Attraction Garden


「…捲簾、大丈夫ですか〜?」
「んー…へ〜きぃ〜♪」

捲簾はすっかり上機嫌で、緩みきった笑顔を天蓬に向けた。
瞳は潤んで、頬も僅かに紅潮している。
たわいもない話をしながら天蓬のペースに合わせて飲んで、次々とグラスを空けていった。
大概捲簾もザルの部類なのだが、天蓬の酒量は遙かに上回る。
ザルと言うよりはワクだ。
微酔い加減の捲簾に対して、天蓬の顔色は少しも変わっていない。
時刻はいつの間にか11時を回っていた。
店内の客も、捲簾達を入れて数組に減っている。
フワフワと酔いで視線を泳がせている捲簾を、天蓬は楽しげに眺めた。
「もぅ…少し赤くなってますよ?お水でも貰いましょうか?」
「え?全然大丈夫だって〜。ちょぉーっと気持ちいいけど?天蓬って酒強いよなぁ〜」
「そうですか?僕はあまり飲むことがないので、よく分からないんですけど」
「強いって。俺ってば結構飲むし、そうそう酔うこともねーんだけどさぁ〜。天蓬全然酔ってねーじゃん」
捲簾は何が楽しいのかニコニコ笑いながら、上目遣いに天蓬の瞳を覗き込む。
ふいに綺麗な指先が捲簾の頬を撫でた。
「ダメですよ?そんな可愛い顔しちゃ…無防備すぎます」
「え〜?何でぇ?だって天蓬と一緒で楽しいんだもぉ〜ん♪」
頬に触れている天蓬の手を、捲簾が両手で包み込む。
引き寄せると、掌に頬擦りした。
「あー天蓬の手、冷たくって気持ちいー…」
溜息混じりに捲簾がウットリ呟く。
天蓬の鼓動がドクンと跳ね上がった。
身体中の熱が一気に上昇する。
手を取られたまま動けずにいると、捲簾が双眸を眇めて微笑んだ。
その蠱惑的な表情に、天蓬の理性が激しく揺さ振られる。
「捲簾ってば…そのまま寝ないで下さいよ」
「ん…まだ眠くねーよ?子供じゃないっての」
「そうですよ?オトナの時間はこれから…でしょ?」
天蓬が指先で捲簾の耳朶を擽った。
捲簾は小声で笑って首を竦める。
「ねぇ、捲簾?今日はずっと一緒に居れるんでしょ?」
顔を近づけ、捲簾の耳元で天蓬が囁いた。
意味ありげな視線を向けて、捲簾が首を傾げる。
「天蓬は…俺と一緒に居たい?」
「勿論です。今日部屋を取ったのだって、貴方をこうして独り占めしたいから…」
握られたままの手を引き寄せ、唇を寄せた。
「ん…っ?」
天蓬がキツく吸い上げると、手の甲に鮮やかな朱印が浮かび上がる。
捲簾に視線を合わせながら、濡れた舌で鬱血した部分を舐め上げた。
ゾクゾクと捲簾の背筋を快感の熱が走り抜ける。
「天蓬…俺のこと好き?」
快楽に潤ませた瞳で、捲簾が声を震わせ囁いた。
天蓬は妖艶な笑みを浮かべて、捲簾の掌に頬擦りする。
「好きです…初めて貴方に逢った時から。一目惚れなんですよ?」
「俺も…天蓬がすっげぇ好き」
「捲簾…僕を貴方のモノにして下さいますか?」
「てんぽ…っ」
天蓬の思いも寄らぬ懇願に、捲簾は驚いて目を見開く。
「…ダメですか?」
真摯な表情で天蓬が真っ直ぐ見つめてきた。
捲簾は緩く首を振る。
「ヤな訳…ねーじゃん。全部…俺のモンにしていい?」
「勿論ですよ…」
今までで一番綺麗な笑顔を、天蓬は捲簾に見せた。
「部屋に行きましょうか?」
「え…?」
「早く…貴方と二人っきりになりたいんです」
即すように天蓬が先に立ち上がり、出口へと向かう。
慌てて捲簾も立ち上がった。
捲簾が追いつくと、天蓬が伝票にサインしている。
「あ…俺の分」
「構いませんよ。今日誘ったのは僕ですから」
「いや、それはダメ。半分払うから」
財布を出そうと上着に手を入れると、上から天蓬の手が押し止めた。
「ココはいいです。今度二人で会う時にご馳走になりますからね」
微笑みながら拒む天蓬に、捲簾は小さく溜息吐いた。
「分かった。じゃぁ今度は俺が奢るから」
「ええ…僕としては、デートの約束を取り付ける口実なんです」
「………バァカ」
捲簾は照れて視線を逸らす。
小さく笑いを零し、天蓬が捲簾に腕を絡ませた。
「早く部屋に…行きましょうね?」
ボタンを押して、止まっていたエレベーターに二人で乗り込む。
「天蓬、何階?」
捲簾がボタンを押そうとして階を尋ねると、細い腕が捲簾の腰に回された。
驚いて振り返ると、欲情を孕んだ瞳で捲簾を見上げてくる。

