Valentine Attraction |
「ぜーったい似合うと思うんですけどぉ〜」 天蓬はブツブツ言いながら、放り投げられた枷を拾った。 未練がましく鎖をジャラジャラと鳴らして弄ぶ。 「だったらテメェが付けろ」 捲簾のこめかみが怒りで引き攣った。 やっぱり天蓬はバカだ。 バレンタインに枷を似合うからとプレゼントするのはコイツぐらいだろう。 よくよく考えれば、枷を付けて悦ぶのは自分じゃなくて天蓬だ。 こうなると残りのプレゼントも怪しい。 キッチリ確認して叱っておかないと、また同じコトをするに決まっている。 あまりの馬鹿らしさに頭痛がしてきた。 「おい…残りの箱、全部貸せ」 「あ、コレですか?どーぞvvv」 やけに嬉しそうなのがまた怪しい。 できるなら自分の予感は当たって欲しくなかった。 覚悟を決めると、捲簾は乱暴な手つきで残りの箱を全て開けた。 「どうですか?全てお店推薦の最新商品を買ってきたんですよvvvあれ?捲簾??」 無造作に開けた箱の前で、捲簾は思いっきり突っ伏す。 俯いた捲簾の肩が小刻みに震え始めた。 「けんれ〜ん?どうしたんですか?あっ!もしかして早速使いたくなっちゃいました?」 天蓬は躙り寄って、ウキウキと捲簾の顔を覗き込む。 脳天気な声に、捲簾が勢いよく顔を上げた。 その視線は凶悪なほど据わりきっている。 「天蓬…お前…」 「はい?」 「何で俺にプレゼントでSMグッズ一式買ってきやがるんだあああぁぁっっ!!」 捲簾は真っ赤な顔で絶叫した。 目の前には。 拘束グッズが各種勢揃い。 ドコを締め上げるのか考えたくもない、やけに細いベルトの付いたモノやボールギャグ。 ついでに、定番ローターや形も異様なバイブも数種。 ご丁寧にニップクリップまである始末。 「えー?だってコレってお店イチオシのバレンタインスペシャルセットだって言ってましたよぉ?かなり好評の売れ筋商品ばかりらしいですから。それにコレはSMグッズじゃないですし〜」 「…コレのドコを見てSMグッズじゃないと?」 捲簾の頬が思いっきり痙攣する。 「だって、鞭も蝋燭も浣腸もカテーテルも無いから♪」 天蓬が爽やか笑顔で当たり前のように答えた。 クラッと捲簾の視界が白く霞む。 しかしこんな状態で気絶しては、これ幸いといいように弄ばれるのは明白だ。 捲簾は必死に意識を繋いで、頭を激しく振った。 何度も大きく深呼吸を繰り返し、鋭く天蓬を睨み付ける。 「…テメェはコレで俺に何する気なんだ?あぁ!?」 強い語気で詰め寄ると、天蓬は一瞬間の抜けた表情をしてから突然頬を染めた。 恥ずかしそうに視線を逸らして、先程投げつけられた下着をもじもじと弄りだす。 ゾクッ。 捲簾の背筋を悪寒が駆け抜けた。 全身からはドッと冷たい汗が噴き出す。 「えっと…ですね?捲簾ってばシテる時にすっごいイヤらしいこと言われたり、散々焦らされると感じまくって悦いみたいなので…どうせなら正統的な道具を使ってみたら、もっと気持ち悦くなってもらえるかなーってvvv」 「んな訳あるかーーーっっ!!!」 ハッキリと淫乱扱いされ、捲簾は羞恥と怒りで涙が滲んでくる。 「え?いつもの僕とのセックス…悦くなかったんですか?」 「へ?」 「僕…出来るだけ捲簾の希望に沿うよう頑張ってるんですけど」 「………。」 何だか話の雲行きがマズイ方向に。 天蓬は俯いて意気消沈。 ショックを受けて打ち拉がれているみたいだ。 