White day Attraction



静かな室内で、微かな寝息と耳障りな金属音が鳴っていた。
「えーっと…先に足枷をつけてっと」
施錠のロック音がカチリと聞こえる。
眠っている捲簾の左足首には頑丈そうな革製の足枷が。
天蓬は満足げに口端を上げると、今度は右足首をそっと持ち上げる。
「コレを下に通して…よっと」
革ベルトを足首に巻き付けると、左足と同じく施錠部分をロックした。
「これでヨシ。さて、次が難題なんですよねぇ〜」
天蓬が取り付けた足枷は手枷と一体型のモノ。
まとめて拘束するには、捲簾の身体を前屈みに倒すか両脚を持ち上げなければならなかった。
天蓬は首を傾げて思案する。
あまり動かしては、枷で拘束する前に捲簾が目覚めてしまう恐れがあった。
それは非常にマズイ。
まぁ、暴れて抵抗されても、捲簾自身が拘束してもいいと承諾したことを切り札にすれば問題ないが。
天蓬はできるなら脅すような真似はしたくなかった。
そう言う天蓬の趣向が既に捲簾にとって驚異だとは、これっぽっちも気付いていない。
「う〜ん…横倒しに体勢を変えて、片足をとりあえず固定かな。で、今度は逆に倒してもう片足をつけるのが一番無理が無さそうかなぁ」
一人ブツブツと物騒な呟きを漏らして、天蓬はひたすら効率的な拘束方法を考える。
「とりあえずやってみましょうか」
なるべくベッドを揺らさないように、天蓬が慎重にベッドに乗った。
ギシッとスプリングが軋むが、捲簾は全く反応しないし目を覚まさない。
恐る恐る顔を覗き込むと、気持ちよさそうに寝入っていた。
天蓬は捲簾の肩に手を掛けると、ゆっくり身体を横へ反転させる。
「ん…っ」
一瞬天蓬の手が緊張で強張った。
動きを止めて様子を伺うが、捲簾はもぞもぞ動いて自らコロンと寝返りを打つ。
「…ラッキーですね」
天蓬は喉で笑いを噛み殺しながら、嬉々として放り出された捲簾の手首を足枷と繋がっている手枷に固定した。
しっかり施錠がロックされたことを確認すると、天蓬はベッドの逆側へ移動する。
慎重に捲簾の両肩を掴むと、少しずつ身体を反対側へ起こしていった。
「んんー…」
掴まれた手から逃れるように捲簾はむずがって、天蓬の思惑通り身体をコロンと反転した。
「捲簾ってば協力的で嬉しいですvvv」
天蓬はニンマリほくそ笑むと、上機嫌でもう片方の手枷もキッチリ固定する。
施錠がロックされたか確認して、一旦ベッドからスルッと滑り降りた。
ベッドから少し離れて、無防備に枷で拘束されている捲簾の肢体をウットリ眺める。
風呂から上がったままの、一糸纏わぬ扇情的な身体。
思わず天蓬は喉を鳴らす。
「イイですねぇ…捲簾すっごく似合ってますぅvvv」

