Attraction Garden |
「捲簾っ!買ってきましたよーっっ!!」 乱暴なドアの開け閉めと共に、天蓬が転がりながら突進してくる。 大きなケーキ箱をテーブルの上に置いて、パッタリと捲簾に倒れ込んだ。 「おぁっ!?何だよ…天蓬、おいっ!??」 咄嗟に身体を支えてやれば、腕に縋り付いて乱れた呼吸を必死に整える。 何をそんなに急いだのか頬は真っ赤に紅潮し、額には玉のような汗が滲んでいた。 しがみ付いたまま動かないので、捲簾はずるずると引きずって天蓬ごとソファへと座り込む。 「ったく…どうしたんだよ?こんな汗掻いて〜」 捲簾はとりあえずシャツの袖口で、流れ落ちる汗を拭ってやった。 先程よりは呼吸の落ち着いた天蓬は、捲簾を見上げてニッコリ笑う。 バラ色に紅潮した頬に汗の滲んだ肌。 苦しい呼吸を必死に整えようと、薄く開いた唇。 ゴクリ。 思わずあらぬ妄想を抱いてしまい、捲簾の喉が鳴った。 そんな捲簾に気付いているのかいないのか。 天蓬は深く息を吐くと、捲簾の身体にしなだれ掛かった。 腰に腕を回すと、胸に擦り寄って甘えてくる。 そういう仕草は可愛いので、天蓬のしたいようにさせた。 勿論天蓬はわざと煽っている。 捲簾の高まる鼓動を耳にして、ひそかにほくそ笑んだ。 「はぁ…もー疲れちゃいましたぁ。こんなに走ったのって高校生以来ですよぉ」 額を胸元に擦り付けると、捲簾がご褒美とばかりにヨシヨシと頭を撫でた。 「何をそんなに焦ってんだよ?別にケーキが溶ける訳でもねーのに」 「…ケーキのために急いだんじゃないですっ!」 天蓬が頬を膨らませ、捲簾を見上げて拗ねる。 マズイ…可愛すぎ。 天蓬を抱き抱える掌が汗ばんできた。 相変わらず捲簾は天蓬の外っ面に目が眩んでいる。 かなりの重病。 恋は盲目とは良く言ったものだ。 天蓬は上半身を摺り上げて、捲簾の腿の上にドッカリ座り込む。 「だって…早く帰ってこないと、捲簾寝ちゃうかもしれないじゃないですか」 「は?何で俺が寝るんだよ?」 「さっきだって…何回も欠伸してたでしょ?」 「あ…」 気づかれないようにコッソリクッションで顔を隠したりしてしていたつもりだったが、どうやら見られていたらしい。 昨夜はついつい天蓬に煽られて、かなり捲簾も羽目を外してしまった。 眠りについた頃には、既に東の空は薄明るくなっていて。 天蓬と縺れるようにベッドで昏倒した。 おかげで自業自得とはいえ、捲簾はすっかり寝不足で。 子供はどういう訳か休みの日に限って早起きになるらしく、リビングの物音で捲簾も目が覚めた。 休日の簾は、父親が普段仕事が忙しく疲れているからと子供なりに気を使って、寝室まで起こしには来ない。 子供がそんなことに遠慮するなんてと思っていたが、今はかなり息子に感謝していた。 さすがに朝っぱらから情事の跡も生々しい姿を、可愛い我が子に晒したくはない。 自分の今までの悪行は棚に上げて、子供にだけは真っ当に育って欲しいと捲簾は切実に願っていた。 それでも天蓬のせいで、かなり言動が怪しくなっては来ているが。 本当だったら休みの日ぐらい、親らしく簾を構ってやりたい。 その気持ちに嘘はないけど。 同じぐらい天蓬と一緒にいたい気持ちもある。 だからこそ疲労と痛みと眠気を、結構無理してどうにかやりすごしているのに。 「本当はね…捲簾に休んで下さいって言えればいいんですけど」 「………え?」 天蓬は捲簾の肩口に顔を伏せ、広い背中に腕を回す。 「何か…捲簾だとどうしても抑えが効かないって言うか。無理をさせっちゃってるなぁって分かってるんです。でも…」 吐息が耳元を擽った。 ドキドキと。 らしくもなく、捲簾は鼓動を高まらせる。 「我が儘だって分かってても、捲簾と一緒に居たいから…」 遠慮がちに天蓬が捲簾の頭を抱き寄せた。 天蓬の告白に、捲簾は驚いて大きく目を見開く。 今さっき、同じ事を思っていた。 途端にかぁっと頬に朱を上らせる。 天蓬が同じ気持ちでいたことに、嬉しいやら恥ずかしいやら。 二人ともいい歳して、何思春期の若造みたいな恋愛してんだか、とか。 笑って適当に軽口を叩く余裕さえない。 