Attraction Garden |
「ん?そう言えば昨夜もそんなようなこと言ってたよな?」 アノ悟浄が天蓬曰く『据え膳マグロさん』になってしまうらしい、怪しげな通称お守り。 話を聞いていた捲簾は、大笑いしながらもそのお守りが気になった。 ただのお守りにそんな効力なんかある訳がない。 一体どんな『お守り』渡したというのか? 「なぁ…一体何を渡したんだよ?」 「え?ですからお守りですよ。近所の神社で買ってきたんですけど」 「いい加減に吐けよな。いっくら願掛けたって、ただのお守りに何か出来る訳ねーじゃん」 胡乱な視線で睨み付ければ、天蓬はニコニコと微笑んだ。 その笑顔が既に胡散臭い。 絶対何かしでかしてるに決まってる。 段々と真剣な表情で睨んでくる捲簾に、天蓬は頬を引き攣らせた。 「えーっと〜照れ屋で初な八戒のためにですねぇ〜僕制作の腰がぬけちゃう薬をプレゼントしましたぁ♪」 「はぁっ!?腰が抜ける薬だぁ??」 「はい。きっと八戒はなかなか手を出すタイミングが計れないんじゃないかと思いまして。ましてや悟浄クンに抵抗なんかされたら途端に自信損失しそうで可哀想かなと心配したので」 ヘラヘラッと天蓬は捲簾に手の内を暴露する。 捲簾の視線が物騒に顰められた。 「天蓬…そういうの何て言うか知ってる?」 「え?何ですか??」 きょとんと天蓬が小首を傾げる。 「そーいうのはなぁ〜余計なお世話っつーんだよっ!!」 怒り心頭な捲簾は、持っていた枕で容赦なく天蓬を叩きのめす。 「わっぷっ!痛っ!捲簾何怒ってるんですかぁ〜!?」 いきなりの枕攻撃から、天蓬は必死に逃げた。 散々枕を振り回しても捲簾の気は治まらない。 「俺はそういう姑息な手段は大ッ嫌いなんだよっ!テメェ自身で口説けねーぐらいなら、そんな想いは最初っから大したことねーんだよっ!」 息を切らして捲簾が怒鳴りつけた。 漸く捲簾が何を言いたいか理解して、天蓬は神妙な表情で黙り込む。 「そんなの…信用できねーよ」 俯いて吐き捨てるように捲簾が呟いた。 天蓬はそっと捲簾の手を取る。 「捲簾…ごめんなさい。でもこれだけは信じて下さい。僕は…八戒に幸せになって欲しかったんです。応援の仕方が間違っていましたけど、その気持ちだけは本当なんです」 「うん…」 真摯な言葉に、捲簾は頷いた。 「八戒は…詳しくは言えませんが、昔のトラウマで恋愛に不信感を抱いてたんです。日頃から気にしてはいたんですが、最近よく悟浄クンの話を楽しそうにするようになって…八戒の気持ちを叶えて上げたかった」 「俺だって…悟浄が真剣に八戒の話を嬉しそうに話すの聞いて、上手くいって欲しいと思ってたぞ?でもさ、そういうのって本人同士の問題だろ?」 「そうですよね…何か僕過保護になってたんでしょうか?」 天蓬が儚い笑みを浮かべる。 捲簾はそんな表情をさせる八戒の存在に、何となく嫉妬してしまった。 思わず手を伸ばして天蓬の頭を腕に抱く。 「捲簾…どうしたの?」 強く抱き締められ、天蓬は捲簾の胸に甘えて擦り寄った。 「もういいじゃん。お前は俺のことだけ考えてりゃいーの」 「捲簾…」 腕から力を抜いて、天蓬をそっと上向かせる。 「いいか?もう余計なことすんじゃねーぞ?」 「はい…」 天蓬はニッコリと微笑んだ。 捲簾も安堵して、口元に笑みを浮かべる。 が、しかし。 「今度、アノ薬捲簾にも試してみましょうねvvv」 捲簾の頬が思いっきり強張った。 肩が小刻みに震えている。 「捲簾?どうしましたか??」 「お前はっ!さっさと朝飯の調達してきやがれーーーっっ!!!」 大声で怒鳴りつけると、再度強烈な蹴りを天蓬の顔へとヒットさせた。 「いたたた…もぅ捲簾ってば恥ずかしがり屋さんだから♪」 部屋から追い出された天蓬は、寝癖の付いた頭を掻きながら思案する。 「でもなぁ…育ち盛りの簾クンにコンビニのパンはねぇ?」 しかし考えたところで自分が作れる訳もなく、途方に暮れてしまった。 コンビニのパンよりは、せめてカフェなどのオープンサンドとかの方が良いような気もする。 