White day Attraction



「…滅茶苦茶ヒリヒリする」
漸く拘束を外された捲簾が、全裸でベッドに突っ伏しボソッと呟く。
結構激しく動いたらしく、拘束具で肌が擦り切れていた。
肌は熱をもって疼き、赤くなっている。
無理な姿勢のまま長時間固定されていたので、間接が油ぎれのようにギシギシ悲鳴を上げた。
「う〜ん…捲簾喘ぎまくってじっとしてなかったから、肌が擦れちゃったんですよ。血が滲んでビジュアル的にはかなりイイんですけど、さすがに痛そうですねぇ」
「痛ぇんだよっ!あーっ!もうっ!!冬で助かった…」
転がった状態で捲簾は、赤くなって熱を保つ手首を眺める。
薄着の季節だとこんな派手な傷隠しようがない。
隠すだけ不自然で余計に目立ってしまうだろう。
目で見える場所は手首に足首、それに首。
口では言えない様な部位にも、幾筋もの擦過傷が出来ていた。
服で擦れただけでも痛そうだ。
「ったく…お前調子乗り過ぎ!こんなんじゃ暫くシャツ着れねーじゃねーか」
捲簾は天蓬をジットリ睨みながら頭を小突く。
「ぃだっ!もぉ…捲簾だって厭がってたの最初だけだったじゃないですかぁ〜」
涙目になって頬を膨らますと、天蓬が不平を漏らす。
ベッドの上でシーツを指先で弄って拗ねる姿が鬱陶しい。
膝を抱えていじける天蓬に捲簾は呆れた視線を向けた。
「別にヤルのがヤなんじゃなくて、後先考えろって言ってんだろ?」
チラッと背中越しに天蓬が視線を寄越す。

「ヤじゃなかった?ホントですか?僕とスルのは本っ当ぉ〜にイヤじゃない?」
「…ヤだったことなんか一度もねーけど?」
「けんれーんっっvvv」

満面の全開笑顔で、天蓬が捲簾へダイブしてきた。
いきなりで支えきれず、捲簾は天蓬もろともベッドへ転がってしまう。
「嬉しいですぅーっ!」
「イッ…痛ぇよバカッ!首に顔擦り付けんなっ!!」
天蓬がスリスリと捲簾の身体に懐いて擦り寄ると、捲簾は暴れまくる。
首を動かすと皮膚が攣れるし、天蓬の髪が傷口を刺激した。
「重いっ!痛いっ!!いーから離れろってっ!」
必死に引き離そうと押し返すが、逆に天蓬はムキになって絞め技をかける。
間接にガッチリ決められ、捲簾が身動き取れなくなった。
「いだだっ…テメッ!関節技なんかかけんじゃねーっ!!」
「だってぇ〜捲簾が冷たいこと言うからぁ〜」
殊更哀しそうな顔をするが、天蓬の力が弛むことはない。
唯でさえ可笑しくなっていた間接から身体が痺れてくる。
痛みで身体を弛緩させると、天蓬も漸く力を抜いた。
捲簾に抱きついたまま、上機嫌で胸元に頬を寄せる。
懐く天蓬の頭を撫でながら、捲簾が吐息を漏らした。
「あのなぁ…痛みで身動き取れねー恋人に追い打ちかけて、間接締め上げるバカは普通いねーよ」
「だって。捲簾が逃げようとするからですよ」
「逃げたんじゃないって。お前の髪が当たって傷が痛かったんだよ」
「傷が?」
天蓬は視線を上げて、捲簾の首元を観察する。
嵌めていた首輪の縁が擦れたらしく、赤くなって血が滲んできていた。
その艶めかしい肌に、思わず天蓬は喉を鳴らす。
「おい…天蓬?」
瞬きもしないで自分の首を注視する天蓬に、捲簾が眉を顰めた。
不穏な雰囲気に捲簾が身体を起こそうとするが、天蓬が遮って素早く肩を押さえつける。
「血が…大分滲んでますね。痛いでしょう?」
「だから…痛ぇってさっきから言ってんだろ」
「…消毒しましょうか?」
「え?」
きょとんと目を丸くすると、天蓬が愉しそうな笑顔を浮かべて見下ろしてきた。
段々と綺麗で妖しい表情が近づいてきて。