バクバクと心臓はうるさいぐらいに鼓動を早め、何だか身体の中が妙な熱で疼いてくる。 捲簾はどう反応すればいいのか困ってしまい、天蓬の身体にギュッとしがみ付いた。 今自分は、真っ赤な顔をしているに違いない。 そう思うとますます羞恥で顔が上げられなくなって。 気持ちより身体が先走ってしまう。 こんな経験今までなくて。 捲簾は困惑しながら、ただがむしゃらに天蓬を抱き締めた。 ひたすら照れまくる捲簾を眺めて、あまりの可愛らしさに天蓬が目を細める。 『あーっ!もぅっ!!僕の捲簾は何て愛らしいんでしょうねっ!!』 捲簾の胸元に頬を埋めてウットリと悦に浸った。 天蓬はかなり上機嫌で浮かれる。 ついつい笑いが漏れそうになるのを必死に堪え、何度も捲簾の背中を撫でてあやした。 「ねぇ…捲簾」 殊更甘く低い声で囁くように捲簾を呼ぶ。 まるでベッドの中での睦言を思い起こさせる声音に、捲簾の身体が小さく震えた。 「捲簾は…僕と居るのはイヤ?」 一瞬目を見開くが、すぐに首を横に振って否定する。 天蓬の瞳が嬉しそうに和らいだ。 「よかった…」 吐息が首筋を掠めて、捲簾は首を竦める。 …マズイ。 これ以上このままの状態で居ると、みっともないことになりそうだった。 すでに天蓬の一挙一動に、身体の方は敏感過ぎるほど反応してしまっている。 別に天蓬相手に困ることは無いのだが。 こんなにも簡単に欲情してしまう自分が情けなかった。 かといって、捲簾は天蓬からさり気なく離れるタイミングが思いつかない。 『どうしよう…』 内心で煩悶していると、ふいに天蓬の身体が離れていった。 「…天蓬?」 いざ身体が離れてしまうと、今度は物足りなくて。 つい天蓬を呼ぶ声に咎めるような響きを滲ませた。 じっと捲簾に見下ろされ、天蓬はニッコリと微笑み返す。 「簾クンは?まだお昼寝してるんですか?」 暗に『今はマズイんじゃないんですか?』と言われて、捲簾が漸く我に返った。 途端に顔を羞恥で真っ赤に染める。 「あ…簾はお前が買い物行ってる間に起きてっ!ダチの家でゲームやるって遊びに出かけたんだよ」 「おや?そうだったんですか…おやつにプリン買ってきたんですけど。じゃぁ冷蔵庫に入れておいた方がいいですね」 天蓬はそっと捲簾の身体を抱き上げソファへ下ろすと、ダイニングテーブルまで歩いていく。 あまりにもそっけない天蓬の態度に、捲簾はムッと睨み付けた。 何だか俺ばっかりソノ気になって…バカみてぇじゃん。 袋から出したプリンを冷蔵庫へしまっている天蓬を、恨めしそうに眺める。 天蓬は捲簾へ背中を向けた状態で、思いっきり口元を緩めた。 こうしている間にも、捲簾の視線が自分の様子を伺っているのをヒシヒシと感じる。 物欲しげな、誘うような熱い視線。 天蓬は気付いていながら無視を決め込む。 焦らして、捲簾の我慢の限界まで煽るだけ煽って。 捲簾の口から欲しいと言わせたかった。 まぁ、それに関しては自分にもかなりの我慢を強いることになるが。 捲簾にあんな視線を向けられ誘われてるのに、理性が何処まで保つのか。 「そういえば、捲簾。ケーキに何かメッセージ書くんですか?お店でチョコのチューブみたいな物渡されたんですけど?」 捲簾の情欲に潤んだ瞳が、パチクリと瞬いた。 「あ、そうだったっ!天蓬、ケーキこっち持ってきて」 自分の悪巧みを思い出して、捲簾が天蓬を手招く。 天蓬はローテーブルに大きなケーキ箱を置くと、捲簾の横へと腰掛けた。 「一体何を書くんですか?」 「え〜?そんなの決まってんじゃーん♪」 意地悪い笑みを浮かべながら嬉々として箱を開ける捲簾に、天蓬は首を傾げる。 箱の中身は大きなデコレーションケーキ。 捲簾が電話で注文した通り、『ごじょうくん、おめでとう』とだけメッセージが書かれていた。 メッセージの右上がアンバランスに開けられている。 どうやらそこに捲簾がメッセージを書き加えるらしい。 捲簾はチョコペンの頭を千切ると、何やら書き始めた。 まずは、大きくハートマーク。 鼻歌交じりに捲簾が器用にメッセージを書き込んでいく。 それを眺めている天蓬の目が、まん丸く見開かれた。 「よっし!で〜きた♪」 会心の笑みを浮かべて、捲簾がチョコペンを置く。 