リビングのソファに座り込むと、天蓬はタバコをふかしながら首を傾げた。 しかし、天蓬はこの辺りの地理に詳しくない。 寝室で怒っている捲簾の元へ聞きに戻るのも何だか気が引けるし。 「あ、そうだ!悟浄クンに聞けばいいんですよね♪」 天蓬は掛けてあった上着からゴソゴソと携帯を取り出した。 メモリーから悟浄の携帯へと電話を掛ける。 ところが、いくらコールしても繋がる気配がない。 どうやら着信をバイブにしているらしい。 留守電に切り替わったのを確認すると、天蓬は溜息混じりに通話を切った。 「う〜ん…邪魔されないように着信音切ってるんですかね。結構用意周到というか」 まぁ捲簾の話だと、悟浄は相当昨日のデートには気合いを入れていたらしいから仕方ない。 さて、どうしようか。 「と、言うことは。八戒も一緒ですよね?きっと」 迷うことなく、天蓬は八戒の携帯へと電話を掛けた。 「あれ?携帯が…僕のですよね?」 八戒の携帯着信音はアンパンマン。 まさか悟浄の携帯の訳がない。 朝食を作っていた八戒は、慌てて鞄の中を探った。 相手先を見ると、天蓬からだ。 不審気に液晶画面を眺めつつも、八戒はとりあえず通話ボタンを押した。 「…もしもし?」 『ああっ!よかった〜出てくれましたか♪』 脳天気な声が聞こえてくる。 「どうしたんですか?こんな朝早くから」 『緊急事態の一大事なんですっ!事は急を要します!!』 「は?何のことですか??」 何だか物騒な話に、八戒は首を傾げた。 こういう物言いの天蓬は、経験上とんでもない事を言い出す。 警戒しつつも、八戒は耳を傾けた。 『ところで、悟浄クンは居ますか?モチロン一緒ですよねぇ?』 天蓬の猫撫で声に、八戒は一瞬虚を突かれる。 「えっ!?あ…あのっ!えっと…っ!?」 黙っていれば分からない物を、八戒は動揺のあまり意味不明な言葉を繰り返してしまった。 電話越しに天蓬の含み笑いが響いてくる。 どうにか冷静さを取り戻そうと、八戒が入れてあったお茶を一気に煽った。 『それで?お守り…効力はありました?』 「ぐうっ!げほげほっ!?」 一番触れて欲しくなった話題を振られて、八戒は派手に噎せ返る。 シンクに縋り付いて、気管に入ってしまったお茶で胸を喘がせた。 ケラケラと楽しそうな笑い声が携帯越しに聞こえてくる。 「天ちゃ…っ…いきなり何…をっ」 声を詰まらせながらも、八戒は文句を返した。 そんなことで天蓬が怯むことはない。 ますます調子に乗ってきた。 『だって昨日はデートだったんでしょう?捲簾から聞きましたよ?それで八戒は今どこに居るんですか?あっ!もしかしてラブホにでもお泊まり中?』 八戒の頬が羞恥で真っ赤に染まる。 「違いますよっ!僕は悟浄の家にお邪魔してるんですっ!!」 『おや?悟浄クンもヤリますねぇ。初日から八戒を自宅へ連れ込みましたか。でも思惑が変わっちゃって残念がってませんか?あははは♪』 「………。」 火照る顔を掌で押さえて、八戒は携帯を睨み付けた。 一体何処まで分かって言ってるのか。 八戒はコホンッと咳払いをする。 「悟浄の家にお邪魔したのは抜き差しならない理由があったんです。別に天ちゃんが揶揄するような事じゃ…」 『そう思ってるのは八戒でしょう?悟浄クンの方は最初っからソノ気だったんじゃないですか?それが自宅になったって言うだけでしょ?』 「何で天ちゃんがそんなこと分かるんですかっ!」 『だって捲簾が言ってましたもん。悟浄クンは相当気合い入れて出かけたって。オトコがデートで何を考えるかなんて一つしかないでしょう?』 それは天ちゃんだけじゃないですか! とも、言い切れない。 現に、悟浄の猛烈アプローチは凄かった。 八戒が初デートだって言うのにソノ気になってしまう程。 つい図星を突かれて黙り込んでいると、小さな笑い声が聞こえてきた。 『別にいいじゃないですか。愛し合う二人が身体を求めるのは自然なことでしょう?』 「だからってっ!