「っん!?」

天蓬が顔を伏せた首筋にピリッと痛みが走った。
濡れた舌先が傷口に沿って、何度も舐め辿っていく。
傷口から浮いてくる血を舐め取るだけでは飽きたらず、首筋に噛みついて強く吸い上げてきた。
ジクジクとした肌が疼き、捲簾の顎が大きく仰け反る。
「やっぱり…しょっぱいですね」
「何?俺のは甘いとでも思った訳?」
おかしそうに喉を鳴らして捲簾が笑った。
「甘かったら糖尿病ですよ」
「さすが医者。ぜんっぜんムードねぇの」
軽口叩きながらも、執拗に首筋を愛撫する天蓬の頭を引き寄せる。
唾液で濡れた傷がやけにヒリついた。
ますます熱を保って疼いてくる。
次第に湧き上がる熱が身体中を浸食してきた。
自分の首に食らい付いている天蓬の頭に、捲簾が頬を擦り寄せる。
「てーんぽぉ〜」
「何ですか?」
「…犯ろ?」
「おや?足りませんでしたか?」
腰に長い脚を絡ませ引き寄せる仕草に、天蓬が顔を綻ばせた。
さっきまで散々もうムリだって泣き言を漏らしていたのに。
勿論正攻法で誘われて、天蓬に断る理由はない。
腕で身体を起こすと、欲情を露わにする捲簾の顔を嬉しそうに見下ろした。
「降参したのは誰でしたっけ?」
「さぁて?拘束プレイはもうギブって言ったけど?」
「そうだったんですか?」
「そうなのっ!だから…」
捲簾の腕が上がり、天蓬の頬を両手で包み込む。
スッと双眸を眇め、見せつけるように舌舐めずりをした。
扇情的な仕草に、天蓬が熱の篭もった視線で唇を見つめる。

「足りねーんじゃなくて…満たされたいって感じ?」

捲簾は口端を上げると、天蓬を引き寄せ軽く口付けた。
何度も角度を変えて、啄むように吸い上げる。
天蓬の唇が笑みを作って解かれていった。
舌先だけを触れ合わせながら、捲簾がわざと拗ねた表情を浮かべる。
「さっきはキスだってしてねーの、お前分かってる?」
「そう言えば…そうですよねぇ」
のほほんと悪びれずに天蓬が答えると、捲簾は不機嫌そうに顔を顰めた。
「あぁいう刺激もお前が好きなら、たまにはアリだけど。俺としてはそれよりもちゃんとお前のこと身体中で愛して欲しいし、愛されたいのよ」
「えっ!?捲簾また拘束しても、オモチャで苛めても、縛っちゃったりしてもいいんですかっ!?」
「勝手に増やすなっ!まぁ…気が向いたらな」
「じゃぁ、気が向いたらいつでも言って下さいねっ!僕最新アイテム揃えておきますからっ!」
「これだけあれば充分だバカッ!」
今度は捲簾が天蓬の頭を腕で締め付ける。
ガッチリとヘッドロックをかけられ、天蓬がじたばたと藻掻いた。
「捲簾っ!痛いですーっ!降参っ!ギブギブッ!!」
バンバンベッドを叩いて、天蓬がくぐもった悲鳴を漏らす。
喚く天蓬にしてやったりと溜飲下がって、捲簾は漸く腕の力を緩めた。
「ひっ…ひどいです。脳みそグラグラしてますよ〜」
これ見よがしに首を捻って睨んでくる天蓬の額を、ペチッと叩く。
「大袈裟だなぁ。ちょっと締めただけだろ?」
「…何だか悪意を感じましたが?」
「愛情デショ、愛情ぉ〜」
「棒読みなのがムカつきますねvvv」
捲簾の身体に覆い被さり、天蓬がニッコリ微笑んだ。

