White day Attraction |
自分で思った以上に疲れていたらしい。 捲簾に無理矢理ベッドへ放り込まれて、大人しく布団に入ってすぐ。 段々と瞼が重くなってきた。 先程から生欠伸が止まらない。 「ふぁっ…んー?そんなに無理していたつもりはないんですけどねぇ」 ごそごそと布団の中で楽な体勢を作り、深々と枕に頭を沈めた。 布団はフカフカで暖かくて。 何より捲簾の匂いがする。 枕を抱えて顔を埋めると、まるで捲簾を抱き締めている感じで幸せな気分だ。 室内も静かで、僅かに扉の向こうから捲簾の立ち働いている気配がする。 きっと食事の準備をしているのだろう。 こうして捲簾の気配を感じるだけで、心が満ち足りて穏やかになる。 「はぁ…何か…気分イイですぅ…」 天蓬はあっという間に熟睡してしまった。 「おっし!出来た〜っと」 捲簾はエプロン姿でコキコキと肩を鳴らす。 天蓬や簾が既に揃ってることを考えて、手早く出来る夕食メニューにした。 今日のメニューは中華。 天蓬も居ることだし栄養を考慮した和食にしようかとも考えたが、それだと煮物などに時間が掛かる。 それは明日の休みでもイイかと思い直し、手っ取り早く作れる中華にしてみた。 出来るだけ野菜を多く使った、捲簾の特選レシピ。 油も少なめにして、メインも鶏の蒸し料理にした。 出来上がった所で、捲簾はリビングにいた息子に声を掛ける。 「れ〜ん、メシ出来たから天蓬を起こしてきてくれるか?」 「はぁーい♪」 簾はソファから飛び降りると、天蓬が眠る父親の寝室へ走っていった。 そっとドアを開けて室内を覗き込む。 「…天ちゃんセンセー?」 声を掛けても返事はない。 室内は静かで、天蓬の規則正しい呼吸だけが聞こえてきた。 トコトコと簾がベッドに近付く。 ベッドを覗き込むと、枕を抱えて天蓬が気持ちよさそうに眠っていた。 「天ちゃんセンセー、起きて〜?ゴハンできたって〜」 ポンポンと簾は布団の中で丸くなる天蓬を叩く。 「ん…」 コロン、と。 天蓬が仰向けに寝返りを打った。 それでも目覚める気配はない。 何度か起こそうと身体を揺すってもみたが、余程眠りが深いのか全く反応が返ってこなかった。 困った簾は腕を組んでうーん、と思案する。 父親に頼まれた以上、何としてでも起こさないといけない。 それに簾自身お腹も空いていた。 早く天蓬を起こさなければ、それだけ食事をする時間が遅れる訳で。 簾はどうやって起こそうかと必死になって考えた。 「パパはいつも天ちゃんセンセーをどうやって起こしてたっけ?」 いつも天蓬が泊まっているときのことを思いだしてみる。 意外と寝汚い天蓬は、大声を出したぐらいじゃなかなか起きない。 大抵捲簾は、天蓬をベッドから蹴り落としたり目覚まし時計で殴りつけたりしていた。 それだけやっても床に転がったまま寝ようとするときもある。 とりあえず、簾は父親を参考にしてみることに決めた。 しかし小柄な子供の身では、大人の天蓬を蹴り落とすことは不可能だ。 簾はキョロキョロと首を巡らせ、目的のモノをベッドサイドで発見する。 「あった!よいしょ…と」 ググッと小さな身体を伸ばして、目覚まし時計を手に取った。 「…大丈夫かなぁ?」 ちょこんと首を傾げて、未だすやすやと眠る天蓬を見つめる。 意を決して頷くと、簾は腕をめいいっぱい頭上まで持ち上げた。 「えいっ!」 ガコッ!!! 「んがっ!?」 簾の投げた目覚まし時計は見事天蓬の額にヒットする。 唐突に襲ってきた激痛に、天蓬は額を押さえてベッドから転がり落ちた。 額を押さえて床に突っ伏したまま、意味不明な寝言を呻いている。 「天ちゃんセンセー?起きたぁ??」 トコトコと床に転がる天蓬の横に回り込むと、簾はしゃがみ込んで様子を伺う。 「天ちゃんセンセー、おはよー?」 小さな掌で天蓬の肩を揺すってみた。 