Valentine Attraction |
テーブルで捲簾が真っ青な顔をして口元を掌で覆っている。 「ご馳走様でした。美味しかったです〜vvv」 捲簾からバレンタインで貰ったガトーショコラを食べきって、天蓬は満足げにフォークを置いた。 そう、食べきった。 ガトーショコラのデコレーション、まるまる1個をペロリと。 夕食もキッチリ食べて。 その上ケーキを丸ごと1個食べきるとは。 甘い物は別腹、はオンナだけじゃないのか!? 捲簾は見ているだけで気持ち悪くなり、込み上げる胃液を必死に飲み込んで堪えた。 のほほんと紅茶を飲んでいる天蓬を、珍獣を見るかのように捲簾はしげしげと眺める。 「ん?何ですか、捲簾?」 「お前…一体どういう胃袋してんだよ?」 「はい?僕の胃袋…ですか??」 「何で丸ごと1個ケーキなんか食えるんだよっ!」 確かに、ケーキを作ったのは自分だ。 だけど、普通一切れ…せいぜい二切れぐらいで満足するもんだろう。 酒も入ってるのでちゃんと冷蔵庫に入れておけば1〜2日は保つし、そのつもりで捲簾も作った。 それが! ケーキを切り分けもせずに丸ごとバクバク食って、しかも食い切るなんて! 誰がそんなビックリ人間大集合の特技を披露しろって言ったっ!? 美味しそうに食べて貰えるのを見れて嬉しかったのは、ほんの数分。 後は捲簾自身が我慢大会している気分だ。 もう、これからは天蓬にデコレーションのままケーキなんか絶対出さねぇっ!と決意する程視界の苦行だった。 込み上げた胃液が気持ち悪くて、捲簾はひたすら紅茶を飲みまくる。 「うううぅぅ〜気持ち悪ぃ〜胸焼けするぅ〜」 「ええっ!大丈夫ですか捲簾!?」 「お前のせいだ、バカッ!」 捲簾は置いてあったケーキの蓋で、天蓬の頭をパコンと叩いた。 頭をさすりながら天蓬は首を傾げる。 「何で捲簾の胸焼けが僕のせいなんですか?ああっ!?もしや!!」 「あ?何だよ??」 「僕のせいで気持ち悪くなるって…捲簾が僕の子を妊娠っ!?」 捲簾が無言でケーキの蓋を持ち上げ、今度は角を天蓬の脳天に突き刺した。 「痛っ!!!」 「テメェは医者のクセに何馬鹿なこと言ってやがんだっ!!」 羞恥と怒りで顔を真っ赤にし、捲簾は大声で怒鳴り散らす。 「冗談ですよ〜冗談。じゃぁ何で僕のせいなんですか?」 「普通、目の前でケーキ丸ごと食われたら、見てる方は気持ち悪くなるっつーの」 「え?だって捲簾の作ったケーキ、結構小さめでしたし…あれぐらいなら僕もう1個食べれますよ?」 「もー1個まるまるだああぁぁっ!?」 「…そんな驚くようなことですかねぇ?」 辛党と甘党の主張では何処まで行っても平行線だ。 捲簾はゲッソリと嫌そうに顔を顰める。 「でも、ケーキは本当に美味しかったです。じゃなければ僕だって1個全部食べたいなんて思いませんから」 幸せそうに微笑まれると、捲簾だって満更でなはい。 天蓬のために作ったケーキを本人が満足して平らげてくれたなら、捲簾だって嬉しかった。 「…ご馳走様でした」 「いえいえ、お粗末様でした」 二人して顔を見合わせると、クスクスと笑いだす。 捲簾は椅子から立ち上がると、後片づけをし始めた。 箱はシンク横に避けてフォークだけ洗うと、結局使わなかった皿はそのまま棚へと戻す。 さて、とりあえずのお約束イベントは終わった。 後は。 恋人達のスペシャルメインイベントのみ。 「天蓬、風呂はどうする?」 キッチンの明かりを消して、リビングに移動した天蓬に声を掛けた。 「あ、僕ここに来る前に入ってきました」 「ふーん。随分と用意周到だな?」 意味深に捲簾が口端を上げる。 ソファに腰を下ろしている天蓬の腿にドッカリと乗り上げて座り込んだ。 天蓬は嬉しそうに捲簾の腰を抱き寄せ、胸元に鼻をすり寄せる。 「当然でしょう?お風呂に入ってる時間さえ無駄にはしたくなかったんです…こうして」 腰に回っていた天蓬の掌が、ゆっくりと身体の線に沿って伝い降りた。 硬いデニムの布越しに、形の良い臀部を鷲掴む。 「あ…っ」 「もっといっぱい…捲簾に触れていたい」 熱い溜息を吐く天蓬の頭を、捲簾は子供にするように撫でた。 「でもそれならさ。俺と一緒に入ろうとは思わなかった訳?」 「………え?」 天蓬が見上げた先には、捲簾が意地悪く微笑んでいる。 捲簾と?一緒にお風呂?? 「ああああぁぁーーーっ!そんな手がっ!!折角久しぶりに捲簾と一緒にお風呂入れるチャンスだったのにいいぃぃっ!!!」 心底悔しそうに唸って、天蓬がギュウギュウ抱き締めた。 捲簾はゲラゲラと頭上で大笑いする。 「そーんなに俺と風呂入りたかったんだ〜アッハッハッ!」 