Valentine Attraction



風呂敷包みの中から出てきたモノは。
色取り取りにラッピングされたプレゼント仕様の箱やら袋。
それらがゴチャゴチャと入っていた。
さながらサンタクロースの袋の中身か、デッカイお楽しみ袋か。
雑然としたそれらを眺めて、捲簾は暫し呆気に取られた。
いくら何でもコレは買いすぎだろう。
「…天蓬?」
「何ですか?」
「コレ…全部…そうなのか?」
「はいっ!どれから開けますか〜?」
嬉しそうに風呂敷ごと目の前に差し出され、捲簾は途方に暮れた。
散財するにも限度があるだろうっ!
しかし、ワクワクと期待の眼差しを向けられると、怒るに怒れない。
自分のためを想って買ってきたと言われれば尚更だった。
諦めたように溜息を吐くと、捲簾は一番上に乗っていた袋を指差す。
「あ、コレからですか?どうぞvvv」
天蓬に手渡された袋をじっと眺めた。
大きさの割りには結構軽い。
とりあえずテープを剥がして、袋を開けてみた。
「…マフラー?」
ざっくりとした編みのマフラーが何故か2本入っている。
「前に普段ラフな服装の時に使えるマフラーが欲しいって言ってたでしょう?もう1本は簾クンのですよ。お揃いで使って貰おうかと思って」
にこやかに笑って説明する天蓬に、捲簾は小さく目を見開いた。

そんなこと覚えていたのか、と。

他愛もない話の中で確かに言った覚えはある。
だけど捲簾ですらそんな話をしたことを、天蓬に言われるまで忘れていた。
そんな些細なコトでさえ気に掛けていてくれたことが嬉しくて。
捲簾は照れくさそうに、僅かに頬を赤らめた。
「さんきゅ…簾も喜ぶよ」
「よかったぁ。あ、次どれ開けますか?」
「んー?じゃぁ、コレ」
そうして大小様々のプレゼントを捲簾は選んで、嬉々として開けていく。
それはシルバーのキーチェーンだったり、捲簾の生まれた年のワインだったり。
最近凝って飲んでいる焼酎だったり。
どれも何気なく捲簾が好きな物や欲しかったモノばかりだった。
プレゼントを開けては喜んでいる捲簾を、天蓬は幸せそうに見つめる。
上にあった物から順に開封していくと、下の方には大きめの箱などがあった。
今度は少し大きめの箱を指差す。
「コレですね。はい、どうぞ」
受け取ってみると、やけに軽かった。
先程のマフラーの袋よりも箱は大きいのに、軽さは半分以下かもしれない。
一体何が入っているんだろうと、捲簾は不思議そうに首を捻った。
箱を見ていても仕方ないので、とりあえずラッピングを丁寧に外していく。
中から出てきたシンプルな白い箱の蓋をそっと開けてみた。
「は?パジャマ??」
中に入っていたのは、光沢のある黒い生地。
質感からシルク製だろうか。
それにしても何故パジャマ?
生憎とパジャマ類は間に合っている。
コレと言って欲しいと思ったこともなければ、口にしたこともないはず。
どういうことだろうと捲簾がひたすら考えていると、天蓬が意味深に微笑んだ。
「コレ、パジャマだけじゃないですよ?シルクナイティ一式セットですから」
「は?」
言われて改めて箱を見れば、確かにパジャマとお揃いの生地で何かが入っていた。
ペロッと手に取って広げてみる。
「ゲッ!何だぁっ!?シルクビキニぃ〜!?」
「Tバックと散々悩んだんですが」
「んなモン悩むんじゃねーよ」
捲簾は真っ赤な顔で、下着を投げつけた。
ソレを掴むと、天蓬は目の前で広げてしみじみと頷く。
「でも〜捲簾のお尻は絶品なので、捨てがたかったんですよねぇ〜Tバック」
「いや、だから。野郎に下着贈ってどうすんだよ」
眉間に皺を寄せて、捲簾は額を押さえた。
第一Tバックなんか穿かせて何をするつもりなんだか。
天蓬の思惑があまりにも分かり易すぎて、突っ込むのも馬鹿らしくなってきた。
「んでー?下着はともかく、パジャマは?」
捲簾はローテーブルに置いてあった煙草を取ると、一服し始める。
すっかり力が抜けて、態度も投げやりだ。
しかし天蓬の方は一向に気にしてない。
「だからシルクナイティ一式だって言ったじゃないですか〜。僕…憧れだったんですよねぇ」
何故だか天蓬はウットリと溜息を零して遠い瞳をした。
「あ?シルクのパジャマ脱がすのが?」
「それもありますけど…朝起きて、パジャマを捲簾と半分こしたいなぁーって」
「…半分こ??」
「捲簾が素肌に上だけ羽織って、僕は下のズボンだけってヤツですよ〜vvvラブラブパジャマを半分こは恋人同士の定番でしょうっ!あれ?捲簾??」
一気に野望を捲し立てた天蓬が気が付くと、捲簾は床に突っ伏している。
「けんれーん?どうかしたんですかー??」
「どーもこーも…」
捲簾が唸りながら身体を起こした。
「んなこっぱずかしい真似、この年になって出来るかあああぁぁっっ!!!」
顔を上げた捲簾は真っ赤になっている。
「えー?何でですかぁ!?ラブラブに年齢は関係ないでしょうっ!!」
「関係あるわボケッ!却下っ!!」
「えええぇぇっ!?折角そのために買ってきたのにーっ!!」
「俺にプレゼントだったんじゃねーのかっ!あぁ〜っ!?」
「…何でそんなにイヤがるんですか?」
「なっ…何でって」
じーっと上目遣いに睨め付けられ、捲簾はグッと言葉を詰まらせた。

