Next Meaningful X'mas

麗らかな天界の昼下がり。

ぱたぱたぱた…

軽快な足音が長い回廊を走り抜けていった。
「天ちゃーん!」
元気一杯な声と共に、扉が壊れる勢いで開かれる。
「いらっしゃい、悟空。どうでしたか?昨日の絵本は」
ニッコリと微笑みながらこの部屋の主―――天蓬が、積み上がった本柱の間から手招きをした。
悟空は嬉しそうに笑うと、天蓬が座り込んでいるソファの前へと近付く。
「すっげー面白かったっ!あの赤いじーさん、すげーな!!」
昨日天蓬から借りた絵本の主人公を言ってるらしい。
絵本のタイトルは『サンタクロース』だった。
「あのおじいさんはサンタさんって言いまして、よい子の味方なんですよ〜」
天蓬は傍らに積んであった本から1冊取り上げる。
「はい、これが昨日言ってた続きの絵本ですよ」
「あ、何かどーぶつがいる!この乗り物なに?」
悟空は興味津々に瞳を輝かせながら、その表紙絵に見入った。
「これはトナカイという動物で、お空を飛べるんですよ。そのトナカイにソリという乗り物をつけて、サンタさんは12月25日のクリスマスの日に子供達へのプレゼントを一杯積んで、よい子に会いに行くんです」
「ほぇー…そうなんだぁ」
天蓬の説明に悟空は感嘆の声を漏らす。
更に天蓬は話を続けた。
「子供達は夜寝る前に、ベッドの枕元へ靴下を吊して置くんです。そうすると、よい子にはサンタさんがやってきて、靴下の中にプレゼントを入れてくれるんですよ」
「えっ!ホント!?」
悟空は目をまん丸に見開いて驚いている。
くすっと笑みを零しながら、天蓬が悟空の頭を優しく撫でた。
「悟空もよい子ですからねぇ、きっとサンタさんが来てくれますよ?」
「俺にも来てくれるの!?」
悟空はぱぁっと嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「ええ、サンタさんが来るのは25日のクリスマスの夜なんです。悟空も枕元に靴下を置いておくといいですよ」
ニッコリと天蓬が微笑んだ。
すると悟空は何やら考え始める。
う〜んと唸りながら項垂れてしまった。
「どうしました?悟空」
突然悄気てしまった悟空に、天蓬は首を傾げる。
「天ちゃん…俺、靴下持ってないの」
瞳を潤ませ、今にも泣きそうな顔で悟空が天蓬を見上げた。
一瞬天蓬はきょとんと目を丸くするが、直ぐに笑いながら悟空の頭を撫でる。
「それなら僕のを貸してあげますから大丈夫ですよ」
ちょっと待ってて下さいね、と天蓬は立ち上がり、寝室の方へと歩いていく。
備え付けのクロゼットの中から新しい靴下を手に取り、悟空の所まで戻ってきた。
「はい、大人のですからプレゼントもちゃんと入りますよ」
「ありがとうっ!天ちゃん!!」
全開の笑顔で悟空は嬉しそうに天蓬へ抱きつく。
「悟空は何が貰えますかね〜?何か欲しい物あります?」
ニッコリと天蓬が悟空に笑いかけた。
天蓬に尋ねられ、悟空は首を傾げてしばし考え込む。

欲しい物…何だろう?
友達はナタクがいるし。
綺麗な花はいつだって見れるしなぁ。
おいしいごはんも毎日食べられるし。
遊ぶのもケン兄ちゃんといっぱい遊んでもらえるから。
楽しい絵本も天ちゃんに貸して貰える。
あとは…

