White day Attraction



あー…何だろ…頭揺れてる感じがするなぁ。

夢うつつの中、捲簾はぼんやりと思った。
軽い疲労感で、身体の芯が重力で真下に引っ張られている感覚がある。
頭も身体も沈み込むような。
決して溺れはしない水の中で、ゆっくりと漂っているように感じていた。

…海の中から陽の光眺めると綺麗なんだよなぁ。

捲簾は以前スキューバーダイビングした時の情景を思い出す。
潮の流れに任せ、ゆったりと漂いながら泳ぐのは案外気持ちいい。
全ての生物の源というのも、実感として納得した。
あの時の心地よさに何だか似ている。
フワフワとしていて、自然と眠りに誘われるような。
そのまま逆らわず、捲簾が深い睡眠に入ろうとした時。

…痛っ。

肌に突き刺すような痛みを感じた。
その痛みはジクジクと皮膚を舐めるように広がっていく。

何…だ?

それは一度で終わらなかった。
肌のあちこちで疼痛がして、捲簾は我慢出来ずに身体を捩る。
何だかむず痒くじっとしていられない。
痛みを覚えた肌からジンワリと熱が上がって、身体中が火照ってきた。
疼くような熱は下肢で燻り、次第に痛みは快感に変化する。
チリッと肌に差し込む痛みは、震えとなって背筋を駆け上がった。

あっ…ん…な…だよぉ…っ?

眠ろうとしていた意識が急浮上してくるが、瞼が重く閉ざされたまま。
その間も疼痛は途切れることがない。
痛みと熱をやり過ごしたくて身体を捩ろうとするが、硬直して思うように動かせなかった。
呼吸も乱れて何だか息苦しい。
下肢で燻る熱に耐えきれず、捲簾が声を漏らした。
「は…ぁ…あっ…ん」
一呼吸付くと、一気に意識が覚醒する。
重い瞼を開けようとするが、照明が眩しくて仕方ない。
思わず光を遮りたくて手で翳そうとした、が。

出来なかった。

無意識に上げようとした手が全く動かない。
力を入れてもびくともしなかった。
その代わりにガチャガチャと耳障りな金属音が聞こえる。
「くしょっ…ん…で…っ」
捲簾は顔を顰めると、思いっきり腕を引っ張り上げた。

ガチャンッ!

金属の擦れる嫌な音が大きく響いたのと同時に、何故か股関節に痛みが走る。
「いっ…てぇ…っ?」
訳の分からない状態に眉間を寄せると。

「んあっ!?」

唐突にゾクゾクとした快感が股間から湧き上がった。
瞬間、捲簾の瞳が大きく見開かれる。
視界の先は見慣れた天井。
どうやらベッドで寝ているらしい。
「あ…れ…俺?」
寝起きの頭で、今ひとつ自分の状況が分からなかった。
何度か瞬きを繰り返して、ぼんやりと思い返してみる。

何で俺ベッドに寝てるんだっけ?
いつ移動したんだ?
いやいや、それまで俺はなにしてたんだっけ?
えーっと…確かメシ食って風呂入ったトコまでは覚えてるんだよな。
そうそう、風呂入ったんだよっ!
で〜、頭洗って身体洗って〜湯船に浸かってボケーっとしてたら天蓬が入ってきて。
あ?
天蓬??

「あああぁぁーーーっっ!!!」
漸く捲簾は事の次第を全て思い出して絶叫した。
すると。

「あ、捲簾お目覚めですかぁ〜vvv」

暢気な声が何故か股間から聞こえてくる。
捲簾は驚いて覗き込もうと身体を跳ね上げた、つもりだったが出来ない。
「んがっ!?」
ガチャンと金属音が鳴ると共に、身体がベッドに勢いよく引き戻された。
一瞬何が起こったのか分からない。
「あー、いきなり動かない方がいいですよ?首絞まっちゃいますからね♪」
捲簾には死角になっている股間の方から、楽しげに物騒なことを呟く声が聞こえてきた。
「何だよっ!首が絞まるって…あ?」
首どころか身体中が締め付けられているような。
「…まさか?」
恐る恐る首だけを持ち上げて、捲簾が自分の姿を確認する。
「うっわあああぁぁっっ!?」
全身を真っ赤に紅潮させ、捲簾は大声で絶叫した。
身体が思うように動かせないのは当たり前。
足と手は左右頑丈な枷で一纏めに拘束されていた。
それだけではない。
僅かにズキズキと疼痛がする股間までもが、細い革製のベルトでガッチリ締め上げられている状態。
風呂で捲簾が昏倒したのをこれ幸いと、天蓬にいつの間にか拘束されたらしい。
文句や嫌がる前にここまでされては、今更暴れて逃げようもなかった。
捲簾は暫し呆然と自身の情けない姿を眺めると、意気消沈して枕に頭を落とす。
「ん?ちょっと待てよ?」
捲簾は眉を顰めると、少し首を起こして左右に揺らしてみた。

ジャラ…

何やら後の方から鎖の揺れる音が聞こえてくる。
それにやけにさっきから息苦しかった。
コレは一体。

「てっめーっ!天蓬っ!!この首輪はなんだーーーっっ!!!」

捲簾は真っ赤な顔で激怒して、股間に踞っているらしい天蓬へ向かって喚き散らした。
バレンタインに天蓬が持ってきた妖しげなグッズの数々の中に、首輪なんか入っていなかったはず。
「あ、それイイでしょう?すっご〜く捲簾に似合ってますvvv」
天蓬が嬉しそうにヒョコッと顔を上げた。
瞳を欲情でシットリ潤ませ、捲簾の姿に見惚れている。
かなり視線が危ない。
捲簾はヒクッと頬を引き攣らせた。
「何なんだよっ!この前持ってきたモンに、こんなの無かっただろっ!」
「はい。それは僕から捲簾にホワイトデーのお返しですぅvvv」
「……………………………は?」

ホワイトデーの?
お返し?

