White day Attraction



帰ってきた天蓬はキョロキョロとリビング内を見渡す。
「あれ〜?こっちまで片付けてくれたんですか。いやぁ〜助かっちゃいますぅ♪」
「…最初っから狙ってたクセに」
ボソッと小声で悟浄が呟くと、天蓬がニッコリ微笑んだ。
悟浄の側まで来ると、手に持っていた紙袋を渡す。
「はい、お駄賃ですよ」
「あ?何コレ??」
つい勢いで受け取ってしまったが、悟浄は不審も露わに天蓬を見上げた。
妙に軽いのも気になる。
とりあえず振ってみると、カサカサと音がした。
「まぁ、開けてみて下さいよ。あ、八戒にもありますから」
そういうと天蓬は同じ様な袋を八戒へ渡す。
二人揃って顔を見合わせると、とりあえず袋を開けることにした。
すると、中に入っていたモノは。

「………。」
「………。」

八戒と悟浄は暫し押し黙って貰ったモノを注視する。
こんなものを掃除の手間賃でくれる天蓬の神経が分からなかった。
悟浄はじっとモノを睨み付けていたが、ふと隣が気になって視線を向ける。
八戒は。
視線を彷徨わせて呆然としていた。
手にしていたモノは悟浄と色違いで同じモノ。
「ソレなかなかいいでしょ〜?パンツのペアルックvvv」
贈った天蓬はご満悦なのか、会心の笑みを浮かべてニコニコしている。

天蓬が八戒と悟浄に掃除の手間賃でくれたモノは。
色違いでお揃いのパンツだった。
しかも、スケスケTバック。
大事なトコロを隠す布がすっかり役目を放棄している。
細いストライプの入った布地が、何だかテレビの走査線のようだ。
そして後は誇張もなくT字になっている。
悟浄がくすんだスカーレット。
八戒がダークグリーン。
ご丁寧にカラーコーディネートまでしてあった。

悟浄はとりあえず手を突っ込んでみる。
やっぱり中の手はバッチリ透けて見えた。
悟浄はこれ見よがしに大きな溜息を零す。
「…天蓬」
「はい?」
暢気に返事を返す天蓬の前で、悟浄は大きく息を吸い込んだ。
「何で掃除の駄賃がスケスケTバックなんだよおおおぉぉっっ!!」
胸を喘がせ大絶叫しながら、悟浄が天蓬を睨み付ける。
その横で大声を出しているにも係わらず、八戒は未だ現実逃避して戻ってこない。
天蓬はただきょとんと目を丸くする。
「え?だってソレ似合うと思ったんですけどー」
「こんな具が丸見えのパンツが似合うって言い切る根拠は何なんだっ!?」
「え?な〜んか脱いだら下着がソレってエッチじゃないですか?」
「返って引くわっ!ボケッ!!」
「えぇ〜?そうですかぁ?じゃぁ、ソレ…八戒が穿いて大股開きにベッドで寝そべってたらどうですか?」

コレを八戒が穿いて?
脚をガバーッと開いて『悟浄…早く脱がして下さい』とか目ぇ潤ませてお願いされちゃったりしたら?

「ソッコーのし掛かって脱がすvvv」
「でしょ〜?」
「何二人して勝手に話を作って盛り上がってるんですかっ!!」
正気に戻った八戒が、悟浄の手から強引にスケスケパンツを奪い取った。
顔を真っ赤にしてキッと二人を睨み付ける。
「あーっ!ソレ俺が天蓬に貰ったんだぞ〜っ!」
「こんなの穿かないからいいんですっ!もぅっ!天ちゃんも何考えてるんですかぁっ!!」
八戒は両手にパンツを握り締め、天蓬をポカポカと叩いた。
あははは、と声を上げて笑いながら、天蓬は叩いてくる八戒の腕を掴んだ。
「やだなぁ〜そんなに照れることないのに♪可愛らしいですねぇ」
「そんなっ…照れてるんじゃありませんっ!」
掴まれた腕を外そうと八戒が藻掻くと、以外にあっさり開放された。
八戒は手でパンツを握り締めたまま、乱れた呼吸を整える。
「んー?僕は八戒の方が気に入ると思ったんですけど?」
「イヤですよっ!こっ…こんなっ!中身が丸見えになる下着なんてっ!」
「そうですか?じゃぁ、悟浄クンが穿くのはイヤ?」
「悟浄が…ですか?」
天井を見上げて八戒が意識を飛ばした。

悟浄がこのスケスケで悟浄のアレもハッキリ見えてしまう下着を穿いて。
恥ずかしそうに腰を揺らして『八戒ぃ…も…我慢できねー…』って目の縁赤く染めてお強請りされたり?
先走りで下着をグッショリ濡らしてしまったら、形までクッキリ浮き上がっちゃったりしますよねぇ?

