Attraction Garden



「…ご馳走様でしたvvv」
「どーいたしましてぇー…」
片やニコニコと上機嫌に。
片や気怠げに掠れた声で返事を返す。
リビングのフローリングで捲簾は大きく胸を喘がせ、呼吸を乱していた。
嬌声を上げ続けたせいで喉がヒリヒリする。
しなやかな姿態を隠そうともせずにのびていると、天蓬が水を持ってきた。
「はい、お水。声スゴイですよ」
「あーそ〜?セクシーだろ」
肘を突いて半身を起こすと、受け取ったグラスの水をあっという間に飲み干す。
傍らのローテーブルにグラスを置くと、大きな溜息を零した。
「はぁ…旨かった」
「おかわり汲んで来ます?」
「ん?もういーや。あぁ〜何かヘンな感じ。まだお前のアレが喉に絡みついてる気ぃする」
捲簾はそう言うと、何度か声を出して咳払いする。
「ヒドイですねぇ。僕のそんなに濃くはなかったでしょう?昨夜散々出した後なんですから」
苦笑すると、天蓬は捲簾の側にしゃがみ込んだ。
捲簾が思いっきり嫌そうな顔をする。
「別にヤッてる時はいーんだけどさ、興奮してっから。終わった後がなぁー…後味不味いし」
「そんなもんですかね?まぁ美味しいモンじゃないのは確かですけど」
「だろ?」
「あっ!でも〜今のはすっごく甘くて美味しかったですよ♪」
「そりゃクリームの味だろうが…つーか、クリームと精液って…うっ、想像したら胃液上がりそう」
捲簾は胃の辺りを押さえて、気持ち悪そうに舌を出した。
クスクスと楽しげに天蓬が笑いを漏らす。
「それは捲簾が甘いモノ苦手だからでしょ。だから余計にヘンな味想像してるんじゃないんですかねぇ。僕は甘いクリームも捲簾のアレも大好きですから、全っ然問題ありませ〜ん」
「堂々と俺の排泄物を好物とか言うな、アホッ!」
胡乱な視線で呆れ返ると、パコンと天蓬の頭を小突く。
頬を僅かに紅潮させて睨み付けても、天蓬を余計に喜ばせるだけで威力はない。
案の定怯みもせずに、天蓬は捲簾の身体を背中から抱き締めてきた。
「うーん…捲簾の『排泄物』かぁ。何か淫靡な感じでイイですねっvvv」

ガツッ☆

鈍い音を立て、捲簾の後頭部が天蓬の顔を殴打する。
「勝手に一人で悦がってろ、バカ天っ!!」
「いだいでずよぉ〜っ!鼻血出たらどーすんですかっ!もぅ…捲簾ってば照れ屋さんなんだから」
「…照れてんじゃねーよ」
捲簾は据わった目つきで背後を振り返る。
ご機嫌斜めな恋人に、天蓬は頭突きを喰らった鼻を押さえて小首を傾げる。