自分の意思では動かせない程拘束して。
天蓬だけに縋って強請って媚びて懇願する姿。
そうして段々と従属する悦びを見出して、淫らに開花する心と身体。

「あーっ!もぅっ!!けんれ〜んっ!!!鼻血と精液噴き出しそうですぅ〜」
一人妄想に耽って、天蓬は悶えて身体を捩らせる。
呼吸を激しく乱すと、肩で息を吐いた。
頬を興奮で紅潮させ、天蓬はますます付け上がる一方だ。
「捲簾だって早くしたいですよねっ!僕頑張りますからっ!!」
下肢を締め上げる革製の拘束帯を握り締め、天蓬が声を上擦らせて気合いを漲らせる。
「とっ…とりあえず…仰向けになりましょうね…ちょっと体勢が辛いかも知れませんけど」
両腕を両足首に固定され膝をM字に曲げた状態で、捲簾の身体を仰向けに返した。
「ん…う…っ」
身体が動かせないことに違和感があるのか、眉間に皺を寄せて捲簾が小さく呻く。
しかし、こんな無理矢理な状態にされても捲簾は目を覚まさなかった。
あまりにも無防備すぎる捲簾に、無神論者の天蓬でも神様に感謝したくなる。
「感動している場合じゃないですよねっ!えーっとぉ…このベルトを脚に潜らせてっと。ちょーっと絞めますから我慢して下さ〜い」
両脚から通した革ベルトの輪を脚の付け根まで通して、キッチリゆるみを調節した。
少しキツ目に股関節を絞めると、穴に通して外れないよう金具を留める。
丁度両脚のベルトが交差する中心が、小さめの輪になっていて、その輪から30cm程の細いベルトが2本伸びていた。
その輪を捲簾の性器に掛けると、袋の下まで通す。
まだ何も反応してないが、この状態で勃起すると自然に革の輪が窄まり、性器を纏めて付け根から締め上げる形になる。
性器を拘束してから左右同じようにベルトで締め上げた。
「これで完璧ですね…」
天蓬は満足げに捲簾の股間を眺めるが、2本の細いベルトはそのままだ。
「ん?何か上半身が寂しいですか…あっ!そうだった!!」
ポンッと手を打つと、天蓬がリビングに向かって走っていく。
すぐ寝室へ戻ってきた天蓬の手には可愛くラッピングされた箱。
「本当は捲簾に渡してビックリさせたかったんですけど…結果オーライですよね」
勝手に納得して頷くと、天蓬は無造作にラッピングを破いた。
箱の中身は、豪奢なエナメル製の首輪。
特注品で捲簾の名前入りシルバープレートまで付けて貰った。
もちろん首周りのサイズもあらかじめコッソリ寸法を測ったので、正に捲簾のためだけに作らせたオーダーメイド。
それを天蓬は捲簾の首へと取り付けた。
首の緩みを調節してはめると、シッカリ施錠を掛ける。
「やっぱり僕の思っていた通りですよ…スッゴイ似合ってますvvv」
エナメルの艶やかな光沢が、捲簾の肌の色と合う。
天蓬はタップリ見惚れてから、首の後にある金具に鎖のリードを取り付けた。
身体が起きあがれない程度の長さを残して、その鎖をベッドヘッドに掛けると巻いて固定する。
「…壮絶に卑猥ですねぇ、捲簾」
出来上がった捲簾の拘束姿を満足そうに微笑むと、天蓬は捲簾の傍らに身体を寄せた。
かなり無理な姿勢に固定されているのに、未だ捲簾は目覚めない。
暢気と言うか、豪胆と言うか。
これからどんなことをさせられるのか分かって嫌がっていたのに、諸悪の根元である天蓬を前にしてこの余裕や無防備さは何だろう。
尤もそんな捲簾だからこそ、天蓬は甘えて無茶な要求をしてしまう。
天蓬に対して捲簾の包容力は底がないようにも思えた。

だから天蓬は試してみたくなる。
どこまで捲簾は自分を受け入れてくれるのか、と。

無邪気に眠っている捲簾の髪を撫でながら、天蓬は双眸を和らげ微笑んだ。
「捲簾…最高に気持ち悦くして上げますからねvvv」
天蓬はどこまでも自分の欲望に忠実だった。






「悟浄…あれ?悟浄??」
八戒が振り向くと、側で食器を片付けていた悟浄が居なくなっていた。
水気を拭った食器は既に棚へとしまわれている。
八戒は不思議そうに首を巡らせ悟浄の姿を探した。
「悟浄?トイレかな?」
水に濡れた手を拭っていると、寝室から悟浄がひょいと首を出す。
「はーっかい!ちょい…」
ニコニコ笑いながら悟浄が八戒を手招いた。
今度は何を企んでいるのか。
八戒は苦笑を零すと、呼ばれた通り悟浄の元へ歩いていく。
「どうしたんですか?そんな所で」
「いやな?八戒今日泊まるだろ?」
「…そうですけど」
「それでだっ!じゃーん♪」
悟浄は両手を八戒の前へ差し出した。
手に持っている物に目を留めると、八戒は驚いてまん丸く目を見開く。
「まぁ、折角のホワイトデーだしな?八戒用にって新調してみたんだけどさ〜vvv」
「新調は分かりましたけど…それを一体誰が着るんですか?」
八戒は胡乱な視線を悟浄へ向けた。
それも当たり前。
悟浄の手に握られていたのは、真新しい寝間着。
左手には綺麗な淡いグリーンのパジャマ。
生地の光沢と柔らかそうな感じからシルク製だろう。
まぁ、それはいい。
問題は。
「で?で?どっち着たいっ!?」
悟浄は八戒に問い掛けるが、勢いよく右手を前に突き出した。
「悟浄…貴方何考えてソレ買ったんですか?」
八戒の眉間がピクピクと引き攣る。
それもそのはず。
悟浄が八戒に着せようと買ってきた寝間着は、先程のパジャマともう一着。
右手には白のシルクオーガンジー製、セクシーネグリジェが握られていた。
胸元と背中が大きく開いたカッティングで、同じオーガンジー素材のレースがふんだんに使われている。
裾丈は短く、仮に長身の八戒が着れば股間がギリギリ隠れる程度。
ほんの少し屈んだだけでも、臀部が丸見えになるだろう。
別に屈まなくても透けているので丸見えだが。
何でそんな女物の寝間着を男の自分に大して嬉しそうに用意するのか、八戒には全く理解出来ない。
あまりの馬鹿らしさに頭痛がしてくる。
引き攣るこめかみを指で押さえて、八戒は呆れ返った視線で悟浄を眺めた。
「悟浄…何で男の僕がっ!そんなスケスケネグリジェを着なきゃなんないんですかっ!!」
「え?八戒ぜってぇ似合うって!」
「似合う訳ないでしょうっ!!」
「んなコトねーって!な?コレ着てくれよぉ〜!」
悟浄は瞳をキラキラ輝かせると、甘えた猫撫で声で八戒に強請る。
「悟浄…」
これ見よがしに大きな溜息を零して、八戒は痛む額を押さえた。