なかなか欲しい物が思いつかずに、悟空は思いっきり唸ってしまう。
訊いた天蓬もニッコリ笑顔が僅かに引きつる。
『困りましたねぇ…折角悟空が欲しい物をプレゼントにしようと思ったんですけど』
悟空に絵本を貸した時点で、天蓬は密かに計画を立てていた。
自分と捲簾がサンタになって悟空へプレゼントを贈ろうと。
まぁ、オプション計画の方には、金蝉も巻き込む予定になっているのだが。
そんな訳で、船が計画に乗り出す前に座礁してしまう訳にはいかない。
「じゃぁ、言い方を変えましょうか。悟空が貰って嬉しい物はなんですか?」
「うれしいもの?」
小さく首を傾げて悟空が天蓬の言葉を反芻した。
「んとね?お菓子っ!!」
今まで食べたことのある色々なお菓子を思い出しているのか、悟空は幸せそうに微笑む。
ついでに味も思い出したのか、口元からはタラリと涎が。
「そうですか…じゃぁ、いっぱいお菓子が貰えるといいですねぇ」
天蓬は苦笑しながら悟空の口元をハンカチで拭う。
折角下界へ行くのだから、クリスマスならではのお菓子を買ってこようと、天蓬は考えた。
「あとねっ!金蝉にチュウしてもらうと、何かココがぽわんって暖かくなって嬉しいの!」
「…はい?」
悟空は恥ずかしそうに頬を紅潮させながら、自分の胸を小さな掌で押さえる。
その笑顔は本当に幸せそうで…
『これだけ無邪気に悟空に想って貰えて…金蝉が羨ましいですねぇ』
ふと此処には居ない、傍若無人で全然素直じゃない自分の情人を思い浮かべた。
『まぁ、そこが捲簾の可愛いところなんですけど』
ふっと天蓬は鮮やかな笑みを零す。
「…天ちゃん?どうしたの??」
悟空は目を大きく見開いて、天蓬を不思議そうに見上げている。
ついつい、自分の世界に入ってしまっていた様だ。
「あ、すみませんね〜。ちょっと呆けてしまいました」
ニッコリ微笑むと、天蓬は悟空の頭を撫でる。
「何かいいことあったの?」
天蓬をじっと見つめながら悟空が首を小さく傾げた。
「え…どうしてですか?」
「だって…天ちゃん、すっごく嬉しそうに笑ってたから。ものすご〜っく綺麗に笑ってたよ?」
悟空の言葉に不意を突かれ、天蓬は僅かに頬を紅潮させる。
まさか、悟空に指摘されるとは…。
『僕もダメですねぇ。捲簾のことを考えるとつい…』
鼻から落ちてしまった眼鏡のフレームを指で上げながら、こっそりと苦笑する。
今頃捲簾は、明日の準備に向けて軍本部でバタバタしているだろう。
下界で任務が終われば、後は二人きりで…
そこまで考えて、天蓬はふとあることを思い出した。

そう、明日はクリスマスイヴ。

顎に指を当てながら、天蓬は何やらブツブツと思案し始める。
突然黙り込んでしまった天蓬に、悟空はきょとんとして天蓬を見つめた。
「天ちゃ〜ん!どうしたの?」
悟空は天蓬の白衣を掴むと、クイクイと引っ張る。
それでも暫く考え込んでいたが、ふと視線を悟空へと向けた。
「そうそう、もう一ついいことがあるんですよ〜。忘れてました♪」
「いいこと?なぁに、天ちゃん??」
「25日のクリスマスは子供達の日なんですが、24日にもクリスマスイヴという日がありましてね?」
「くりすますいぶ??」
聞き慣れない言葉に悟空は首を傾げる。
ふと天蓬が悟空へと身体を寄せて、小声で話し始めた。
「実はクリスマスイヴというのはですね…」
まるで秘密の話をコッソリ打ち明けるように声を潜めて、二人して顔を寄せ合う。
そして、暫くすると…

ガチャッ。

顔と言わず全身を真っ赤に染めた悟空が、フラフラと天蓬の部屋から出てきた。
「悟空!気を付けて帰ってくださいね〜」
ニコニコと微笑みながら、天蓬が悟空を見送る。
あれだけ盛大に照れまくってるんじゃ、きっとどこかで落ち着いてから部屋へ戻るだろう。
「本当にいつまでも初々しくて、可愛らしいモンですよねぇ」
感心しながらそのまま扉へ寄りかかると、ポケットから煙草を取り出して銜えた。
悟空本来の気質なのか、はたまた金蝉の育て方の賜物なのか。
「さてと。飼い主さんにも根回ししませんと」
のんびりと煙を吐き出すと、天蓬は悟空とは反対の回廊を歩き出す。
「…楽しみですねぇ」
天蓬はひっそり微笑むと小さく肩を震わせながら、金蝉の執務室を目指した。