天蓬が泊まって。
一晩中散々身も心も愛し合って。
朝、天蓬に抱き竦められた腕の中で目が覚めて。
肌寒さにもう少し温もりの中で微睡んでいたいけど、そう言う訳にもいかないから。
僅かに身動いだら、天蓬の目を覚まして。
目覚めにお早うのキスとかされたり、しかえしたり。
身体の奥で燻っていた昨夜の熱を思い出して、お互い身体を引き寄せ合って。
いや、この際ソレはどうでもいい。
熱の引いた気怠い身体を起こして、何か着ようと昨夜脱ぎ捨てたパジャマを探してたら。
ちゃっかり天蓬が先に下だけ穿いてしまって。
返せって言っても、ただ笑うだけで。
『朝から随分と扇情的ですよねぇ…その格好』
『お前が勝手に穿くから。仕方ねーだろ』
『凄く…そそられます』
『あ、バカ!ダメだって…っ』
『捲簾…可愛い』
そして、またもやベッドに引き戻されて。

「そうっ!ソレですよっ!!まさしく僕がやりたかったのはっっ!!」
興奮気味に頬を紅潮させ、天蓬が絶叫した。
「………あ?」
どうやら捲簾は妄想していたことを、無意識に口に出して解説していたらしい。
はっと我に返った時には、ガッチリ天蓬に抱き竦められていた。
「嬉しいですぅ…捲簾もやっぱりしたかったんですよね〜、パジャマ半分こvvv」
あまりの恥ずかしさに全身真っ赤に染めて、捲簾は挙動不審に視線を彷徨わせる。

これはっ!あくまでもそうなるだろうな〜って予想であって、俺の願望なんかじゃなーいっ!!

言い返したいのだが羞恥で頭に血が上りすぎ、肝心の言葉が出てこない。
酸欠の金魚のようにパクパクと唇を戦慄かせていると、明らかにイッちゃった目つきで天蓬が捲簾を愛おしげに見つめてきた。
「明日の朝…しましょうねvvv」
クラッと一瞬意識が遠のいたが、何とか耐えきる。
「…ヤだ」
ようやっと拒絶の言葉を口にした。
ここで歯止めを掛けないと、何処までも暴走しそうで恐い。
「えーっ!どうしてですかぁ」
「どうしてもっ!」
「折角のバレンタインなのに?」
「うっ!」
「…恋人達のラブラブデーなのに?」
「ううぅぅ〜っ!」
捲簾はこれでもかと言うほど顔を真っ赤に染めて、ひたすら煩悶して唸った。
未だに戸惑っている捲簾を眺めて、天蓬はコッソリと口端に笑みを浮かべる。
捲簾の身体を抱き寄せると、耳元に唇を寄せた。
「捲簾…ダメ?」
甘く掠れた声音で、溜息混じりに低く囁く。
瞬間捲簾の身体はビクッと硬直して、小さく震えだした。

撃沈。

「今日だけ…だからなっ!」
「けんれ〜んvvv」
嬉しそうにムギュッと勢いよく抱き締め、天蓬が捲簾の頬にスリスリと頬摺りする。
捲簾はと言えば、内心冷や汗ものだ。
無いとは思うが。
万が一そんな姿を簾や悟浄に見られたりしたら。
考えるだけでも恥ずかしくてどうしようもない。
それでも。
天蓬がこんなに喜んでいるなら。
まぁ、いいかと。
結局捲簾は惚れた弱みで天蓬を甘やかしていた。
「てんぽー」
「はい?」
「他のヤツは?」
捲簾は天蓬に抱きつかれたまま、まだ残っているプレゼントを指差す。
こうなったら全部見ないと気が済まない。
さすがにこれ以上精神的に疲れるようなモノはないだろうと、捲簾はたかをくくった。

しかし。
まだ天蓬のことを見誤っていた。

残る箱はもう少ない。
捲簾は手近な箱を手に取った。
「…やけにコレ、重くねーか?」
持った瞬間、手にズッシリとした重量感がある。
試しに振ってみると、ガチャガチャと金属がぶつかる音もした。
何が入っているのか、捲簾には全く見当が付かない。
「あー…それは〜捲簾がすっごぉ〜く似合うと思いましてvvv」
何故か天蓬は頬を染めながら視線を逸らした。
明らかに挙動が怪しい。
捲簾は不信感も露わに箱と天蓬を交互に見比べた。
捲簾の額に嫌な汗が滲んでくる。
期待に瞳を輝かせて、天蓬がチラチラと捲簾へ熱い視線を送ってくるのも嫌だ。
意を決して捲簾はプレゼントのラッピングを破り、箱を開けた。

「…何だ?コレは」

中に入っていたモノを掴み上げると、目の前に翳して揺らす。
カチャカチャと。
鎖に繋がった革製の輪っかが4つ揺れた。
「あれ?捲簾もしかして知りませんでした?それはですね〜」
天蓬が嬉々として説明しようとするのを遮り、鼻先に広げてみせる。
「知っとるわっ!何でテメェは足枷なんか買ってきやがるんだあああぁぁっっ!!」
「違いますよっ!それは股を広げて、手首と足首を一緒に固定できる優れ物なんですっ!」
「んなこと自慢気に説明すんじゃねーっっ!!」
捲簾は怒鳴り散らして、持っていた枷を投げつけた。



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