全く…悟浄は予想外に馬鹿なコトを考えつくから困りものですねぇ。
お馬鹿な所は可愛らしいと言えば可愛らしいですけど。
それも限度がありますよ。
やはり、ここはビシッと。
園児達と同じように躾しないといけませんねvvv

「コレ八戒が着てくれたら、俺すっげぇ嬉しいんだけどなー?」
俯いている八戒に悟浄は擦り寄って更に強請り倒す。
すると。
八戒が視線を上げた。

「ぜぇーーーったいイヤです♪」

花も綻ぶ満開の笑顔で八戒が微笑んだ。
「えええぇぇーっ!いーじゃんっ!今日ぐらいっ!ホワイトデーだぞ?恋人達のラブラブな一夜を過ごすための必須アイテムなんだぞっ!!」
「へぇ?コレを着るとラブラブで濃密な一夜を過ごせる訳ですか…ふーん」
八戒の優しい声音がいつもと違う。
漸く悟浄は異変に気が付いた。
見惚れる程綺麗な笑顔に優しく甘い声。
それはいつもの八戒と変わらないはずだが。

和らいだ笑みを浮かべる八戒の双眸は、全く笑っていなかった。

どうやら八戒の逆鱗に触れてしまったらしい。
「は…八戒さん?何か…コワイんですけどぉ」
ビクビクと怯えながら、悟浄が僅かに後ずさった。
「やだなぁ〜僕は全然怒ってなんかいませんよ?ええ…怒っていませんとも…ふふっ」
鋭い視線で悟浄を射抜くと、悟浄の腰をガッチリ掴んで引き寄せる。
間近で悟浄に瞳を覗き込み、八戒が意味深な笑みを浮かべた。
悟浄に身体からドッと冷たい汗が噴き出す。

な…何か知んねーけど、俺ってばもしかして大ピーンチッ!?

「え…と…八戒?」
「ラブラブホワイトデーの必須アイテムなんですよねぇ、コレ」
楽しげに囁く八戒の手には、悟浄から奪い取ったシルクのネグリジェが。
「勿論ホワイトデーのお返しっていうことで、悟浄がコレを着て!僕を悦こばせてくれるんですよね?」
「……………………………はい?」
八戒のとんでもない提案に悟浄は身体も思考も硬直した。
「だって、ホワイトデーにお返しくれるのは悟浄でしょう?ああ、心配しなくてもコレを着た悟浄も壮絶に可愛らしいでしょうから、ちゃ〜んと僕が愛をお返ししますから…悟浄が失神するまでvvv」
「なっ…何言ってんだーっ!?俺がこんなネグリジェ着たって気色悪ぃだけだろっ!」
「いえ、似合いますよ。絶対、間違いなく、確実に、それはそれは愛らしく扇情的な姿でしょうねぇ…あ、いけない。想像したらホラ」
「うわっ!?何でそんな間抜けな格好の俺を想像して勃つんだよっ!?」
八戒に股間をぐいぐい押しつけられ、悟浄は悲鳴を上げる。
既に八戒の雄は熱く勃起していた。
悟浄の顔色がサーッと青くなる。
「言い出したのは悟浄でしょう?今更逃げられませんからね…分かってるでしょうけど」
「落ち着け八戒っ!俺みてぇなゴッツイ野郎がそんなの着たって、妙だし気持ち悪いだけでっ!!」
どうにか八戒の暴挙を思い留まらせようと、悟浄は必死で言い訳した。
しかし、それは無駄な努力だ。

「…着て下さいね?悟浄」

ちょこんと小首を傾げながら、笑顔の八戒が拒絶を許さない。
悟浄は涙目になって、八戒の肩へガックリと項垂れた。



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