「ドコの世界に恋人へ首輪プレゼントする大バカ野郎がいるかーっっ!!」
捲簾はジタバタと身体をのたうち、天蓬へ罵声を浴びせる。
「え?でも捲簾に似合うと思って、特注したんですよ、ソレ」
「……………………………は?」

よりによって首輪を特注だぁ?

さすがに呆れすぎて、捲簾は開いた口が塞がらない。
一体天蓬の頭は、何がどうなって恋人に首輪をプレゼントするという発想に辿り着くのか。
そもそも恋人に対して首輪が似合うって考えがおかしい。
「前から捲簾に首輪って似合いそうだなーって思ってたんです。それならホワイトデーもあるし、捲簾の為にオーダーしてプレゼントしようって♪」
天蓬は頬を紅潮させると、ウットリとした眼差しで捲簾を見つめた。

…俺のためにじゃねーだろ。
テメェが見たいんじゃねーかっ!

色々喚き散らしたい言葉が後から後から湧き過ぎて、上手く言葉が出てこない。
捲簾は怒りや羞恥で顔を真っ赤に染めて、唇をひたすら戦慄かせた。
「思った通り、すっごく似合ってますよ。黒のエナメルが捲簾の肌に映えて…艶めかしいですよねぇ」
「…あ、そう」
ケダモノの欲情丸出しな天蓬に身体中視線で舐め回されると、捲簾は深々と溜息を零して諦める。
今更首輪が一つ増えた所で、拘束されている状態は変わらないし。
嫌がったり恥ずかしがったりすればする程、天蓬を余計に煽ることになるのは目に見えていた。
それなら抵抗はせずに、適当に天蓬を満足さえた方が無駄な体力は消耗されないだろう。
それに捲簾も気持ち悦いことは大好きだ。
「でもマジで気持ち悦くなんのかね〜」
さすがに捲簾も拘束プレイは未体験なので、どうもピンと来ない。
「僕頑張りますからっ!ぜーったい捲簾を満足さえますからねvvv」
何やら興奮気味に天蓬が躙り寄ってきた。
「ったりめーだ。悦くなかったら、即終了。普通にセックスすっからな」
ジロッと捲簾が覗き込んでいる天蓬の顔を睨み付ける。
一瞬面食らって天蓬は目を見開いた。

…拘束されるのは嫌でも、僕とセックスするのはいいんですか。

天蓬は頬を緩めると、小さく喉を鳴らす。
「なぁ〜に笑ってんだよっ!感じ悪ぅ〜いっ!」
ムッと唇を尖らせて、子供のように捲簾がふて腐れた。
天蓬はクスクスと笑いながら、突き出された唇に軽く口付ける。
「いえね?捲簾に甘やかされて幸せだなぁって」
「分かってんなら、ちっとは遠慮しろっ!」
不機嫌そうにぼやく捲簾を宥めるように、天蓬は捲簾の顔中にキスを落とした。
あまりのくすぐったさに、とうとう我慢出来ず捲簾は笑い出す。
天蓬はチュッと音を立てて捲簾の鼻の頭にキスすると顔を上げた。
「ところでさ。俺ってどんな格好されちゃってんの?」
小さく首を傾げながら、天蓬を上目遣いに見つめる。
身動き出来ない状態なので、捲簾は自分がどんな風に拘束されているのかよく分かってない。
「えーっとですね。足と手は左右ずつ枷付けてまして。それと股関節が閉じられないように革ベルトでクロスするように締め上げて、中心は輪になっていて捲簾のアソコを根元から締めてあります」
「…どうりで。やけにキツイと思った訳だ」
「あ、それは捲簾が勃起しちゃってるから、自然と締まるようになってるんですけどね〜」
「ん?それって…もしかして」
捲簾の脳裏に嫌な考えが浮かび上がった。
「硬くなればなる程、根元がキツく締まっていく…ってこと?」
「そうですよ?」
「ってことはだ。要するに…」
「射精したくっても出来ないってことですvvv」
「なっにいいぃぃっ!?」
サーッと捲簾は顔色を変える。
「拘束プレイ…イコール焦らしプレイですもん。それは当然でしょう?」
「ヤダッ!そんなの頭おかしくなるっ!!」
捲簾は必死になって首を振った。
生理的欲求を我慢させられるのなんか真っ平ゴメンだ。
本気で嫌がって捲簾は天蓬を睨み付ける。
しかし、捲簾のそんな反応は天蓬も承知済み。
瞳に淫猥な色を浮かべると、艶やかに微笑んで捲簾を見下ろした。
思わず捲簾は息を飲む。
「別に捲簾を達かせて上げない訳じゃないんですよ?ちょっと我慢するだけ。ちゃんとベルトは緩めることができますから、ね?」
天蓬に低く甘い声音で囁かれ、捲簾の肌がゾクゾクと粟立った。
「いつもだってちょっと我慢した後に出すと、凄く気持ち悦いでしょう?僕が指で押さえてるかベルトで締めているかだけの違いだけですから」
「そう…だけど」
言われてみれば確かに。
いつもは達きたくても、天蓬の指がキツく根元を押さえてなかなか達かせてもらえない。
それが拘束ベルトに替わるだけだ。
「…あんま焦らすなよ」
捲簾は頬を紅潮させると、プイッと視線を逸らした。
天蓬の口元に笑みが浮かぶ。
「…いっぱい気持ち悦くしてあげますからね」
「うん…」
天蓬は軽く捲簾へ口付けると、足許の方へゆっくり身体をずらしていった。



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