてで戸惑いましたが…生命の誕生というのは本当に神秘ですね。長年医者をしてきましたが、今回のことで改めて実感しましたよ」 人の良さそうな笑顔で医者は笑った。 「あの…悟浄の側についていても大丈夫でしょうか?」 「ええ、構いませんよ。ぜひ付いていて上げて下さい」 「折角ですから、三蔵と悟空も…悟空?」 八戒が振り返ると、お腹を押さえて悟空が長椅子にしゃがみ込んでいる。 「おい、サル!どうしたんだ?」 三蔵が慌てて悟空の様子を伺うと、悟空が法衣の袖をぎゅっと掴んできた。 「さんぞっ…なんか…お腹…気持ち悪ぃ…っ」 悟空は苦しそうに呼吸をしながら、三蔵に身体の不調を訴えた。 「おいっ!」 「ええ、すぐに診察しましょう」 三蔵は悟空を抱き上げると、医師の後を付いていく。 「三蔵っ!」 「お前は悟浄に付いていろ。コイツには俺が居るから心配ねーよ」 口端に小さく笑みを浮かると、二人は診察室へと入っていった。 八戒は心配そうにその姿を見送る。 「そうですね…大丈夫ですよね」 言い聞かせるように呟くと、八戒は悟浄の待つ病室へと向かった。 ふと意識が浮上して、ボンヤリと悟浄は目覚める。 視界の先には、優しく微笑む八戒の笑顔。 「八戒…俺…」 意識が混濁していて悟浄は自分の状況が思い出せない。 八戒は悟浄の手を取って、手の甲へ柔らかい口付けを落とした。 「いっぱい頑張りましたね、悟浄…お疲れさまでした」 「あっ…!」 漸く悟浄は全てを思い出す。 「なぁ、子供は?どうだった!?」 「元気な男の子ですよ…悟浄にそっくりなvvv」 元気だと聞いて、悟浄の顔に安堵の笑顔が浮かび上がった。 「そっかぁ…男だったのか。俺に似てんの?」 「ええ。目の辺りとか口元とかそっくりですよ?悟空も言ってましたしね」 「何?小ザルちゃんも来てんのかよ?」 「ええ…そうなんですけど…」 八戒が言葉を濁して苦笑する。 その割には悟空の姿が見当たらない。 「何だよ…何かあったのか?」 「赤ちゃんの顔を見てたんですけど…いきなり体の調子がおかしくなったみたいで。今診察してもらってるんですよ」 「ええっ!?そんな…大丈夫なのか、アイツ!?」 「大丈夫、三蔵も一緒にいますからね。悟浄は心配しないで…今は自分の身体を休めて下さい」 「でも…」 「後で三蔵から僕が様子聞いてきますから…ね?」 八戒は宥めるように悟浄の頭を撫でた。 「そうだ、赤ちゃん連れてきましょうか?」 「おうっ!」 漸く悟浄が笑顔を見せる。 「じゃぁ、看護婦さんにお願いしてきますね〜」 八戒は悟浄の額へキスを落とすと、病室を出て行った。 その頃。 病院の診察室では、またもや医者が複雑そうな表情でカルテを見つめている。 「で?何だったんだ。食あたりか?」 落ちつかなげに視線を彷徨わせる悟空の横で、三蔵は診断を即した。 「三蔵様…おめでたです」 「………………………………何だって?」 停止しそうになった思考を叱咤して、三蔵は恐る恐る聞き返す。 「ですから、おめでたです。妊娠してます。ちょうど15週目に入ったところですね」 「何だとおおぉぉーーーっっ!?」 三蔵は椅子を蹴倒しながら、医師へと詰め寄った。 「こちらが先程のエコー検査で撮影した胎児の写真です」 動かぬ証拠を突き付けられて、三蔵は呆然と写真を眺める。 その時クイッと袂を引っ張られた。 「なーなー、三蔵。おめでたって何??」 悟空一人状況が分からず、小さく首を傾げている。 