Next Meaningful X'mas

翌日のクリスマス。

大きめの手荷物と共に下界から帰還した二人は本部で報告を済ませ、とりあえず天蓬の部屋へと落ち着く。
これからの予定を確認するためだ。
天蓬の作戦によると、今夜これから金蝉の自室へと赴いて、悟空のためにクリスマスパーティを開くらしい。
前もって金蝉にも話を通し、金蝉と天蓬の部屋付きの従者にも指示を出して準備を進めているということだ。
さすが天蓬。
その辺りは卒無く手際が良い。
「そしてパーティの後、ココからが肝心なんですよ!」
「あ?メシ食って酒飲んで大騒ぎして『あ〜楽しかった♪』でお終いじゃねーの?」
クリスマスとはそういうもんだと、昨日下界で天蓬から聞かされている。
「それもありますが、メインイベントは違うんですよ」
「…メインイベントぉ?何じゃそりゃ」
大袈裟に勿体ぶった天蓬に、捲簾は眉を上げた。
「クリスマスはですね?自分たちの大切な子供達のために、ちょっとしたイベントがあるんですよ」
天蓬は前に金蝉にしたのと同じ説明を捲簾へ教えた。
「ふんふん、成る程。要するにだ!俺たちがそのサンタのじいさんになって、悟空へプレゼントを渡してビックリさせるってー訳だな?」
「ええ。でも、正確にはサンタになるのは捲簾ですけどね」
「はぁ!?何で俺だけ??」
「だって、サンタの扮装って独特ですから、捲簾ぐらいしか似合いませんもん」
きっぱりと天蓬が言い切る。
金蝉や天蓬には似合わなくて、自分にはバッチグーな扮装?
一体どーいうんだよ?
「どーせね〜、俺はお前や金蝉みてぇに、おキレーじゃございませんから?」
何となく不機嫌になって捲簾が拗ねた。
「ヤダなぁ〜、捲簾ってば。問題は色なんですよ」
「は?色??」
天蓬の言わんとしていることが分からず、はて?と首を傾げる。
「サンタのイメージカラーっていうのがですねぇ…真っ赤なんですよ」
天蓬は下界から持って帰ってきた荷物から、大きな袋を選んでゴソゴソと探り出した。
そこから出てきたのは…
「ほら、コレがサンタさんの衣装なんですよ〜♪」
「………うげ」
天蓬の引っ張り出した衣装を見て、捲簾は思わず目を見張った。
目も覚めるような真っ赤なコートに、ホワホワの白い毛が所々ポイントに飾られている。
同じデザインで三角帽子まで。
確かに此処まで派手で奇抜だと、金蝉や天蓬では浮きまくり間違いない。
「これを…俺に着ろって?」
捲簾の頬がヒクリと引きつった。
ズイッと衣装を差し出して、天蓬がニッコリと微笑む。
「コレも全て悟空の為なんですよ?捲簾だって悟空が喜ぶトコロみたいでしょう?」
天蓬は捲簾が断れないと知りながら、思いっきり核心を突いてダメ押しをした。
ガックリと捲簾は項垂れる。
それでも溜息が零れてしまうのぐらいは見逃して欲しい。
とりあえず捲簾はサイズ合わせと称して、試着してみたのだが。
「おい、本当にこんな格好でいいのか?」
「はい。もの凄く似合っていますよvvv」
ウットリと天蓬はご満悦な表情で捲簾を見つめる。
「…何かコレ違わねーか?」
胡散臭げに捲簾が天蓬へと視線を向ける。
「いやぁ、まさかここまで似合ってしまうなんて…さすが捲簾ですね♪」
浮かれる天蓬にますます怪しげに眉を顰めて、捲簾は自分の姿を今一度確認した。
真っ赤なコートに純白な毛がポイントになっていて、腰がベルトで切り替えになっている。
頭にはボンボンのついた三角帽子。
足下は黒い皮の膝丈ロングブーツ…それだけだった。
「何か足りなくねーかぁ?何でズボンがねー訳?じいさんのミニスカート姿なんか普通ナシだろう!?」
そう、捲簾の着ているサンタ衣装には、あるべきハズのズボンがなかった。
腰をベルトで切り替えた衣装は、まるで膝丈ワンピースを着ている様。
もちろん、天蓬の趣味だった。
「そういうもんですよ?だって僕は絵本で見てるんですから」
「…その絵本、俺にも見せろ」
さすがに不審に思って、捲簾は天蓬に要求する。
「あ、残念ですねぇ〜♪昨日の朝、出がけに悟空へ渡してしまってるんですよ」
捲簾の言いそうなことなど百も承知なので、天蓬は殊更申し訳なさそうに手を合わせた。
「そっか…んじゃ、仕方ねーけど」
何となく腑に落ちなくて首を捻りながら、捲簾は姿見に映してみる。
どうみたって女装してるようにしか見えなかった。
「うわっ…何コレ」
げんなりと捲簾が嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「その衣装で、このプレゼントの入った白い布袋を持って、サンタさんが登場するんですよ」
捲簾の背後から首を出して、鏡越しに天蓬が微笑んだ。
「まぁ、クリスマスの主役!ですからね〜」
「…主役?」
捲簾がピクッと反応する。
目立つことと騒ぐこと大好きな捲簾は、主役と言われてグラッと好奇心が刺激された。
「そうですよ、クリスマスと言えばサンタ!主役のサンタさんがいなければクリスマスなんてアルコールの抜けたお酒みたいなもんですよ♪」
「そ、そっか〜?」
天蓬はジワジワと言葉巧みに捲簾の自尊心を持ち上げる。
「今日のクリスマスは捲簾に掛かってますね!」
ニッコリ笑顔でもう一押し。
「よぉーっし!俺に任せとけ!!」
腰に手を当てて捲簾がふんぞり返った。
「じゃ、とりあえず着替えて…パーティ後、悟空が眠ってからが本番ですからね」
「おうっ!」
気合い十分な捲簾の姿を眺めつつ、天蓬は『ホント…捲簾ってば可愛いですよねぇ、こんな簡単にダマされちゃって』と捲簾が聞いたら激怒しそうなことを考えている。
後で写真でも撮っておきましょうか、などと天蓬はひそかにほくそ笑んだ。
「ほんじゃぁ、とりあえず着替えを…」
本の柱に無造作に掛けて置いた軍服に、捲簾が手を伸ばす。
取り上げた途端、裾が引っかかって本柱が一気に崩れ落ちた。
「うわわっ!あーもぅ、メンドくせぇな」
捲簾は何の気無しにいつも通りに本を拾い上げようと、立った体勢のまま長身を屈める。
しかし、格好が普通じゃなかったのを、すっかり忘れていた。