ブツブツと呪いの呪文のような寝言がピタッと治まる。 ゆっくりと身体が反転して、天蓬が仰向けに転がった。 ぼんやりと瞳は開いているが、焦点が定まっていない。 どうやら完璧に寝惚けているらしい。 気怠げにじっと覗き込んでいる簾の顔を見上げていた。 その覚醒していない無意識のフェロモンに、小さな簾は思いっきり当てられてしまう。 簾の大好きな綺麗な顔が、壮絶な色香を放っていた。 まだ子供の簾は訳が分からず、ただドキドキと鼓動を高鳴らせる。 「て…天ちゃんセンセー?」 「捲簾…?」 目の前にいる簾を捲簾と間違って、天蓬は嬉しそうに蠱惑的な笑みを浮かべた。 スッと。 天蓬の腕が上がって、大きな掌が簾の頬を捕らえる。 優しく頬を撫でられて、簾は顔を真っ赤にした。 「天ちゃんセンセー?えっと…」 簾がどうしていいか分からず固まっていると、突然頭が引き寄せられる。 「え…っ?」 簾の瞳が驚きで大きく見開いた。 うそっ! 天ちゃんセンセーにチュウされちゃってる!? 天蓬は小さな身体を抱き寄せて、震える唇に柔らかなキスを贈る。 何度も可愛らしい無垢な唇を啄む。 あまりの驚愕に、簾は抵抗することも出来ない。 されるがままにじっとしていると、天蓬が小さく首を傾げた。 いつもなら誘うように開かれる唇が、解かれる気配がない。 あれ? 捲簾ってば僕がなかなか起きなかったから拗ねてるんですかね? そういう焦らし方も可愛いなぁvvv 完全に寝惚けている天蓬は、まだ捲簾を抱き締めていると思い込んでいた。 これはいっそ強引にスルぐらいの方がいいのかな、と天蓬は自分に都合良く判断する。 そっと舌先を覗かせると、頑なに閉ざされている唇をこじ開けようと蠢いた。 「◇●☆□×◎▲○★◇〜〜〜っっ!??」 いきなりヌルリと口の中に入り込もうとする天蓬の舌に、簾は震えながらパニックを起こす。 どうしていいか分からず、ジワリと涙が浮かんで泣きそうになった。 パパッ!どうしよーっっ!!! 心の中で父親に助けを求めると、タイミング良く寝室のドアが開かれる。 「ったく…いつまで寝てんだよっ!さっさと起き…なにやってんだあああぁぁっっ!!!」 息子をガッチリ抱え込んで口付けている天蓬を発見して、捲簾が絶叫した。 慌てて駆け寄ると、泣きそうな顔で震えている小さな身体を奪い取る。 「パパぁ〜〜〜っっ!!」 簾は真っ赤な顔でしゃくり上げると、必死に捲簾へしがみついた。 これだけ大騒ぎしているにも拘わらず、天蓬はまだ寝惚けてぼんやりしている。 ぷち。 捲簾の脳裏で何処かがキレた。 「テメェは…いい加減目を覚ましやがれーーーっっ!!!」 「がふっ!!!」 捲簾渾身の蹴りが、天蓬の鳩尾に思いっきり炸裂する。 身体が跳ね上がり回転する程の威力に、さすがの天蓬も覚醒した。 げほげほと胃を押さえて咽せながら、床の上で項垂れる。 「も…いきなり何ですかぁ〜ゲホッ!」 寝起きを襲撃された理不尽さに、天蓬は涙目になって捲簾を見上げた。 が。 目の前には憤怒の表情で、簾を抱き上げ仁王立ちする捲簾が。 「…どうかしたんですか?」 捲簾の常にない怒りを感じて、天蓬は恐る恐る見上げた。 何故だか簾は捲簾に抱きついて泣いているし。 自分が眠っている間に何かあったんだろうか。 寝起きで頭が働かず、天蓬はただ困惑した。 縋るように捲簾を見上げると、冷たい視線で一瞥される。 「…テメェ。よりにもよって、こんなちっちゃな子供にナニしやがろうとしたんだ?」 「え…簾クンに…ですか?」 天蓬はきょとんと目を瞬かせ呆然とした。 ナニをするも、自分は今目が覚めたばかりだ。 何で簾が泣いているのかだって、全く分からない。 本気で困ったように見つめてくる天蓬に、捲簾は額を押さえて溜息を零した。 コイツ…寝惚けて俺と間違いやがったのか。 あまりにも間抜けすぎて怒りが削がれてしまった。 