そ…そんな可愛い顔したって、騙されねーぞ。

ドキドキと胸の鼓動を高鳴らせて、捲簾は視線を背ける。
こんな時でも捲簾の面食いは健在だ。
簡単なほど、天蓬の外っ面にコロッと惑わされている。
分かってはいても、どうしようもなかった。
好きなんだから仕方がない。
天蓬の方も自分の所業を反省するどころか、懲りることもない。
大人しくなったのを幸いと、天蓬は捲簾の身体にじゃれついてきた。
そんな仕草さえも可愛いと思ってしまうのだから、もう重病だ。
諦めたように捲簾は小さく息を吐いた。
「あー…すっげぇクリームでベタベタ。気持ち悪ぃよ」
「そうですか?僕クリームで汚れた部分は残さず舐めましたけどね?」
「舐めたって油分や糖分は簡単に落ちねーって。第一ココまではお前だって舐めてねーだろ」
捲簾は股間を指差しながら口端を上げる。
指先を目で辿って天蓬も視線を落とした。
「…成る程。確かに毛までは舐めてませんでした。いっそ全部剃っちゃいましょうか?」
暢気な声で吐き出される物騒な提案に、捲簾はサーッと血の気が引く。
「お前はこれから毎回どんなプレイを俺にやらかす気なんだよっ!?」
「捲簾がお望みなら、僕は何でもしますよvvv」
瞳を期待でキラキラと輝かせ、天蓬は頬を紅潮させて意気込んだ。
瞳まで潤ませて悦に浸っている。
マジで何をやらかすか分からない恐怖感に、捲簾の背筋が怖気立った。
「いや…ソコソコで結構です」
顔を引き攣らせて、捲簾はさり気なく逃げの体勢に入る。
しかし、そんなことは天蓬もお見通し。
腰を浮かせようとするのを押さえつけ、ガッチリ捲簾を抱き込んだ。
剥き出しの首筋に、天蓬が噛みつきながら囁く。
「今度捲簾が今まで経験したことのない様なコト…シテあげますねvvv」
「ほんっとぉーにっ!経験したことのあるセックスだけで満足だからっ!余計なこと企てるんじゃねーぞっ!!」
「まったまたぁ〜。僕たちの間で遠慮なんかしなくってもいいのにぃ」
「全っ然してねーっっ!!」
ジタバタと腕の中で藻掻く捲簾を、天蓬は楽しそうに見つめる。
拘束していた片手を胸元から滑らせると、股間の繁みに潜らせた。
「おいっ!天蓬!?」
「あ、やっぱりココはベタついてますね。気持ち悪いでしょ?」
「だからさっき言っただろ…」
「何か…勿体ないなぁ」
「……………は?」
意味が分からず、捲簾はきょとんと目を見開く。

勿体ない?何が??

捲簾が思案している間も、天蓬の指先は捲簾の股間で遊んでいた。
毛を指に巻き付けたり、引っ張ったり。
弄られてる刺激で緩く勃ちあがってしまった性器は一切無視している。
さすがにムッとして、捲簾は悪戯している天蓬の掌を指で思いっきり抓った。
「痛っ!いきなり何するんですか〜」
「何するんですかじゃねーっての!遊んでんな!大体さっきの勿体ないってのも訳分かんねーよ。俺の陰毛が勿体ないって何ソレ?」
懲りずに股間をまさぐっている天蓬の掌を掴んで引き離す。
「ですから〜美味しいクリームも捲簾のアレも。毛があると邪魔で、ココに付いたモノは舐め取れないでしょ?だから勿体ないなーって」
「…何じゃソレ」
天蓬の言い分に、捲簾は心底呆気に取られる。
馬鹿馬鹿しすぎて怒る気力も起きない。
額を押さえていると、ふいに天蓬の唇が耳朶に触れた。
「ねぇ、捲簾?」
甘ったるい猫撫で声が耳元で聞こえる。

あ、ヤな予感。
ぜってぇロクなこと言わないぞ、コイツ。

こういう声音で甘えてくる時は、絶対無茶な要求をしてくる時。
捲簾だってそれぐらいの学習能力はある。
しかし。
天蓬の言い出した『お願い』は、捲簾の想像を遙かに凌駕してきた。

「捲簾のココ…綺麗に剃りませんか?」
「はぁっ!?」

驚きすぎて思いっきり声がひっくり返る。
慌てて振り返ると、天蓬は陶酔しきった表情で捲簾に熱い視線を向けていた。
身体中の毛穴が開いて、ドッと冷たい汗が噴き出してくる。
天蓬の指先が、ゆっくりと下腹部を撫でた。
「ツルツルに剃毛して…可愛いだろうなぁ」
捲簾は脳の遠くの方で、神経がブツッと切れる音を聞く。
「可愛い訳あるかあああぁぁっっ!!!」
喚き散らしながら、捲簾が真っ赤な顔で激怒した。

よりによって毛ぇ剃るだと?
アッハッハッ、そりゃ〜スッキリつるっつるんだな♪
ふ・ざ・け・る・なーーーっっ!!!