ひらり。

勢いよく屈んだせいで、スカートの裾が派手に翻る。
それも天蓬の目の前で。
捲簾の引き締まった小さめの臀部が、天蓬へと突き出される格好となった。
天蓬の目の前に、毎日でも愛でていたい絶品のお尻が。
「まったく…天蓬!本を高く積み重ねるのやめろよなぁ。しっかしこの服スカスカして寒ぃなぁ〜」
ブツブツと捲簾が小言を言いながら、テキパキと本を拾い上げ始めた。
その動作に合わせて、天蓬の目の前に突き出されたままの臀部が誘うように揺らされて。

ゴクッ。

天蓬の喉が大きく鳴った。
背後から立ち込める不穏な空気に、捲簾の肩がピクリと動く。
一瞬動作を止めて、恐る恐る背後を振り返った。
そこにはニッコリ頬笑んだ極上美人。
しかし、瞳が全く笑っていない。
「お…おい?てんぽー??」
捲簾の背筋に悪寒が走る。
一気に冷たい汗が噴き出してきた。
「けんれ〜んっvvv」
「どわっ!?」
突然天蓬が背後から突進してくる。
不意を突かれて捲簾は前方へと倒れ込んだ。
「いってぇ…」
とっさに腕を付いて身体を支えたが、肘を思いっきり打ち付けてしまう。
痛さに気を取られているうちに、天蓬がいきなり後ろから下着をズルッと引きずり下ろした。
「へ?ちょっ…おいてんぽっ!?」
捲簾は慌てて振り返るが、あまりの早業に抵抗するのが遅れてしまう。
ズボンを穿いていないせいで、呆気ない程無防備になっていた。
「可愛く誘われちゃってる様なので、エンリョなく頂きますvvv」
「なっ!?」
捲簾が文句を言おうと口を開く前に、天蓬は前に回した掌で露わになった肉芯を握り締める。
「ちょっ…待て待てっ!」
焦って捲簾は天蓬の腕を掴んで止めた。
だが天蓬の方はそんなことはお構いなしに、捲簾をソノ気にさせようと淫らに指を蠢かし始める。
「やっ…あ…やめ…っ」
ビクビクと身体を震わせながら、どうにか逃げようと藻掻くが背後から押さえつけられては逃げ出すことも出来なかった。
「あ、そうそう。捲簾、衣装汚したりしたらダメですよ?そんなことしたら…たっぷりとお仕置きしちゃいますからねvvv」
「だったら、今すぐやめやがれーーーーーっっ!!!」
叫んだところで聞き入れて貰える訳もなく、捲簾は我が身の不運を呪った。