「そのまま破いて突っ込みますvvv」
「でしょでしょ〜?」
「何物騒なコト言って頷き合ってんだよっっ!!!」
真っ青な顔色で、悟浄は似た者従兄同士の間に割って入る。
今度は悟浄が慌てて八戒の手からパンツを無理矢理取り上げた。
「あーっ!僕が貰ったパンツ返して下さいよぉ〜」
「ダメだあああぁぁっ!没収っっ!!」
「何でですかっ!僕から労働報酬を奪う気ですかっ!?」
「ろ…労働報酬ぅ〜?」
「そうですよ。天ちゃんの夕食を面倒見たり掃除をした報酬でしょ?そのパンツは僕のモノです」
互いに睨み合ってパンツを掴んだまま一歩も引かない。
それぞれパンツを握っている手には、自分の方へ引き寄せようと力が籠もっていた。
その力が均衡して、二人の拳が震えている。
その様子を面白そうに眺めていた天蓬が、二人の手をポンと叩いた。
「僕はそれぞれにお駄賃を渡したんですから、自分の分を取ればいいでしょ?」
「あ、そっか」
そう言って先に力を緩めたのは悟浄。
その隙を八戒が見逃すはずが無く、ちゃっかりパンツを独り占めした。
「あーーーーーっっ!!!」
「コレはちゃ〜んと僕が預かっておきますねvvv」
満足そうに微笑むと、さっさとパンツをエプロンのポケットへ突っ込んだ。
「悟浄クン…案外抜けてるんですねぇ」
やれやれ、と天蓬がわざとらしく肩を竦める。
悔しそうに唇を噛んで黙っている悟浄の耳元に、天蓬が顔を近づけた。
「あのパンツ…八戒が手に入れたんですから、近いうちに絶対悟浄クン穿くコトになると思いますよぉ?大変そうだな〜パンツ破って突っ込まれちゃいますねvvv」
小声で物騒な予言を悟浄の耳元で囁きかける。
漸く自分の置かれた状況に気付いて、悟浄は気の毒なほど顔面蒼白になった。
パンツをゲットした八戒は、上機嫌に鼻歌を歌いながらしっかりとパンツを鞄にしまい直している。
悟浄はふっと力が抜けて、ローテーブルに縋り付いて項垂れた。

何だってコイツはいつも…いつも、いつも、いーつーもっ!
余計なことばっかりしやがんだよおおおぉぉっっ!!!

咽び泣いて居る悟浄を余所に、従兄同士はほのぼのとしている。
「あ、天ちゃん。先に着替えてきたらどうですか?今日はアンコウ鍋ですよ〜」
「いいですねぇ。じゃぁ、着替えて来ちゃいますね♪」
故意かどうでもいいのか、悟浄のことなど二人とも関知しなかった。

何で俺ばっかこんな目に遭うの?
あ、ケン兄はもっとか。
何たってこんなとんでもねー天蓬に惚れてるんだからな。
…もしかして、ケン兄ってマゾ?

悟浄がブツブツとローテーブルを話し相手に毒吐いていると、八戒が近付いてきた。
「何やってるんですかぁ?ほら、遊んでないで片付けしちゃってくださいよ。鍋がセットできませんからね」
「へーへー、慎んでお片づけいたしますよー」
投げやりに応えると、悟浄はのろのろと立ち上がって、積み上げた本を揃えて紐で括り始める。
「あ、悟浄」
「あー?」
八戒に呼ばれて悟浄が首だけで振り返ると。
すぐ間近に八戒の綺麗な顔が。

ちゅ。

何の前触れもなく、軽く唇を吸われた。
「…早くみんなでお鍋食べましょうね」
悟浄は瞳を輝かせてコクコクと頷く。
「はぁ〜っかいぃぃ〜んvvv」
バッと腕を広げて八戒を抱き竦めようと、悟浄は勢いよく飛びかかった。

ビタンッ!