哀しげに小さく溜息なんか零している。 どうしたらいいか、捲簾は途方に暮れた。 確かに、天蓬とのセックスは気持ち悦い。 身体の相性はメチャクチャ合う。 それこそ自分が受け身でも気にならないというか、気持ち悦過ぎてどうでもいいと思うぐらいだ。 しかし。 今ここでソレを言うのは躊躇してしまう。 天蓬に誤解だ、勘違いするなって言うことは、要するに。 自分が天蓬に卑猥な言葉で責められて、身体も散々焦らされて泣くまで達かせて貰えないのが、もの凄く感じてしまってクセになってるっ!と、肯定することになる。 そんなこと口が裂けたって言えない。 あーっもうっ!一体どーすればいいんだよぉっ!! 捲簾は一人グルグルと煩悶した。 考えたところで、堂々巡り。 言ってしまうしかないだろう。 「別に…天蓬とのセックスがイヤな訳じゃねーよ」 チラッと天蓬が視線を上げた。 上目遣いでじっと捲簾を伺ってくる。 だからといって肯定も出来ない。 「道具なんか使わなくたって、天蓬だけで俺は充分気持ち悦いし、頭吹っ飛ぶほどイケるけど?」 「…本当ですか?」 心細そうに瞳を揺らして、天蓬が小さく首を傾げる。 うっ…今その顔は反則だろっ! んな可愛い顔したって…したってっ!ダメ…だからっ!! やっぱりこんな時でも捲簾の面食いは懲りることがない。 グラつく理性をどうにか持ち堪えさせる。 むやみに上昇する心拍数を抑えようと、大きく深呼吸した。 なおも見つめてくる天蓬に、悠然と微笑む。 「それとも、お前の方が俺の身体じゃ不満とか?」 「そんなこと天地がひっくり返ったってありえませんっ!!」 天蓬が立ち上がり、大声で断言した。 勢い余って捲簾の身体につんのめる。 「おっと…」 倒れ込んできた身体を支えると、天蓬はやけに気合いを漲らせて顔を近づけた。 「捲簾の身体はどこもかしこも綺麗ですよっ!ちょっと弄っただけで真っ赤になって硬くなっちゃう可愛らしい乳首も、感じやすくってすぐに先奔りでグチョグチョに濡れちゃうアレも、おっきな僕のナニを見ただけでヒクヒクとお強請りしておクチを開いちゃうお尻の穴も何もかもが絶品で―――――」 「誰が詳細に説明しろって言ったあああぁぁっっ!!!」 捲簾は全身真っ赤に染めて憤慨し、天蓬の頭を極太バイブで殴りつけた。 息を荒がせ、ポイッとバイブを投げ捨てる。 頭を抱えて天蓬が低く唸った。 「痛いですよぉ〜何でぶつんですかぁ〜」 天蓬は涙目になって、不満そうに頬を膨らませる。 「自業自得だ、バカ天」 チラリと冷たく一瞥。 捲簾は素っ気なく吐き捨てた。 「だって〜僕がどれだけ捲簾のことを愛してるか、分かって欲しかっただけなのに〜」 「…アレのどこがだよ」 「あれ?分かりづらかったですかね?じゃぁもう一度更に詳しく言いましょうか?」 「言わんでいいっっ!!」 「そうですか?」 不思議そうに目を丸くする天蓬に、捲簾は眉間を押さえる。 冗談やからかっているつもりなら、部屋から蹴り出してやるところだが。 天蓬の場合、本気で大真面目にそう思っているから質が悪い。 だからと言って理解してやるつもりも更々無いが。 捲簾は身体をソファに凭れ掛け、額を押さえる。 「とにかく…ソレ。ぜってぇ使わねーかんな」 「え?何でですか?折角あるのに??」 「何でって…」 恥ずかしいからに決まってんだろうっ! 「だって、捲簾恥ずかしいの結構ドキドキして気持ち悦いでしょ?」 「………。」 