どう説明すればいいのか三蔵が逡巡していると、医師が悟空に向かってニッコリと笑いかけた。 「おめでたっていうのはね?お腹の中に赤ちゃんが出来たって言うことなんだよ」 「ええっ!?俺のお腹に赤ちゃん!?」 悟空はまん丸く目を見開いたまま三蔵を見上げる。 「本当?ほんとーに俺…赤ちゃんいるの?」 「………らしいな」 驚愕過ぎて表情を無くした三蔵が、ボソリと呟いた。 たちまち悟空の顔が不安で曇る。 三蔵の袂を握り締めたまま俯いてしまった。 「三蔵…迷惑だよね…子供好きじゃないって言ってたし…でも俺産みたいからっ!三蔵に迷惑かけないように…俺どっかに行って…」 「…バカか?お前」 三蔵は震える悟空の身体をしっかりと抱き締める。 「俺とお前の子供なんだろうが。勝手にどっか行くなんて許さねー」 「さんぞぉ…っ!」 三蔵の腕の中で悟空は堰を切ったように泣きじゃくった。 まさか自分までもがこんな目に遭おうとは。 諦めの溜息を吐きながら、三蔵は淡い笑みを口端に浮かべた。 「さぁ、我が家に帰ってきましたよ〜♪」 悟浄は我が子共々、退院して家へと戻ってきた。 八戒が荷物を運んでる中、悟浄は子供を抱えてソファへと座る。 子供は翡翠色の大きな瞳を瞬かせて、キョロキョロと室内を見回していた。 産まれてきた子供は顔立ちが悟浄似で、髪と瞳の色は八戒似だ。 鞄から荷物を出していると、ふいに子供が盛大に泣き声を上げる。 「あーっ!八戒〜っっ!おしめっ!『悟能』お漏らししてるっ!!」 「えーっと…そこのクロゼットの中に紙おむつ入ってますから!」 「ココ?あ、あったあった!」 悟浄は子供をソファへと寝かすと、テキパキとおしめの取り替えを始めた。 「随分と慣れましたよねぇ〜。もう僕よりも上手いんじゃないですか?」 「そりゃぁ、美人な看護婦さんにスパルタ特訓してもらったもんよっ!」 「…美人の看護婦さん?」 八戒の耳がピクリと反応する。 「いやっ!だからっ!えっとぉ〜」 悟浄は盛大に冷や汗を掻きながら、ソワソワと視線を泳がせた。 これ見よがしに八戒が盛大な溜息を吐く。 「悟浄?貴方分かってるかと思いますけど…」 「分かってるって…コイツのママだもんなぁ〜。どうせ看護婦さんの誰からも、全然相手にされなかったよ〜だ」 ブツブツとふて腐れながら、悟浄は我が子のおしめを取り替えた。 「ほい、完成!悟能〜スッキリしたろ?」 勢いよく抱え上げると、子供はキャッキャッとご機嫌ではしゃぐ。 その仲睦まじい様子に微笑みながら、八戒は荷物の整理を再開した。 「悟浄、この子の名前ですけど…」 八戒は本屋で買った大量の姓名判断やら名付けの本を、いそいそと病室へ持ってきた。 食事を終えてお茶を飲んでいた悟浄は小さく肩を竦める。 「八戒には悪いんだけどさ。俺もう決めちゃってるの」 「………え?」 八戒は驚いて瞳を見開いた。 「男だって分かってさ…もう絶対コレって決めたんだ」 「それって…どんな名前なんですか?」 「ん?『悟能』だよ」 「え………」 八戒の瞳が困惑で揺れる。 かつての、捨ててしまった自分の名前。 「名前ってさ、大切だと思うんだよな。『悟能』だって、お前が19年間生きてきた証なんだからさ。だったら…」 悟浄は腕に抱いた我が子をじっと眺める。 「だったらもう1度…初めから『悟能』に歩ませてやりたいなって。イヤか?」 八戒を伺いながら悟浄は真っ直ぐに見つめてきた。 本当に…この人には。 一体何度救われるんだろう。 