「随分と今日は進んだな…」
残りの未決書類を眺めて、金蝉はひとりごちた。
この分なら夕方まではかからないだろう。
金蝉は背凭れに身体を預けて、疲れた目を閉じた。
いつもはうるさくまとわりつく悟空が今日は来ていない。
悟空が大騒ぎする騒音と仕事が進まないイライラとで、頭痛がしない日はないのだが。
「こうも静かすぎると調子狂うな…チッ」
目の届くところに悟空が居ないなら居ないで、結局はイライラとしてしまう。

俺も大分湧いてんな…。

しかしそれは金蝉にとって不快なことではなくて。
ふと、物思いに耽りそうになった時、遠慮がちに扉がノックされた。
返事を返す前に扉が開かれる。
「ご機嫌いかがですか〜?」
ニッコリ笑顔で入ってきたのは、油断ならない既知の友人。
不作法に銜え煙草のまま、天蓬がズカズカと金蝉の元まで歩み寄った。
「…何の用だ」
思いっきり仏頂面で金蝉がこれ見よがしに溜息を零す。
またロクでもないコト考えてるんじゃないかと、毎回被害を被っている金蝉の眉が顰められた。
「やだなぁ。そんな嬉しそうに熱烈歓迎してくれなくても♪」
「…お前の目は節穴か?」
心底呆れて金蝉が天蓬を睨み付ける。
しかし、天蓬の方もそんな金蝉の態度には慣れているので、気にもせずに相変わらずニコニコ笑顔のまま。
「さっさと用件を言え。フラフラしてるお前と違って俺は忙しいんだよ」
このままでは埒が空かないと、金蝉は天蓬を即した。
「ちょっとお尋ねしますけど、明日が何の日か金蝉ご存じですか?」
「…明日ぁ?」
天蓬に言われて頭を巡らせるが、これといって何も思い浮かばない。
「そうですか…ご存じないんですね?ふーん…」
勿体ぶった天蓬の言い方に、金蝉の額にピキッと血管が浮かんだ。
物知らずと揶揄されているようで腹が立つ。
「だから、明日が何だっていうんだよ」
不機嫌全開で天蓬を睨みながら、金蝉が天蓬へ問い質した。
「明日はですね、下界でクリスマスイヴという日なんです」
「………クリスマスイヴ?」
始めて聞く言葉だ。
しかも下界の暦など金蝉は関心も興味もない。
「それがどうした。俺には関係な――――」
「あれ?金蝉は関係ないんですか?そうですか…悟空は楽しみにしているようですけど」
金蝉が言い終わるのを遮って、天蓬は大げさに溜息をついて見せた。
『悟空』と聞いて、金蝉の眉がピクッと動く。
誤魔化すように金蝉がコホンと一つ咳払いをした。
「で?何だ…そのクリスマスイヴというのは」
「金蝉は関係ないのでしょう?でしたら悟空には僕と捲簾でクリスマスの時にお祝いしますから」
「お祝い?それにイヴが付くのと付かないのとどう違うってんだ?」
「おや?結構鋭いですねぇ」
これ見よがしに天蓬が驚いた素振りで肩を竦める。
「うるせー。さっさと吐きやがれ」
イライラと金蝉の声音に棘が入った。
天蓬は煙草を銜えると火を点け、すっと一息吸い込んでから説明を始める。
「クリスマスイヴというのは…まぁ、由来はこの際どうでもいいので割愛しますけど、下界での慣習は恋人達がロマンティックにラブラブで過ごす日のことです」
「…恋人がラブラブ?」
天蓬の説明に金蝉が過剰反応した。
「ええ、大義名分なく!恋人達が甘〜い1日を過ごす日なんです♪」
「…ちょっと待て」
そこまで話を聞いて、金蝉の眉間に皺が寄る。
「ソレを悟空が楽しみにしてるって言うのか!?」
「そうですよ」
あっさりと天蓬が言い切った。
困惑で金蝉の瞳がそわそわと落ち着かなく揺れる。
「ちなみに、クリスマスの方は家族や親しい友人達とオイシイ物を食べて楽しく過ごすそうです。伝説の人物でサンタクロースという老人がいるそうで、枕元に靴下を置いておくと子供達のが寝ている間にやってきて、プレゼントを贈ってくれるという言い伝えがあるんですよ。まぁあくまでも伝説ですから、実際は親が代わりにプレゼントを置くんですけどね」
懇切丁寧に天蓬が解説している間も、金蝉の脳裏には『ラブラブ』と言う言葉がグルグル渦巻いていたが、ふと気づく。
「おい、悟空はクリスマスの方を楽しみにしてるんじゃねーのか?」
自分で言いながらも金蝉はムスッと不機嫌になった。
オイシイ物を食べて楽しく過ごせると聞いて、悟空が喜ばない訳がない。
「いえ。悟空にはイヴの説明しかしてませんから」
天蓬はニッコリと楽しげに頬笑んだ。
「クリスマスの方はさっき悟空に渡した絵本を見れば分かるはずですし、僕と捲簾は明日任務で下界へ行きますから、悟空へのクリスマスプレゼントを買ってサンタクロースの代わりになろうかと思ってるんです」
「何だ、下界に行くのか」
「ええ。イヴを捲簾とラブラブに過ごそうかと思いましてvvv」
「…任務じゃねーのか?」
額を抑えながら金蝉は思いっきり呆れ返る。
こうもタイミングが良すぎると、任務も偶然じゃなく天蓬の策略に思えてならなかった。
「そういう訳ですから、金蝉もクリスマスの日はみんなでパーティしますので、ちゃんと予定開けておいて下さいね」
「おい、まさかそのクリスマスパーティを…」
「悟空の為、ですよvvv」
「………。」
冗談じゃねーと口にする前に、先手を打たれて金蝉はグッと口を噤む。
勝手に持ち込んだ灰皿に吸い殻を置いて、天蓬が満面の笑みを浮かべた。
「もちろん、イヴをどう過ごすかは…貴方次第ですよ、金蝉」
サッと金蝉の頬に朱が散る。
「ちゃんと、悟空はイヴがどんな日か分かってますからね」
金蝉の瞳が見開かれた。
驚いた様子の金蝉へ、天蓬は頬笑み返す。
「それじゃ、僕も明日の用意がありますから」
ヒラヒラと手を振りながら来た時と同様に、天蓬は金蝉の返事も聞かずに退室した。
扉が閉まって、金蝉が一人残される。
金蝉は小さく溜息をついて、椅子へと身体を沈めた。
「だからって…どうしろって言うんだ」
明日は愛しい恋人と一緒に過ごす日。
天井を仰ぎながら、金蝉は静かに目を閉じた。