「外とか車の中でするのは結構好きでしょう?羞恥心って変わらないと思うんですけど?」 それは…そうだけど。 捲簾の信念が段々と揺らいできた。 「捲簾は今までこういう道具、使ったことあります?」 「へ?俺がっ!?」 「いえいえ。女性とのセックスで、です」 「…ローターとかバイブはあるけど」 「その時、捲簾の目の前で使っていた女性はどうでした?」 「どうって…」 暫し捲簾が過去に思考を泳がせる。 自分が見ている前で、彼女たちはどうだったかなんて。 「…気持ち悦さそうだった、かな?」 「でしょう?目の前で貴方に自分の恥ずかしいところを見られてしまう。恥ずかしくて仕方ないけど身体は興奮して感じてしまって。そんな淫らな自分に酔いしれてるんですよ」 「…だから?」 「捲簾はどうです?今まで僕とセックスしてきて」 「俺…は…っ」 全く彼女たちと同じだった。 綺麗な天蓬に辱められ、自分のドロドロとした卑猥な部分を晒け出して。 そんな自分に堪らなく感じてしまって、あられもない嬌声を上げている。 見る見る捲簾の頬が羞恥で紅潮してきた。 天蓬は両手で捲簾の顔を包んで、艶やかな笑みを浮かべる。 「それをもっともっと気持ち悦く出来る道具なんですよ」 睦言のように吹き込まれて、捲簾は鼓動を高まらせた。 でも。 「…やっぱヤだ」 「捲簾?」 捲簾は小さく呟くと、唇を噛んだ。 そんなことまでして、自分の恥部を暴かれるのには躊躇いがある。 いくら天蓬が好きでも、それを望んでいるとしても。 身体と心が上手く噛み合わない。 黙り込んでしまった捲簾に、天蓬はコツンと額を合わせた。 「僕に見せるのがイヤ?」 「そうじゃ…ねーよ」 「僕にはまだ捲簾の全部を見せては貰えないのかなぁ…」 「天蓬…っ」 哀しそうな声音に捲簾が視線を上げる。 「信用…出来ない?」 捲簾は黙って首を振った。 「もうちょっと…待ってくれよ」 「どれぐらい?」 「そんな…具体的には…」 「じゃぁ、来月あたりはどうです?」 「来月って」 えーっ!?すぐじゃねーかよっ!! 「う…えっと…」 捲簾が口籠もっていると、天蓬がギュッと抱き締めてくる。 「こういうことって、きっかけなんですよ」 諭すように優しく、捲簾の背中をゆっくり撫でた。 「何だよ?来月のきっかけって」 「ホワイトデー、とか」 「あ?」 「僕もチョコのお返しいーっぱいしますからvvv」 「…お返し」 「イベント記念にね?」 「イベント…」 捲簾は言葉巧みな天蓬に洗脳されていく。 少し考え込み。 「ホワイトデー…だけなら」 「本当ですかっ!?嬉しいですーっっ!!」 喜色満面笑顔を零して、天蓬が愛おしそうに捲簾を抱き竦める。 言ってしまった恥ずかしさに、捲簾はカッと頬に朱を散らせた。 そして、苦笑を浮かべる。 仕方ない。 やっぱ天蓬が好きだし。 捲簾は天蓬の肩にコトンと額を乗せて、甘えるように擦り寄った。 欲情の孕んだ雄の瞳で、天蓬がウットリと捲簾を見つめる。 興奮で頬を染めて、ソワソワと落ち着きがない。 準備万端、今にもこの場でのし掛かってきそうな勢いだ。 ギュッと天蓬に腕を回して抱きつくと、耳元に唇を寄せる。 「犯るならベッド」 「はいっvvv」 そのまま勢いよく捲簾を抱えて立ち上がると、天蓬は寝室へと突進していった。 |
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あ、あんな所にオマケ話がっ!