エグエグとしゃくり上げている簾の背中をさすって宥めて、天蓬を呆れながら見下ろす。 「お前なぁ…起こしに来た簾を俺と間違えて、思いっきりベロチュウかまそうとしやがったんだよ」 「えええぇぇーっっ!?」 天蓬が驚いて声を上げると、簾は真っ赤な顔で振り向いてじっと天蓬を見つめた。 よほど驚いたのだろう。 簾がぽろぽろと涙を零してギュッと捲簾に抱きついている。 さすがにバツが悪いのか、天蓬は視線を逸らせて俯いた。 「僕…大変なことをシテしまったんですねぇ」 ほぅ、と天蓬は大きく息を吐く。 いちおうは反省しているらしい態度に、捲簾は小さく肩を竦めた。 「簾?もう大丈夫だからな?男なんだから泣くんじゃねーぞ?」 捲簾が優しく宥めると、簾はコクリと頷く。 「レン…すっごいびっくりしちゃって。天ちゃんセンセーにはパパがいるのに…チュウしちゃったから」 「……………あ?」 簾はもじもじ恥ずかしそうに頬を染めている。 予想外の反応に、捲簾は目を丸くした。 いきなりあんなことをされて、怯えているとか嫌悪しているとか。 どうやらそういうことではないらしい。 「えっとな…簾?」 「なぁに〜?」 「天蓬のこと…怒ってねーのか?」 「天ちゃんセンセーを?何で??」 「何でって…」 逆に突っ込まれて捲簾は言葉を詰まらせた。 どうしたらいいか煩悶していると、漸く天蓬が立ち上がって、捲簾に抱き抱えられている簾を覗き込む。 「簾クン、ごめんね?簾クンがパパにそっくりで可愛かったから、間違っちゃったみたいで…イヤだったでしょう?」 「おっ…お前っ!何子供に言ってんだよっ!」 焦って捲簾が天蓬の言葉を遮ると、当の簾はニッコリ微笑んだ。 「ううん。ビックリしちゃったけど…レン…天ちゃんセンセーにチュウされてもヤじゃないよ?」 ぽっvvv 簾は頬を染めると、恥ずかしそうに捲簾へしがみ付いた。 息子の態度に、捲簾は思いっきり頬を引き攣らせる。 い…今の簾の反応は…もしかして。 「おや?そうでしたか。よかった…でも簾クンの大切なファーストキスを奪っちゃいましたね、僕。あははは♪」 「あははじゃねーだろっ!」 捲簾は暢気に喜んでいる天蓬の頭を激昂して殴りつけた。 キツく睨み付けると、天蓬が双眸を眇めて妖しく微笑む。 ドクン。 捲簾の鼓動が大きく昂まった。 「な…んだよ…っ」 条件反射で身体を引くと、逆に綺麗な顔が近付いてくる。 「ん…んっ!?」 天蓬は強引に捲簾の顔を引き寄せると、貪るように口付けた。 間近で濃厚な大人のキスを見せつけられ、簾は驚いて顔を真っ赤にする。 何度も角度を変えて口腔を舐り、思う存分捲簾の唇と舌を堪能すると、天蓬は満足げに舌を引き抜いた。 「ふぁ…んっ」 捲簾の膝が崩れそうになるのを、天蓬はしっかり抱き支える。 「そんなに可愛く嫉妬しなくても、僕は捲簾だけのものですからね」 耳朶を甘噛みしながら低い声で睦言を囁いた。 捲簾は図星を突かれて、羞恥で頬を紅潮させる。 戸惑うように視線を逸らせる捲簾を、天蓬は蕩けるような笑みを浮かべてウットリ見つめた。 一瞬垣間見た大人の世界に、簾はただ呆然としている。 「簾クンにはちょっと刺激的だったかな?」 はっと我に返ると、息子は目を丸くして捲簾を見上げていた。 うわーっ!俺は簾の前でナニやってんだよっ!! どうやって言い訳しようかグルグル考え込んでいると、簾が天蓬の方を向いてニッコリ笑う。 「パパっていつもはスッゴイ格好いいけど、天ちゃんセンセーといると可愛いんだね〜」 「おや?簾クン違いますよ?パパはいっつも可愛らしいですvvv」 「天ちゃんセンセーって、パパにラブラブだね?」 「はい、ラブラブですぅ〜vvv」 脳天気な息子と天蓬の会話に、捲簾は頭の中が真っ白になった。 |
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