金蝉の煩悶など無関係に翌日はやってきた。
クリスマスイヴの当日。
努めて気にしないようにしてはいるが、仕事をしていてもつい手が止まってしまう。
朝起きてから今まで、いつもと変わらない日常。
悟空も朝食を取ると、元気に遊びへと出かけていった。
今日は天蓬と捲簾がいないから、菩薩のところで遊んでくるらしい。
「…サルも忘れてんじゃねーか」
それはそれで何だか面白くなかった。
まるで自分だけがこうしてソワソワと浮かれているようで。
「馬鹿馬鹿しい…」
緩く頭を振ると、金蝉は書類を睨み付けながら仕事を再開した。
そうして粗方仕事進めて、もう少しで終わると言う頃。
ふと時間をみると3時を過ぎていた。
いつもはバタバタとおやつの時間に駆け込んでくるはずの悟空が戻ってきていない。
今日は菩薩の所へ行っているので、向こうで貰ったのだろうか。
ざっと片づけた書類に目を通して確認すると、机の端に纏めて束ねる。
一息いれようと立ち上がって扉へ視線を向けると、小さく開いた隙間から大きな金目がコッソリと覗き込んでいた。
「…何やってんだ?お前」
呆れながら声を掛けると、更に少しだけ扉が開いて悟空が顔だけ出す。
「金蝉、お仕事終わった?」
小さく首を傾げながら、悟空が金蝉をじっと見つめた。
ドクンといきなり心臓が高鳴るが、平静を装って金蝉が頷く。
「今終わったところだ。ババァの所でおやつ食ってきたのか?」
「ううん。お姉ちゃんトコでお昼ご飯食べてから、ずっとおっきな方の庭にいたから」
珍しいこともあるモンだ。
3度の食事と3時のおやつを何よりも楽しみにしている悟空が、おやつを食べずにいたなんて。
金蝉は驚いて目を見開く。
「…なら腹減ってるだろ。今用意させるから」
金蝉が扉へ近づくと、悟空が勢いよく飛び込んできた。
そのままの勢いで金蝉の腰へとギュッとしがみつく。
「…何だ?」
「あのっ…あのさ、コレッ!」
金蝉の目の前に差し出された、白い可憐な花束。
真っ赤な顔で悟空が金蝉を見上げている。
「どうしたんだ…コレ」
金蝉が悟空から花束を受け取った。
ずっと庭でこの花を摘んでいたのだろうか。
何の為に?
「えとね?…天ちゃんに訊いたんだけど、今日は大好きな人にプレゼント上げる日だって。でも俺金蝉に上げられる物なんか持ってないから、この花いっぱい採ってきたの。金蝉みたいに白くて綺麗だろ?」
「悟空…」
自分のことを想いながら花を摘んだと聞いて、金蝉の顔に自然と笑みが浮かぶ。
その笑顔を見て、悟空は嬉しそうに金蝉へと抱きついた。
「ねっねっ!金蝉、喜んでくれた?」
ドキドキしながら、悟空は一生懸命金蝉を見上げる。
金蝉は口端に笑みを刻んだまま、悟空の大地色の髪を応えるように優しく撫でた。
「早く水に挿してやらねーとな…折角綺麗に咲いてるんだから」
「俺、水持ってくる!」
悟空は大急ぎでバタバタと部屋を出ていく。
「おい、転ぶんじゃねーぞ…って、もう聞こえねーか」
誰もいない室内で金蝉は誰も見たことがない程、楽しそうに声を出して笑った。