「うわぁ!金蝉、今日はすげーごちそうだな!」
悟空は涎を垂らしながら感嘆の声を上げている。
「今日はクリスマス…らしいからな」
金蝉の知らぬ間に天蓬によってお膳立てされていた。
相変わらず根回しの良さに、金蝉は小さく溜息を漏らす。
それでも悟空がこんなに喜んで居るんだから、まぁヨシとしよう。
「ねね?コレいつ食べていーの??」
悟空は瞳をキラキラと輝かせながら金蝉を見上げた。
「もう少ししたら天蓬と捲簾もくるはずだ」
「じゃぁ天ちゃんとケン兄ちゃんが来たら食べてもいーんだ?」
「ああ。もう少し絵本でも読んで待ってろ」
先程まで読んでいた絵本が、床の上に開かれたままになっている。
チラッと悟空は振り返るが、すぐに視線を金蝉へと戻した。
「んー…絵本はいいや。金蝉といっぱい話がしたいなvvv」
ニッコリと悟空が頬笑む。
金蝉はわずかに目を見開くが、すぐに視線を和ませて悟空を抱き寄せた。
何気ない言葉だけでこんなにも幸せになれるなんて、悟空に出会わなければ一生知ることがなかっただろう。
金蝉が悟空と一緒にソファの方へ移動しようとすると、回廊から賑やかな話し声が聞こえてきた。
「あっ!天ちゃんとケン兄ちゃんだ♪」
ぱっと笑顔になると、悟空はパタパタと扉へ向かって走り出す。
絶妙なタイミングで邪魔をされた金蝉は、途端にムッと不機嫌全開で顔を顰めた。
「おかえり〜♪」
「はい、ただいま」
先に現れた天蓬が、悟空の頭を優しく撫でる。
少し遅れてヨロヨロと捲簾も顔を出した。
「ケン兄ちゃんもおかえりー…どうしたの?ケン兄ちゃん」
悟空は小さく首を傾げる。
何だか捲簾の歩き方がぎこちない。
「あー、ちょっとなぁ」
悟空の頭をポンッと叩きながら、横目で思いっきり天蓬を睨んだ。
天蓬は知らん顔で手に持った袋を悟空へと渡す。
「はい、おみやげですよ」
「わぁいっ!天ちゃんありがとう♪」
嬉しそうに悟空が袋を受け取った。
「今回はお絵かきセットにしました。いっぱい色の入ったクレヨンが欲しいって悟空が言ってたので」
「ほんと?やった〜っ!」
袋を持って悟空は金蝉の元へ走ってきた。
「ねねっ!コレ天ちゃんに貰った」
悟空はニコニコと金蝉を見上げる。
「…よかったな」
「うんっ!」
ぎゅっと悟空は金蝉に抱きついた。
その背中を金蝉はポンポンと叩く。
「…何だか仲良しさんじゃねー?」
「さぞかし昨日のイヴに親交を暖めたんでしょうねぇ」
「暖めたっつーよりは灼熱?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら天蓬と捲簾は、聞こえる程の小声で金蝉をからかった。
「ボソボソしゃべってんじゃねーっ!で?これからどーすんだ?」
額に青筋を浮かべながら、不遜な態度で天蓬を伺う。
他の手荷物を部屋の隅へと置いて、天蓬がテーブルの上を確認した。
「おや、準備は大分整ってるようですね。後はケーキが来るだけかな?」
丁度その時扉がノックされて、従者が大きなケーキを運んできた。
「うわぁ…すっげーおいしそう…」
初めて見る大きなケーキに、悟空は瞳を輝かせて感動する。
悟空の様子に天蓬はニッコリと満足そうに頬笑んだ。
「これは全部悟空のですからね」
「ほんと?天ちゃん!?」
「ええ、甘い物大好きなのは悟空ぐらい…おや?金蝉も好きでしたっけね。じゃぁ、仕方ないですからちょっとだけ食べてもいいです」
天蓬の言い草に、金蝉の眉が跳ね上がる。
保護者と保父さんの悟空甘やかし対決が始まった。
捲簾はと言えば、我関せず。
触らぬ神に祟りなし。
ハブ対マングースの闘いに巻き込まれたくはない。
すると、