怒り心頭で暴れ出す捲簾を、天蓬は羽交い締めして頬を擦り寄せる。
「何で怒るんですか?もー絶対イイですって!ヤリましょう!ねっ!?」
「そんなにヤリたきゃ、テメェの剃りやがれっ!」
「自分の剃ったって面白くないです」
「俺だって面白くも何ともねーよっ!」
「でしょ?だから捲簾の剃りましょうよぉ〜vvv」
「自分のはもっといーやーだーっっ!!」
「だから僕が綺麗に剃ってあげますってば」
「やだやだやだーっっ!!」
全然聞き分けのない天蓬に、捲簾は涙目で拒絶する。
本格的に嫌がって暴れ出すと、天蓬が一層力強く抱き締めてきた。
「何で…そんなに…嫌なんですか?」
悲痛な声音に、捲簾の動きが止まる。
振り返ろうとしたが、天蓬の腕にきつく拘束されて振り替えることができなかった。
「僕…捲簾に悦くなってもらいたくって…色々考えて…っ」
捲簾は諦めて身体から力を抜く。
「お前は考えすぎ。別に抱き合って気持ち悦いんだから、それでいーだろ?」
「コワイんです。ただ抱き合って…それだけじゃ捲簾、何時か飽きるんじゃないかって。そうしたら僕のこと…」
「天蓬…お前?」
捲簾を優しく戒めている腕が、小さく震えていた。

天蓬は怯えている。
捲簾を手に入れた瞬間から、ずっと捨てられることを考えて。

溜息を零すと、捲簾はガシガシと髪を掻き回す。
どうせ今までの所業は、悟浄辺りから既に聞いているんだろう。
今までの行いが、天蓬の不安を裏付けている。
「あのな…天蓬」
「…はい」
「俺はメッチャクチャお前に惚れてんのっ!それを言ったらキリがねーよ。俺だってお前の好きなこと全然させてやらねーんじゃ、捨てられたって仕方ねーって。思いたくも無いけど」
「そんなことっ!僕が捲簾を捨てるなんて…死んだってありえませんからねっ!」
「あ、そー。んじゃ俺も同じだから、相思相愛万々歳じゃん…だろ?」
捲簾は笑いながら天蓬の腕を優しく撫でた。
天蓬の抱き締める力が強くなる。
「僕は…捲簾のために何ができますか?」
「一緒に居てくれりゃいーよ」
「…欲が無さ過ぎですよ」
肩越しに天蓬の微笑む感触が伝わってきた。
「お前は?俺に何がして欲しい?」
「…毛ぇ剃らせて欲しいですぅ」
甘い雰囲気をぶち壊し、天蓬はいきなり話を蒸し返す。
「まだ諦めてねーのかよ」
身体中から脱力して、捲簾はガックリと項垂れた。
「1回でいいんですっ!ね?けんれ〜んvvv」
「1回でも100回でもヤ」
「…どうしてもですかぁ」
天蓬は情けない声で呟くと、捲簾の首筋に鼻を擦りつける。
グスグスと鼻を啜る涙声に、捲簾が深々と息を吐いた。
「僕の誕生日の時にでも?」
「誕生日ねぇ…」
どうやら天蓬は諦める気が無いらしい。
捲簾の拒絶を全く聞き入れない。
ここでダメだと言ったところで、そのうち隙を突いてカミソリ片手に迫ってきそうで。
その方がよっぽどコワイ。

だから。
仕方ない。

「…誕生日の時、だけなら」
「ほんとーですかっ!?」
天蓬が勢いよく顔を上げた。
「誕生日だけだぞっ!その日だけだからなっ!」
真っ赤な顔で捲簾がプイッと視線を逸らす。
「けんれん〜嬉しいですぅ〜僕、捲簾に愛されてるんですねvvv」
「…今更疑いやがったらブッ飛ばすぞ」
「けんれ〜んvvv」
感極まった天蓬が、ぎゅうぎゅうと捲簾に抱きついた。
捲簾も満更じゃないのか、大人しく天蓬の腕に収まっている。
「もーっ!い〜っぱい気持ち悦いコトしましょうね♪」
「いいけど…動けなくなるのは勘弁」
「あぁ。それはそのうち慣れますよ」
「あー?そっか〜??」
「それだけいっぱいシましょうね、捲簾vvv」
捲簾を抱き締めながら、天蓬は不敵な笑みを浮かべている。
すっかり天蓬の術中に嵌っていることに、幸か不幸か捲簾はちっとも気付いていなかった。



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