…どっちに悪意があるんだか。

天蓬の企み笑顔に捲簾は顔を強張らせる。
楽しげに見下ろしてくる天蓬と目が合い、ぎこちなく視線を逸らせた。
身体を撫でる掌は、明らかに妖しい意思を持って蠢き始める。
天蓬が捲簾の腕を取って、擦り切れて赤く腫れる肌へ口付けた。
「捲簾のお望み通り、溺れるぐらい愛して上げますから」
「へ?」
何となくイヤな予感がして、捲簾の声が裏返る。
この分だと明け方までナニをされるか分かったモンじゃない。
いや、充分すぎる程分かっているけど。
表面上は穏やかでも、確実に天蓬はキレていた。
瞳の奥が全く笑っていない。
欲情でギラつかせて、飢えた獣の輝きを閃かせていた。
さっきまでの拘束プレイもかなりハードで身体はガクガクしてるが、このまま天蓬が素直に離してくれるはずもなく。
濃密な第2ラウンドを強要されそうだ。

………ポッ。

「たまにはイイか」
捲簾が頬を染めてポツリと呟く。
最近お互い忙しくてご無沙汰だったし、今日はホワイトデーだし。
明日は休みだからちょっとぐらい遅く起きても問題ねーよな。
念のため簾の朝食も用意してあるから大丈夫だ。
捲簾は自分に言い訳をしながら、チラチラと天蓬へ意味深な視線を向ける。
「捲簾?」
何だか落ち着かない様子の捲簾に天蓬が首を傾げた。
厭がってるのかと思えばそうでもなさそうだ。
欲情に濡れた瞳を、照れ臭そうに伏せている。
「あのさ…」
「今更止まりませんよ」
「んなコト言わねーよ。俺だってしたいし。だから…さ」
「…どうしたんですか?」
「んー。天蓬の好きにしていいぞ?」
「ホントですかあああぁぁっっ!?」
「道具はナシだ!何バイブ握り締めてやがるっ!」
「…えぇー?」
「じゃなかったら、今日は寝る。何もナシ。俺は簾の部屋に行って寝る」
「しませんからっ!!」
天蓬は慌てて手にしたバイブを放り投げた。
ここでこれ以上捲簾を怒らせるのは得策じゃない。
折角恋人達のホワイトデーに、寂しく身体を丸めて独り寝なんかしたくなかった。
「…よし」
ご褒美とばかりに捲簾から抱き締められ、天蓬はホッと安堵の息を吐く。
「じゃぁ、僕のお願い聞いてくれますか?」
「…プレイじゃなかったら聞いてやる」
上目遣いでお窺いを立ててくる天蓬に、捲簾がきっぱり言い放つ。
可愛い顔でお強請りされたって、無理なモンは無理。
「言っとくけど。俺は一方的じゃなくってお前とセックスしてぇの。分かってんのか?」
「勿論ですよぉ〜」
にへっと相貌を崩して笑う天蓬に、捲簾はまだ不信感を拭えない。
「僕だって…僕の全てで捲簾を感じたいし満たされたい」
「天蓬…」
「こうやって」
「っあ…」
天蓬の指先が捲簾の背筋を伝い落ちる。
なだらかな背中を撫でて擽る指が、唐突に捲簾の双丘を鷲掴んだ。
最奥を割り開かれる感触に、捲簾がカッと頬を染める。
「身体の奥深くで蕩ける程繋がりたい。触感で、匂いで、聴覚で…僕の全てで捲簾を感じたいんです」
熱の篭もった淫猥な声音が、身体の芯を疼かせる。
もどかしげに捲簾が腰を捩らせると、天蓬は艶やかに微笑んだ。
「僕のお願い…聞いて?」
「早く…っ…言えよ」
それ以上動こうとしない天蓬に焦れて、捲簾が声を詰まらせる。
「捲簾のイヤラシイ姿、僕に見せて下さい」
「俺…の?」
「えぇ。僕を欲しがって卑猥に誘惑して下さい。貴方が、僕を墜して下さい…獣みたいに」
天蓬にそう言われて、捲簾が目を丸くした。
小さく首を傾げて考え込む。
「それってさぁ…俺の好きにしちゃっていーってコト?」
「はい。捲簾が好きなようにして構いませんよ?その上で僕に何をして欲しいのか言って下さい…何でもしますからね」
「何でも?」
「捲簾がして欲しいコトなら」
「そっか」
捲簾は身体を起こすのと同時に、天蓬を思いっきり突き飛ばした。
そのままベッドに倒れ込むと、捲簾が天蓬の腰に跨る。
「んじゃ。ご希望通りヤラしいことしてやるよ」
口元に笑みを浮かべて、捲簾は楽しそうに天蓬を眺めた。



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