悟空の飾った純白の花が、窓から入り込む空気に小さく揺れる。
おやつを食べた後、金蝉はソファに身体を横たえて新聞を読み、悟空はその傍らで床に座り込みながら絵本を眺めていた。
「ねー、金蝉?」
悟空が金蝉の袖を遠慮がちに引っ張りながら呼ぶ。
新聞から視線を上げて、金蝉は悟空を見下ろした。
「何だ?読めねー字でもあったか?」
「ううん、そうじゃなくって…あのね?」
悟空は俯くと、もじもじと身体を揺らす。
なかなか先を言い出さない悟空に、金蝉は訳が分からず眉を顰めた。
「何なんだよ、一体」
じぃっと俯いていた悟空が、姿勢を正しペタンと床へ座り直して真っ直ぐに金蝉を見つめる。
「金蝉はさ…クリスマスイヴって知ってる?」
「クリスマスイヴ…か?」
金蝉が小さく肩を竦めると、悟空は一瞬表情を曇らせて視線を落とした。
「ううん…知らないならいいんだ」
無理矢理笑顔を作ってぎこちなく金蝉へ笑ってみせるが、すぐにシュンと残念そうに俯く。
「クリスマスイヴ…悟空は俺と過ごしたいのか?」
「…え?」
金蝉の声に悟空が驚いて顔を上げた。
目の前には見惚れるほど優しく微笑む金蝉が居る。
すっと掌が近付いて、悟空の頬を優しく撫でた。
唐突に恥ずかしくなって悟空は真っ赤に頬を染めてギュッと目を瞑る。
金蝉は身体を起こすと、悟空をソファの上へと引っ張り上げた。
太腿へ悟空が乗り上げる形になり、唇が触れる程間近で向き合う。
「お前は…俺以外のヤツと今日を過ごしたいのか?」
金蝉は囁くように呟くと、そっと悟空の唇へと口付けた。
悟空は首まで紅潮させたままじっと金蝉を見つめて、自分からもちょこんと唇で触れる。
「だって…天ちゃんがクリスマスイヴは一番大好きな人と、いっぱい仲良くいられる日だってゆってたよ?俺は金蝉が一番大好きだから…金蝉と一緒に居たい」
拙いながらも一生懸命言葉で想いを伝えると、悟空は強く金蝉の首にしがみ付いた。
金蝉も悟空の背中を撫でながら、抱き締め返す。
「ずっと、一緒にか?」
「うんっ!ずっとずっと金蝉と一緒だよ」
クスクスと二人でくすぐったそうに笑い合いながら、互いを確かめるように指で…唇で、心で触れ合った。