Attraction Garden



弟が不承不承大股開きにされている頃、兄は。

風呂から上がり、ドライヤーで髪を乾かしていた。
粗方渇かすと、スイッチを切る。

しーん。

一気に部屋が静まり返った。
髪を掻き上げると、捲簾は溜息を零す。
ドライヤーをしまって、ペタペタとリビングへ戻った。
既に天蓬の姿はない。
もちろん、捲簾が風呂に浸かっている間に帰った訳でもなく。
冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、グイッと半分程飲み干した。
「はぁ…手ぐすね引いて待ってるんだろうなぁ」
捲簾は床に座って、ソファへと頭を乗せる。
きっと、間違いなく。
天蓬はベッドルームでウキウキと心躍らせ、捲簾を待ち構えてるに違いない。
想像できるだけに、憂鬱だった。
別に天蓬に触れられるのはイヤじゃない。
互いに触れ合って、抱き締め合って。
嫌いどころか、かなり気持ち悦い。
しかし。
天蓬は、見かけのたおやかさと違って、驚く程剛胆だ。
その上フェロモン撒き散らしで、ケダモノじみた雄そのもの。
質が悪いなんてもんじゃない。
捲簾は、天蓬が羊の皮を被った狼だと、迂闊にも気づかなかった。
散々口説き倒した挙げ句…口説き倒されて。
ついでに押し倒されてしまった。
まさか自分が、あんな媚びるように甘ったるい嬌声を上げることになるとは。
恐ろしいことに、今までしてきたセックスの中で、天蓬とのセックスが一番気持ち悦かった。
オトコとしては致命傷だろう、と散々煩悶したけど。
天蓬の顔を見ると、どうでもよくなってしまう。
あの綺麗な指が、唇が。
自分の身体に触れるかと思うと、ゾクリとした快感が湧き上がる。
あんなに綺麗で卑猥な顔なんか見たこと無い。
天蓬のあの表情で、快楽に掠れた声音で名前を囁かれただけで。
「…げっ。マズイ」
思い出しただけで、身体の芯が疼いてしまう。
欲望の象徴が、パジャマの中で主張し始めた。
「もうなぁ〜堪え性無さ過ぎだっての、馬鹿ムスコ」
股間を押さえて、捲簾が肩で息を吐く。
このままじゃ天蓬の思うツボ。
捲簾は困った顔で、項垂れた。
別に天蓬とシたく無い訳じゃない。
単純に身体の問題で。
未だに一昨日の濃厚なセックスは、捲簾の腰にダメージを与えていた。
「だからって…アイツが納得する訳ねーよなぁ」
仮に、捲簾の身体に何も問題が無くて。
天蓬と同じベッドに入って、ただ仲良く眠るだけなんて考えられない。
それどころか。
何もしてこない天蓬に、キレて拗ねまくって激怒するだろう。
自分でそれが分かるだけに、天蓬が迫ってきたら無下には出来ない。
「あぁ〜もうっ!面倒くせぇなぁっ!!」
ガシガシと頭を掻いて、捲簾はゴロンと床に倒れ込んだ。
考えても考えても。
結果は同じ。
「………寝るか」
勢いよく立ち上がると、とりあえず子供部屋へと向かった。
そっとドアを開いて、簾の様子を覗き見る。
ベッドに近寄ると、穏やかな寝息が聞こえてきた。
よく眠っている。
捲簾は布団を掛け直すと、無邪気に眠る息子に笑みを零した。
起こさないように、静かに部屋を出る。
ドアを閉めるとリビングへ戻り、部屋の明かりを消した。
自室の前で一旦立ち止まると、大きく深呼吸をする。
無理矢理覚悟を決めると、捲簾はゆっくりとドアを開けた。
とりあえず隙間から部屋の様子を伺って見る。
部屋の明かりは落とされ、ベッドサイドの間接照明が淡い光を放っていた。
ベッドの布団はこんもりと山を作っている。
上掛けの端から、サラサラの髪がはみ出ていた。
「天蓬…」
小さな声で捲簾が声を掛ける。
しかし、返事が返ってこない。
「天蓬?」
今度はハッキリした声で呼んでみた。
それでも返事はない。
「天蓬…寝ちゃったのか」
捲簾はホッと胸を撫で下ろした。
でも、何となく。
胃の辺りがモヤモヤとしてきた。

別に恋人らしいスキンシップや、甘い睦言を期待してた訳じゃないけど。
何かもうちょっとあるだろうっ!
何勝手にさっさと寝てるんだよ、バカ天っ!!

気持ちは身体に相反して、天蓬を欲していた。
自分で自覚しているよりも、もっと天蓬に惚れているらしい。
何となくつまらなくて、寂しくて。
捲簾は拗ねてしまった。
だからといって、のうのうと安眠を貪る天蓬を見守りながら、大人しく添い寝する気もない。
「て〜ん〜ぽぉ〜起きやがれっっ!!」
布団の端を掴むと、捲簾が勢いよく捲り上げた。