天蓬はポカンと口を開けて呆気に取られた。 真っ白なケーキに可愛らしくイチゴのチョコペンで書かれたメッセージは。 祝!お尻開通!! 「どーよ、コレ?」 ニンマリと口端を上げて、捲簾が笑った。 「…面白いですけど。悟浄クン、確実に怒りますね」 「怒ったってホントのコトだしな〜クククッ」 捲簾は肩を震わせてソファに転がる。 下品なメッセージを眺めていた天蓬は、徐にケーキへと指を伸ばした。 縁をデコレートしていた生クリームを指で掬うと、ペロリと舐める。 「あっ!コラッ!何食ってんだよーっ!!」 気付いた捲簾が身体を起こして天蓬を咎めた。 「僕…甘い物好きなんですよねぇ。特に生クリーム」 そう言うと天蓬はまたもやクリームを掬って口元に運ぶ。 捲簾が慌てて天蓬の腕を掴んで止めた。 「何やってんだよ〜。そんなことしたらクリーム無くなっちまうだろーがっ!」 「でも、美味しいですよ。クリーム」 生クリームの付いた指を捲簾へ見せつけると、舌を出して舐め取る。 自分の指先に何度の舌を這わせて、ピチャピチャとクリームを味わった。 捲簾は天蓬の舌の動きに釘付けになる。 執拗なほど指を舐る濡れた舌先。 卑猥にも見えるその動きに、思わずゴクリと息を飲んだ。 瞬きもせずに、天蓬の舌の動きを目で追ってしまう。 天蓬は最後に指を口に含んで、ちゅっと吸い上げる。 「ん。美味しい」 上目遣いに捲簾を見つめながら、満足げに微笑んだ。 天蓬の笑顔に、ゾクゾクと背筋が震える。 覚えのある熱が一点に集中し始めてしまい、捲簾はかなり焦った。 もぞもぞと腰を動かして、視線を落とす。 天蓬の瞳が楽しげに輝いた。 「捲簾も食べてみます?」 「俺は…いらねーよ」 湧き上がる熱で、声まで欲情して掠れてしまう。 「じゃぁ、もっと食べてもいいですか?」 「…勝手にしろ」 自分の身体の変化にいっぱいいっぱいの捲簾は、これ以上咎める気力も無い。 俯いて疼く熱を堪えていたので、天蓬の挙動に気付かなかった。 ケーキの縁をぐるりと指でなぞって、掌に多量のクリームを掬い上げてしまう。 天蓬は空いている左手で、捲簾の肩を掴んで勢いよく身体をソファへと押し倒した。 「へ?」 突然視界が回って、捲簾は目を丸くする。 見上げると天蓬が楽しそうに笑っていた。 その手には多量の生クリーム。 ものすっごぉーく!ヤな予感がするーっっ!! 訳の分からない天蓬の行動に、捲簾は硬直して咄嗟に動けなかった。 それをいいことに、天蓬は片手で捲簾のズボンを下着ごと一気に引きずり下ろす。 下肢を剥き出しにされて、さすがに捲簾も我に返った。 「うわっ!テメッ!いきなり何すんだよぉっ!?」 「あれ?捲簾…何でココ勃ってるんですか〜?」 先程までの妄想で、捲簾の雄は緩く勃ち上がっている。 捲簾は恥ずかしさのあまり、首筋まで真っ赤になった。 「ねぇ?僕は何もしていないのに…どうしてココ硬くしちゃったの?」 「ぅあ…っ!」 天蓬の指先が震える先端を指で弾く。 捲簾は真っ赤な顔で視線を逸らした。 まさか言える訳がない。 天蓬がクリームを舐めてるのを見て、自分のモノをしゃぶられている想像してたなんて。 捲簾が口籠もっていると、天蓬は目を眇めて意地悪く微笑む。 もちろん捲簾の考えてること何て全てお見通しだ。 むしろそういう風に自分からし向けたのだから。 「さてと…」 「うぁっ!?な…何…すんだよっ!?」 いきなり天蓬が片手に持っていたクリームを、捲簾の股間へと落とした。 その冷たさに捲簾が悲鳴を上げる。 涙目になって睨み上げると、天蓬は艶やかな笑みを浮かべた。 「僕はクリームを味わいますので、捲簾は僕を存分に堪能して下さいねvvv」 「何いいいぃぃっっ!?」 天蓬は捲簾の膝に手を掛けると、脚を大きく割り開く。 「あっ…あのっ!てん…ぽー?」 「だって…シテ欲しかったんでしょう?」 ニッコリ。 悪魔の微笑みに、捲簾の顔面から一気に血の気が引いて。 そして。 「天蓬のバカーーーッッ!!」 今度は身体中に朱を上らせ、捲簾が涙声で叫んだ。 |
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