ぐうううぅぅぅ。

一触即発の緊張した雰囲気をブチ破る、間の抜けた音が聞こえた。
「ねー、早く食べたいよぉ〜!!」
悟空の無邪気な明るい声が響き渡る。
先に立ち直ったのは金蝉だった。
「ったく…ほら、さっさと席に着け」
「うんっ!」
悟空の為に椅子を引いてやると、よいしょと悟空がよじ登る。
金蝉が勝ち誇ったように、口端で天蓬へと頬笑んだ。
ピクッと天蓬の頬が引きつる。
背後に逃げていた捲簾はとっさに不穏な空気を察知して、コッソリ天蓬から離れようと忍び足で一歩を踏み出した。

ガシッ!!!

「捲簾、ドコに行く気ですか?さっさと僕達も座りますよ」
全開の笑顔で捲簾の襟首を掴み上げて、ずるずると引き寄せる。
しかし、口元は思いっきり引きつったまま。
「こっ…こえぇ」
「何かおっしゃいましたか?捲簾」
顔は笑いながら怒るという器用な真似をしながら、天蓬は捲簾を無理矢理席に着かせると自分もその隣へ腰を下ろした。
「さて、揃ったことですし始めましょうか?」
「わぁ〜い♪」
こうしてクリスマスの意義を全く無視した大宴会が幕を開けた。






パタン。

「悟空、寝ましたか?」
「ああ…はしゃぎすぎて疲れたんだろう。ぐっすり寝ている」
寝室へと様子を見に行った金蝉が静かに戻ってくる。
コックリと椅子で眠ってしまったお子様を金蝉が寝室へと運んで、暫くは静かに大人達だけで杯を傾けていた。
そろそろ宵も深まった頃合い。
「さて、本日のメインイベントを始めましょうか」
天蓬がニッコリと捲簾へ頬笑んだ。
心底嫌そうに捲簾は眉を顰めるが、しぶしぶと持参していた袋を抱えると、隣室へと消えていく。
「おい、一体何をする気だ?」
一人蚊帳の外の金蝉が天蓬へと問い質した。
「説明しましたでしょう?サンタさんの役目」
「…サンタって。まさか!?」
金蝉の眉間に思いっきり皺が寄る。
「いくら何でも金蝉にサンタになれなんて無謀なこと言いませんよ。そこで、捲簾サンタの登場です♪」
「あ?」
暫くすると着替えの終わった捲簾が、トボトボと戻ってきた。
その姿を目にするや金蝉は思いっきり絶句する。
「おい…何だ?そのふざけた格好は」
「これがサンタの扮装なんだってよ〜」
もの凄い勢いで金蝉が天蓬を振り返るが、天蓬はウットリと捲簾に見惚れていた。
「やはり似合ってますねぇ…ものすっごーく可愛らしいですよvvv」
『可愛い?これのドコが??』
金蝉はズキズキと痛み出した額を思いっきり指で押さえつける。
「それじゃ、捲簾。悟空にプレゼント渡してきて下さいね」
「おうっ!任せろ」
捲簾は張り切って返事を返すと、そっと寝室の扉を開けて入っていった。
「…おい、天蓬」
「はい?何ですか」
ニッコリ笑顔のまま、天蓬が首を傾げる。
「一つ聞くが…悟空は寝入ってるんだから、アイツが扮装する必要なんかないんじゃねーのか?」
「金蝉。それ、捲簾の前で言ったりしたら、遠慮無くはっ倒しますよvvv」
「………。」
天蓬から発する殺気に、金蝉はイヤな汗が噴き出してくる。
こんな時、自分も捲簾も天蓬に言いように振り回されているのを、不本意だが自覚せずには居られない。
金蝉は眉間を押さえながら、深々と溜息をついた。
それでも。
悟空があんなに楽しそうに喜んでたんだから、今回は我慢するか。
金蝉は口元で小さく頬笑む。
しかしソレこそが天蓬の思惑に引っかかっているのだと、金蝉はまるで分かっていなかった。