そんなこと触れ回っていいことじゃないです…恥ずかしいし」 昨夜の痴態を思い出し、八戒はますます頬を染める。 『え?何で恥ずかしいんですか?僕なんかいかに捲簾が素敵で可愛らしいか言い触らしたいぐらいですけどねぇ』 「天ちゃん…貴方…まさか?」 『でも…捲簾も八戒に負けず劣らずの照れ屋な恥ずかしがり屋さんで。真っ赤な顔をしてダメだって言うんですよぉ〜』 「いえ…それが普通でしょう」 思わず八戒は呟いた。 『え?何かいいました??』 「何でもないです…」 何だか無性に捲簾が気の毒になってくる。 こんな珍獣をウッカリ好きになって懐かれてしまうなんて。 八戒はしみじみと同情した。 『あ、それじゃもしかして…悟浄クンはまだベッドで撃沈中ですか?』 「…そうですよ」 誤魔化してもいずれバレるので、八戒は開き直る。 向こうの天蓬は、何やら考え込んで唸っていた。 『どうしようかなぁ…困ったなぁ』 「そう言えば…緊急事態って何なんですか?」 不測の事態に何で悟浄が関係あるのかが分からない。 第一天蓬が悟浄を頼ってくるなんて、何もないと分かっていても気分が悪かった。 ついつい、素っ気ない声音で問い詰めてしまう。 しかし、天蓬の方はそんな八戒のオトコ心に全く気付かなかった。 自分の都合で気にすることもないだろうが。 『いえね?この辺りでオープンサンドとか食べられるカフェがないかな〜っと聞きたかったんですよ』 「え?この辺って…天ちゃん今どこに居るんです??」 『モチロン、捲簾の所ですけど?』 「はぁっ!?」 八戒は驚きすぎて声が裏返った。 確か金曜にデートして翌日まで一緒で。 こんな時間にお邪魔してるっていうことは、昨夜から押しかけたことになる。 そして天蓬が好きな相手と居て、おとなしく何もしないで眠るとは考えられない。 ストーカー電話で飽きたらず、押しかけストーカーしたんですねぇ。 心の中で八戒はまだ見ぬ捲簾に何度も頭を下げた。 不肖の従兄を許して下さい、と。 『それで、悟浄クンにカフェがあるかどうか聞いてくれませんか?』 「捲簾さんに聞けばいいじゃないですか?」 『えーっとぉ…ちょっと捲簾はご機嫌ナナメなんですよ〜』 「天ちゃん…」 八戒は顔を顰めて額を押さえる。 言われなくても何をしでかしたか予想は付いた。 「悟浄はまだ寝てるんです。起こすの可哀想じゃないですかっ!」 『何言ってるんですかっ!簾クンの方がもっと可哀想でしょ?』 「は?簾クン…ですか??」 思いも寄らない名前が出てきて、八戒は目を見開く。 『だって、廉クンもうすぐ起きてくるでしょうけど、捲簾が動けないから朝食がないんですっ!だから代わりに何か買いに行こうと思っても、僕はこの辺りに詳しくないから…』 「天ちゃん…捲簾さんのお宅は何号室ですか?」 深々と八戒は溜息を吐いた。 天蓬一人なら通話を切って放置するところだが、簾クンには罪はない。 むしろ天蓬のとばっちりを受けてると思えば、不憫で仕方なかった。 『え?ココは…905号室ですけど?』 「じゃぁ、同じ階ですね」 『そうなんですか?』 「とにかく…僕今から行きますから」 『え?八戒こっちに来るんですか?悟浄クンは??』 さすがに意外だったのか、天蓬が驚いた声を上げる。 「まだ起きそうもありませんし、ちょうど朝食を作っていたので持っていってあげますよ」 『本当に?いやぁ〜助かっちゃいますvvv』 天蓬は脳天気に喜んだ。 「じゃぁ、今行きますから」 『お願いしますね〜』 通話を終えると、八戒は出来上がったばかりのサンドイッチに皿ごとラップを掛ける。 「また作ればいいんですしね…」 とりあえず自分が居ない間に悟浄が起きて心配しないようにと、テーブルに書き置きを残した。 そっと寝室を覗いてみると、悟浄は相変わらず枕を抱き締め熟睡中。 まだまだ起きそうもない。 「ちょっと出てきますね」 八戒は小さく声を掛けると、サンドイッチの皿を持って捲簾宅へと向かった。 |
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