八戒は愛しい人達を、その腕にしっかりと抱き締める。 「………八戒?」 「幸せになりましょうね、悟浄」 悟浄の肩口に顔を埋めた八戒が、震える声で囁いた。 ふっと悟浄の頬に柔らかい微笑みが浮かぶ。 「おう。絶対幸せにしろよ?そしたら俺がお前のこと幸せにしてやっから」 「誠心誠意、一生努力させて頂きます」 八戒は顔を上げると、泣きそうに微笑みながら悟浄へと口付けた。 ベビーベッドに子供を寝かせると、八戒がダイニングから声を掛けてくる。 「悟浄、お茶にしましょうか」 「あれ?もうそんな時間??」 ふと時計を見ると3時を過ぎていた。 テーブルの上には八戒お手製ラズベリーのカップケーキとダージリンセカンドティー。 カップケーキに齧り付きつつ、悟浄がふと視線を八戒へと向ける。 「どうしました?口に合いませんでした??」 カップに口を付けながら、八戒が小さく首を傾げる。 「あ、いや…ケーキは旨いんだけどさ。そういや悟空って結局どうしたんだ?」 悟浄の出産の日に具合が悪くなったと聞いてから、悟空は1度も病室へ顔を見せなかった。 子供のことでバタバタしてたのですっかり忘れてたのが、ふと菓子を口にして思い出したのだ。 すると、八戒は何だか複雑そうな笑みを浮かべている。 「何?アイツそんなに具合悪ぃの?」 「いえ…今はちょっと辛いみたいですねぇ…3ヶ月ですから」 「は?何が3ヶ月??」 「悟空なんですが…妊娠しちゃったみたいなんですよ♪」 「はあぁぁ〜っ!?」 悟浄が裏返った声で驚きの叫びを上げた。 「ですから、つわりが酷いらしくって…三蔵なんか悟空がご飯を食べないモンですからオロオロしちゃって、面白いですよ〜♪」 「面白いって…」 八戒の楽しげな悪魔の微笑みに、悟浄は唖然としてしまう。 天を仰ぎながら思いっきり三蔵に同情した。 「まぁ、悟空も初めてで心細いでしょうから、様子見に行って上げませんとね」 「だな…悟空もだけど、三蔵なんか全然役に立ちそうもねーし」 「なので、うちにあった『たまごくらぶ』をとりあえず寺院の方へ送って上げました♪」 『たまごくらぶ』を真剣な表情で熟読する三蔵。 想像して悟浄は思いっきり噴きだした。 八戒もニコニコと微笑んでいる。 「ったく…人が悪ぃよなぁ〜お前って」 ゲラゲラと腹を抱えて悟浄が爆笑した。 「いえいえ、何事も基礎知識は必要ですからね」 「そうだけどさぁ…」 涙目になって咽せながら悟浄が視線をずらすと、テーブル横のマガジンラックの中に、悟浄宅にはありえない不審なモノが目に付く。 …何でうちに『ゼクシィ』が号揃いで置いてあるんだ? しかも所々のページに折り目なんかつけてるし。 一気に悟浄の身体からイヤな汗が噴き出してくる。 ギクシャクと視線をそこから引き剥がすと、視界の先には満面の笑顔。 「やっぱり男としてきちんとケジメはつけないとなぁ〜ってvvv」 ケジメ?ケジメって何?? 悟浄が硬直していると、八戒がウットリと悟浄を見つめる。 「やっぱり…悟浄だったら白チャイナよりもウェディングドレスかなぁー…」 俺にウエディングドレス着せる気かっ!? 「あ、でもサイズが無いから結局オーダーですし。可愛いデザインを考えましょうね〜悟浄♪…あれ?悟浄??」 何の反応も示さない悟浄に、八戒はそっと顔を覗き込んだ。 悟浄はカップケーキを握り締めたまま気絶していた。 |
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