V.D. battlefield

「…すっげー、八戒コレ買ったみたいだなぁ」
出来上がった小さめのチョコレートケーキを一つづつ八戒が綺麗にラッピングをしていく。
「なぁ、何でこれだけケーキじゃねーの?」
悟空が指さしたモノは丸いトリュフチョコ。
「これは悟浄用なんです。悟浄はチョコレートケーキが苦手なんですよ〜。だからお酒をいっぱい使ったチョコにしたんです」
悟浄をチョコレートケーキ嫌いにしてしまったそもそもの原因には触れることもなく、八戒は全く悪びれずに理由を言う。
「ふーん…おいしいのになぁ」
悟空は深く考えずトリュフチョコを突っついた。
「あ、悟空。この青いリボンの方が三蔵用ですからね?こっちの方は悟浄と同じ様にお酒を多めに入れてあるんです。それでこっちの赤いリボンの方が悟空用です…お寺に戻ってから三蔵と一緒に食べてくださいね」
八戒が説明をしながら紙袋へと箱を収めた。
「八戒ありがとうっ!」
嬉しそうに悟空は八戒へと抱きついた。
「いいえ、どういたしまして」
八戒は微笑みながら悟空の頭を撫でる。
「さ、一生懸命頑張って悟空も疲れたでしょ?昨日焼いたクッキーがありますからお茶にしましょうね」
道具を片づけながら八戒がにっこりと笑う。
「わーいっ!」
悟空は喜びながらぴょんぴょんと跳ねた。
「ちょっと片づけて用意してきますから待ってて下さいね」
八戒がキッチンへと入るのを見送りながら悟空は椅子に座って待つことにする。
ぼんやりしているとギッ、とわずかに軋む音をたてて、玄関の扉が少し開いた。
不思議に思い悟空がテーブル越しに覗き込むと、扉の隙間から悟浄がコッソリと中の様子を伺っている。
「ごじょー、何して…」
『しーっっ!!』
唇に指をあて、必死の形相で悟空に合図した。
「???」
挙動不審な悟浄の様子に悟空はぽけっと呆ける。
「おい、八戒はどこにいる?」
悟浄が小声で悟空に訊ねた。
「八戒ならお茶の用意しにキッチンに行ったけど?」
悟空の言葉に悟浄はあからさまに安堵の表情を浮かべる。
「おっし、今のうちだな」
そーっと音をたてないように扉を開くと、素早く身体を滑り込ませた。
その手には何やら小さめの紙袋が握られている。
「悟浄どーしたんだよ?何コソコソしてんだ??」
悟浄の様子につい悟空も声を潜めてしまう。
「ちょっとな…あっと、いいか?コレのことは八戒には黙ってろよ」
悟浄は手にした紙袋をひょいと持ち上げて見せた。
「それ…何でナイショにすんの?」
悟空は訳が分からず、きょとんと首を傾げる。
「ばーか、ナイショにしておいて八戒を驚かせるんだよ!いいか?ぜってぇ〜言うんじゃねーぞ!?」
いつにない真剣な表情の悟浄に悟空はこくこくと頷いた。
悟空の様子に安堵して、悟浄は静かに部屋を出ていく。
しかしすぐに手ぶらで戻ってきた。
そのまま何食わぬ顔で椅子へと座る。
「そんで、お前の方はどーした?ちゃんと出来たのか?」
悟浄は煙草を銜えるとニヤニヤと悟空を眺める。
「おう!バッチリだよ、八戒が綺麗に包んでくれたらお店で買ったヤツみたくなってさ…三蔵喜んでくれるかなぁ」
幸せそうに悟空が微笑んだ。
「へー、そう。ふぅ〜ん、お前ホントに三蔵が好きなんだな」
からかうような悟浄の言葉に悟空はポッと頬を染める。
「うるさいなーっ!悟浄の方こそ八戒とどーなんだよ!?」
「俺?それはー…ナイショ」
悟浄はそっぽを向いて誤魔化した。
「何だよ、それ!ずりーぞっ!!」
悟空が大声で抗議をして立ち上がった瞬間、
「どーしたんですか、悟空!?…あれ、悟浄?いつ戻ったんですか??」
ダイニングの喧噪に八戒が慌てて顔を見せた。
いつの間にかいる悟浄に八戒が呆気にとられる。
「おう、今帰ってきたトコ〜、俺にもお茶くれよ」
何事もなかったようなフリをして悟浄は八戒に笑いかけた。
「え…あ、はい…もう少し待っててくださいね」
首を捻りながら八戒がキッチンへと戻っていく。
八戒を見送った後、悟空はキッと悟浄を睨み付ける。
「悟浄、八戒のこと泣かしたりしたら俺許さねーかんなっ!」
真剣な悟空の表情に、悟浄は口端を歪めて笑う。
「はいはい、分かってますよ〜」
そう答えるものの内心は、
『それは八戒にこそ言えっつーの!』
と思うが、情けなくってとてもじゃないが口には出せない悟浄だった。