バサッ☆

同じ素早さで布団を元に戻す。
すかさずベッドへ飛び乗ると、捲簾は布団の上から天蓬を押さえ込んだ。
ベッドのふくらみが、じたばたと暴れ出す。
捲簾は必死になって、布団の隙間を手で塞いだ。
しかし。
「うりゃっ!!!」
野太い掛け声と共に、捲簾は布団ごと跳ね飛ばされた。
「ふぅ…いきなり何なんですかぁ〜。あー苦しかった」
天蓬はベッドに座り込んで大きく息を吸い込む。
ちょっと落ち着くと、天蓬が視線を巡らせ捲簾を探した。
「…何やってんですかぁ?」
目を丸く見開き、天蓬は呆れ気味に肩を竦める。
布団を楯にして、捲簾が目だけ覗かせ警戒していた。
「それはコッチの台詞だっ!」
「え?どうしてですか??」
「どうしてって…人様の家に初めて来て、素っ裸で寝ているヤツが居るかっ!!」
捲簾は顔を真っ赤にしながら憤慨して喚く。

そう。
天蓬は正真正銘全裸だった。

「どうせ脱ぐんだから、いいじゃないですか」
「…あのなぁ〜」
思いっきり脱力しつつ、捲簾が改めて天蓬を眺める。

均整の取れた細身の身体。
スラリと伸びた長い手脚に、細い腰。
艶めかしい程白い肌。
綺麗な天蓬。

思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
捲簾の様子に気付いた天蓬が、双眸を眇めて微笑みを浮かべる。
「捲簾…どうしました?」
「あっ…ん…別に何でも…ねー…」
舐めるように見つめてしまったバツ悪さに、捲簾はぎこちなく視線を外した。
布団をギュッと抱え込んで、所在無げに座り込む。
「捲簾…」
天蓬の手が伸び、捲簾の腕を掴んだ。
「あ…っ!」
強い力で引き寄せられると、胸に抱き竦められる。
首筋に唇が触れ、濡れた舌先が耳朶まで舐め上げた。
「んっ!てん…ぽっ…」
「いー匂いですね。甘い…花の」
捲簾の耳を舐りながら、天蓬が息を吹き込むように低く囁く。
「あぁっ…シャンプー…っだろ…ぁっ」
ゾクゾクと背筋を走る快感に我慢できず、捲簾は天蓬へ強くしがみ付いた。
二人抱き合ったまま、ベッドへと倒れ込む。
素早く身体を起こして、天蓬が捲簾を見下ろしてきた。
欲情を孕んだ濡れた瞳に、捲簾の鼓動が大きく脈打つ。
ゆっくりとした所作で、身体を重ねてきた。
パジャマの裾から、冷えた掌が潜り込む。
「んぁっ…冷て…っ!」
肌を震わせ、捲簾が腰を捩った。
天蓬はパジャマを押し上げ、両手で滑らかな肌を探りだす。
「は…あ…っ…天蓬ぉ」
捲簾が呼ぶと、天蓬は首筋に埋めていた顔を上げた。
欲情した視線が濃密に絡む。
自然に唇が触れ合うと、軽く音を立てて吸い合った。
何度も繰り返す内に物足りなくなって。
唇を開いた捲簾が濡れた舌先を覗かせる。
天蓬は嬉しそうに微笑むと、深く口付けて応えた。
身体中の熱がざわめき、芯が疼いて仕方ない。

もっと強く深く。
触れる程に貪欲になる。

互いに擦れ合う下肢がたまらない。
引き寄せるように、捲簾の脚が天蓬の腰へと絡みついた。
「んぅ…っ…あっ…は…ぁっ」
濡れた舌を舐って、痺れるまで吸い上げて。
ピチャピチャと淫猥な音を立てて、口中に溢れる唾液を交わす。
口腔の粘膜をネットリと舐められると、ゾクリと腰が浮き上がった。
布越しに擦りつける性器は硬く張り詰め、ドクドクと脈打っている。
たった薄い布1枚が、こんなにもどかしいなんて。
捲簾は我慢できずに、自ら指を掛けてパジャマのボタンを外し始める。
「ひゃ…あっ!」
離れた唇から甘い嬌声が上がった。
天蓬の指先が、興奮で立ち上がった乳首を潰すように回して刺激する。
指の腹で擦りながら引っ張られると、快感が下肢へと伝わった。
ソコを弄られると、じわりと先端が濡れてくるのが分かる。
「あっ…うぁ…っ…やぁっ…」
股間で燻る熱に、捲簾が首を振って焦れた。
慣れない快楽は溜まる一方で、解放する程強くもない。
捲簾はどうにかボタンを外し終えると、惜しげもなく天蓬の目の前に肌を晒した。
散々指で愛撫された乳首が紅く熟れて色付いている。
顎から首筋、鎖骨を伝い降りる唇が、刺激を待ち焦がれている乳首を含んだ。
「あん…っ…やっ…てんぽ…ぉっ!」
刺激を強請って身体を仰け反らせ、捲簾は大きく悶える。
天蓬が芯を持った乳首を立たせるように、濡れた舌で何度も舐め上げた。
もう片方も指で弄り続ける。
「はっ…離せ…ぇっ…ダメッ…て」
あまりの愉悦に、捲簾は涙を滲ませ訴える。
ふと、天蓬が捲簾の胸から顔を上げた。
「捲簾ってば…そんなにココ気持ち悦いの?」
羞恥で捲簾の頬が真っ赤に染まる。
乳首を愛撫され、オンナみたいに感じるなんて。
捲簾が言い返せなくて黙っていると、天蓬はそれ以上何も言わずに顔を伏せた。
「んっ…う…っ」
熱を帯びた唇と舌が。
汗ばんだ肌を滑っていく。
下へ、もっと下へ。
「あ…っ」
捲簾の声が期待で掠れる。
自然と腰が揺れてしまう。
「捲簾の一番イヤラシイところ…見せて下さいね」
天蓬が微笑みながら唇を舐めた。



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