「…僕のことからかって楽しそうですね」 思いっきり機嫌を損ねて、天蓬がふて腐れた。 さすがにからかいすぎたかと、捲簾は身体を起こして天蓬の顔を覗き込む。 視線も合わさず、天蓬はムスッと押し黙った。 「てーんぽ?」 「………。」 「悪かったって。機嫌直せよぉ〜」 「………。」 相当ヘソを曲げたようだ。 捲簾がどんなに宥めても、無言のまま何も返さない。 さすがにちょっと捲簾も思案する。 言葉でダメなら態度でどうにかすればいい。 捲簾の両手が天蓬の頭をやんわりと引き寄せた。 もう何も余計なことは言わず。 天蓬の額に、鼻に、頬に。 顔中にキスの雨を降らせた。 擽ったそうに天蓬が僅かに身動ぐ。 自然と口元には笑みが浮かんでいた。 その、綺麗な形の良い唇に。 捲簾は何度も啄んで口付けた。 次第に解けていく唇が、捲簾を淫靡に誘う。 濡れた舌先がチラリと覗くと、自分の口腔へ招き入れた。 「んっ…ぁ…っ」 欲望が堰を切ったように溢れ出す。 天蓬の頭を抱え直して、激しく貪る。 捲簾は自分からも舌を絡ませ、喉奥まで吸い上げた。 口蓋や歯肉をネットリと舐め回されると、背筋をビリビリと快感が駆け抜ける。 気持ち悦すぎて、呼吸するのも忘れそうになった程。 互いの唇が、顎が、喉までも。 唾液で濡れるのも構わず、ひたすら夢中になって口腔を犯し合った。 このまま一つに溶けてしまうんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。 「ふぁっ…」 ヌチュ、と。 濡れた淫音を立てて、捲簾の方から舌を引き離す。 身体を傾がせると、天蓬に凭れ掛かって乱れた呼吸を整えた。 大きく上下する背中を、天蓬は撫でてあやす。 「…大丈夫ですか?」 天蓬の声も掠れていた。 「ん…直った?」 「え?」 「機嫌…」 潤んだ瞳で捲簾が笑いかける。 一瞬天蓬は目を見開いて。 すぐに双眸を細めて頷いた。 「でも、油断すると僕はすぐ拗ねちゃいますよ?」 「ドコの…子供…だよっ」 天蓬の後頭部を軽く小突いて、捲簾が喉で笑う。 「ところで、捲簾?」 「何?」 「まさかこれで終わりですか?」 欲情を滾らせた瞳で、天蓬が艶やかな笑みを浮かべた。 「それこそまさか、だろ?」 捲簾は跨いでいる天蓬の腿に、自分の下肢を擦り付けて誘う。 互いの昂ぶった熱が触れ合った所から破裂しそうだ。 ギシッとソファが軋みを上げる。 「このままココで?」 「それはちょっと…落ち着かねーよ。簾が気になって愉しめないじゃん」 「いけないお父さんですねぇ〜」 「あっそ?『今』はお父さんじゃねーもん」 「そうなんですか?」 「今は…天蓬の恋人、じゃねーの?」 「…淫乱な恋人は大好きです」 「俺も〜」 二人して互いの服の中に手を入れ、身体を撫で合う。 煽るような蠢きに皮膚が粟立ち、淫靡な熱がどうしようもなく高まった。 「うわっ…何か…すっげキちまった…かも?」 「ベッドに行きますか?」 「ん…」 捲簾は天蓬の腿からスルスルと床に滑り降りた。 すると。 何気なく視線を向けた先に目が止まった。 天蓬が持ってきたナゾの風呂敷包み。 確か、自分へのプレゼントだって言っていた。 「………。」 身体は欲情した状態。 でも、目先の包みも気になってしまう。 座り込んで動かない捲簾に、天蓬が首を傾げた。 「捲簾?」 肩を揺すると、ゆっくり天蓬へ視線を向ける。 「なぁ…アレ、何が入ってるんだ?」 「え?」 「だから、アレ。天蓬が持ってきた風呂敷」 「あぁ。すっかり忘れていましたね…でも」 「でも?」 「…後にしませんか?」 身体が切羽詰まっているのは天蓬も同様。 本当は寝室に移動する余裕も一杯一杯だった。 ところが捲簾は。 「…気になる」 じっと風呂敷包みを見つめたまま動こうとしない。 このままでは寝室で抱き合ってても上の空になりそうだ。 「仕方ないですねぇ…」 天蓬は苦笑して諦めると、風呂敷包みを捲簾の前まで持ってきた。 結構な大きさのそれを、捲簾はワクワクと眺める。 「色々買い込んだのはいいけど、本当に捲簾が気に入ってくれるのかどうか」 「何で?俺のために買ったんだろ?何でも嬉しいけど」 さらりと言葉を返され、天蓬は驚いて捲簾を見つめる。 「何驚いてんだ?」 捲簾が真剣に首を捻る姿に、天蓬は笑いが込み上げてきた。 本当に、敵わないなぁ。 「じゃぁ、開けますね」 「早く早く♪」 捲簾に急かされ、天蓬は風呂敷包みの結び目を解いた。 |
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