腰に回したはずの腕は空振りして、悟浄が床に顔から突っ込む。
「天ちゃんの居る前でサカッたりしたら危険だって言ったでしょ〜?」
悟浄の行動パターンなどお見通しの八戒は、既にキッチンまで逃げていた。
鼻をぶつけたらしい悟浄は痛そうに鼻を押さえ、涙目になってむくれる。
「八戒のけぇーち!勿体ぶんなよっ!」
「じゃぁ…帰ったら大開放しちゃいますねvvv」
「…やっぱ勿体ないんでいいです」
ギクシャクと視線を逸らすと、悟浄は中断していた片づけを再開した。






「え?バレンタインにチョコですか??」
八戒に取り分けて貰った器を受け取り、天蓬が聞き返す。
「捲簾さんには当然でしょうけど、簾クンにも上げたんですか?」
さり気なく八戒が話を振った。
モグモグとアンコウを租借しながら天蓬が頷く。
「ええ。丁度買い物へ行ったらお徳用サイズのおっきい『きのこの山』のパックを見つけたんですよ。簾クン喜ぶかなぁ〜と思って、プレゼントしたんですけど…それがどうかしましたか?」
「どうかって言うか…えっと…悟浄っ!」
暢気にビールを飲んでいる悟浄の横っ腹を、八戒が肘で突く。
「へ?あぁ…でさ?もうすぐホワイトデーじゃん?でさぁ〜もしかしたら簾が天蓬におかえしvvvとかなっちゃったりして〜」
「そうみたいですね。簾クンもくれるみたいです♪」
天蓬が嬉しそうにニッコリ微笑んだ。

「…あれ?」
「…えっと?」

八戒と悟浄は言葉に詰まってしまう。
「簾クンがね?この前そう言ってたんですよぉ?『将来は天ちゃんセンセーのお嫁さんになるvvv』なぁ〜んて嬉しいことまで言ってくれましてvvv」
「はぁっ!?」
「何だとぉっ!よりによって天蓬のヨメだとおおおぉぉっっ!?」
驚愕の事実に二人は唖然とする。
「子供って無邪気で可愛いですよねぇ。そしたらね?捲簾ってば簾クンにヤキモチ焼いちゃうんですよぉ〜。もぅっ!その時の捲簾の方が100倍可愛くてどうしようかと思っちゃいましたvvv」
その時を思い出して、天蓬がウットリと恍惚に浸る。
「おい、どういうコトだよっ!?」
「僕だって初耳ですって」
八戒と悟浄はコソコソと小声で囁き合った。
とにかく、現状の確認だけはしなければならない。
「えーっと…天ちゃん?」
「あ…はい?何ですか八戒」
呼ばれて意識を戻すと、天蓬は小首を傾げる。
「と、言うことはですよ?簾クンの初恋って…」
「僕らしいんですよ〜あははは♪いやぁ〜照れますけど、光栄ですねvvv」
満更でもないらしい天蓬が照れくさそうに頭を掻いた。
八戒と悟浄は目配せすると、同時に大きく溜息を零す。
「…しーっかりバレてた訳ね」
「…みたいです」

あれだけ大騒ぎしてたのは何だったのか。
余計な気を回す必要も無かったらしい。

「ふーん…ケン兄も知ってるんだ?」
「勿論ですよ。だって簾クンは捲簾に僕が好きだって報告したんですからね」
「はぁ。何で親子揃って悪趣味…」
「何か言いましたか?悟浄ク〜ン??」
微笑んでいる天蓬の背後にドス黒いオーラが立ち上る。
あまりの禍々しさに、悟浄はヒッと喉を引き攣らせて悲鳴を漏らした。
八戒はやれやれ、と額を押さえる。
「とにかく天ちゃん。くれぐれも簾クンを傷つけないように接して上げて下さいね?」
「当然ですよっ!」
偉そうに天蓬は胸を張った。
八戒も漸く安堵して微笑み返す。
しかし。
悟浄は何だか納得出来ない。

何で簾が天蓬のヨメになるってところを八戒は突っ込まねーんだ?

眉間に皺を寄せながら、悟浄は首を捻って一人考え込んだ。



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