ふいに視界が歪んだ。
理性が呆気なく焼き切れる。

「んん…っ」
右手で天蓬の頭を引き寄せると、噛みつくように口付けた。
薄く開いた歯列から舌を差し挿れると、淫らに天蓬の舌が絡みついてくる。
「ふ…あ…けんれっ…」
互いに何度も角度を変え、互いの口腔を貪り合う。
濡れた吐息を吐き出して、喉を鳴らして混ざり合った唾液を飲み下した。
天蓬の手が捲簾の身体を這い回る。
強くしがみ付かれて、捲簾はドアに背中をぶつけた。
天蓬の下肢が捲簾へと押しつけられる。
擦れ合う熱い昂ぶりが、どうしようもない興奮を伝えた。
濡れた音を響かせ、唇や舌を何度も舐め合う。
「天蓬…っ…俺っ」
「ダメ…もう少し…」
捲簾の身体を押さえつけて、天蓬が強引に口付けてきた。
「んんっ」
その気持ち悦さに捲簾は抗えない。
為すがままに貪られながら、捲簾はエレベーター『閉』ボタンを震える指先で押し続けた。






カードキーでドアを開け、天蓬が先に部屋へと入った。
カチッと閉まる音と共に、背中から強い力で抱き竦められる。
「けんれ…んっ」
大きな掌が、服越しの天蓬の身体を卑猥に撫で上げた。
髪から覗いている細い首筋から耳朶に捲簾の熱い唇が掠め、濡れた舌先が擽るように舐めていく。
スーツのボタンに掛かった指を、天蓬が握り締める。
「天蓬…?」
突然の拒絶に、捲簾が動きを止めた。
「ちょっと待って…」
捲簾が腕を緩めると、天蓬が向かい合わせに見上げてくる。
「やっぱ…イヤ?」
捲簾が伺うと天蓬は緩く首を振った。
額をコトンと肩に乗せて、天蓬が甘えてくる。
「違うんです…今日は昼間少し暑かったでしょ?僕汗かいてるから…」
恥じらいを含んだ声に、捲簾の口元が緩んだ。

かっ…可愛いっ!
あーもうっ!早く喰っちゃいたいけど、ココは余裕を見せねーと。
盛りのガキみたいに、ガッついてちゃみっともないしな。

押し倒してむしゃぶりつきたいのをグッと堪え、肩口に伏せている天蓬の頭を優しく撫でた。
「んじゃ…一緒にシャワー浴びる?」
「………捲簾先入って下さい」
消えそうなほど小さく呟く天蓬に、捲簾が微笑む。
「じゃ、俺先に浴びてくるから…さ」
天蓬の髪に口付け、捲簾はバスルームへと入っていった。
暫くすると勢いよく水音が聞こえてくる。
天蓬はネクタイを緩めながら、ベッドへと腰掛けた。
襟元のボタンを外して緩めると、煙草を銜えて火を点ける。
大きく煙を吐き出すと、天蓬の肩が小刻みに震えた。
「くっ…くくく…っ…本当に可愛らしいったら」
煙草を銜える口元が楽しげに攣り上がる。

勿論、天蓬はこれっぽっちも恥じらってなんかいない。
捲簾にシャワーを使わせたのは、着ていた服を脱がせるため。
かなりガードの堅い留め金だらけの服は、脱がせるのに時間が掛かる。
早く捲簾を食べたくて仕方ない天蓬は、面倒な服は捲簾に自分で脱いで貰うことにしたのだ。
無防備な裸になってしまえば、こっちのもの。

「いっぱい悦がり啼かせてあげますからね〜vvv」

捲簾が出てくるまでの間、天蓬は上機嫌で妄想を膨らませていった。


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