日々感謝 |
White by ハクナオヤ様 as 微温湯 |
肌を刺す寒さが引いて、のんびりと外を楽しめる、そんな季節がやってきました。 窓辺に座り込んで、天蓬はピコピコと尻尾を揺らす。 いつもの適当とは違い、ちょっと気合い入れて、チャイナを思わせる青い服を着ていた。 まだかな〜、まだかな〜。なんて青い空を見て、天気の良さを喜んでいると。 「天蓬、ワリ、待たせた」 キッチンで用事を済ませたらしい捲簾が、ヒョイと顔を覗かせた。 着ている服は、よくよく見れば天蓬と色違いの黒だ。 「大丈夫です、時間はイッパイありますし・・・。ソレより、なにしてたんですか?」 なんせ、これからお出かけなのである。 元々何事も前もって準備するタイプの捲簾が、出がけになにかするというのが珍しい。 「いや、今の季節、町も人で多いらしいから、昼飯時間ずらさねぇと食えねぇかもしれねぇだろ?歩きながら食う事も出来るけど、あんま美味そうなのなかったら辛いし。だから軽くおにぎり握っといた」 「・・・・おにぎり?」 朝ご飯を食べたハズの天蓬は、その部分に敏感に反応し、垂れている耳を片方だけちょっと持ち上げた。 「・・・具、なんですか?」 「具って言えるモンじゃねぇって。ちょっと漬かりすぎた白菜の漬け物があったから、根っこの部分刻んで醤油まぶして飯に混ぜて、葉っぱの部分は海苔みてぇに巻いただけ」 「・・・白菜・・・巻く・・・」 ゴクリ。と天蓬の喉が上下する。 ホカホカご飯に、白菜の漬け物。 美味しいコンビは、想像するだけでちょっぴり食べたくなってしまう。 天蓬は、そっと片手を出して上目遣いで捲簾を見た。 「味見、しないと・・・」 「・・・おにぎりを?」 「そ、そうです、おにぎりを・・・」 手をニギニギして、お強請りを続けてみるのだが。 「お前、朝飯食ったじゃん」 「ソレはソレ、コレはコレですもんっ!!」 「ったく、しょうがねぇな・・・」 言いつつ、どうやらそうなる事を予想していたらしい。 隠すように持っていた小さいサランラップの包みを、天蓬の掌に乗せてやる。 「わーいv」 貰った直後にラップを剥がし、あむっと齧り付く。 握り立てのおにぎりは、まだホカホカと暖かい。 口に入れれば、ご飯の仄かな甘味と、白菜の酸味が混じって、そりゃもう美味しい。 「おいしv」 小さいおにぎりを、三口で食べ終え、名残惜しそうにペロリと口唇を舐める。 「満足したか?」 子供を見るような目をして、クスクス笑う捲簾に、天蓬はコックリと頷いた。 「んじゃ、行くか?」 「はい!」 今日はお出かけです。 秋が深まり寒さが増すと、天蓬は外に出なくなる。 理由は簡単。 寒いからだ。 今は仙人である捲簾と共に過ごしているので、彼の恩恵で体質が変わり、長く生きるウサギになっているが、だからといって寒いのが好きになったのではない。 寒いモンは寒い。とばかりに、家の中で丸くなりっぱなしなのである。 生活必需品を買いにいく捲簾に付いていきたいのは山々だが、なんせ寒いのでいつもお留守番。 そんな天蓬が、暖かくなった最近、お買い物に行くという捲簾に付いていかないハズがなかった。 お財布やらハンカチなんかもちゃんと持って。 ポテポテと歩く森の中は、緑多く、目に鮮やかな花々が咲き誇る。 仙人である捲簾が優しく見守る森は、その喜びを表し、新鮮な空気と大いなる生命力を彼らに返す。 そうして循環し、天蓬と捲簾は、森で穏やかに過ごしているのだ。 「今日は、なに買いますか?」 「調味料と、米と・・・、後は布とかも買っておかねぇと」 「布?」 「新しいカーテン縫おうかと思って」 「捲簾は素敵な奥様って感じですv」 「誰が奥様だ、誰が」 どうでも良い事を笑って話しながら、ゆっくりと森を抜けていく。 時折木漏れ日が目に刺さって眩しくて、手をかざしてみたり。 そんな事を一緒に出来るのが嬉しくて、天蓬は尻尾をピコピコピコピコさせて、忙しなかった。 二人が住んでる家から、町までは結構な距離がある。 しかし、そんな事モノともせず、なんとか到着した町は、やはり賑わっていた。 「うわ〜、凄い人ですねぇ」 「天気も良いし、出かけるには丁度良い気温だし。・・・そういや、デカイ本屋出来たって聞いたから、帰り寄ってみるか?」 「良いんですか?」 「帰りなら良いよ。持つのも限られるし」 「ありがとうございます、捲簾v」 へへv なんて笑い、とりあえず一番の目的である、食材を多く取り扱う店を目指す。 町を賑わせているのは、普通の人ばかりではない。 ウサギの天蓬や、狐の悟浄のように、色んな種族のモノが集まり、楽しんでいる。 誰もが暖かくなった季節を喜び、はしゃいでいるのだが。 喜びついでに、別の欲望もはしゃがせているようだった。 (・・・鬱陶しい・・・) ウサギは基本的に狩られる事が多く、狩る側に回る事は少ない。 そんな立場にいるハズの、見目麗しいウサギ天蓬に、所謂悟浄のような肉食または雑食にあたる種族の視線がビシバシ飛ばされるのである。 こんな事、そりゃ初めてではない。 町に来れば、大抵こういう視線に晒されるし、隣に居る愛しい人も、始めは見た目で寄ってきたのだ。 仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。 (・・・今日は久しぶりのデートなのに・・・) 家で二人っきりも楽しいけど、外に出て色んなモノを見て、食べて笑い合う。 ソレだって、二人だからとってもとっても楽しいのに。 なにが悲しくて、こんな視線に苛ついて大切な時間を過ごさねばいけないのか。 ダンダンと物騒な気配を沸かせる天蓬に、その心情をしっかりと理解し、しかしなんかやらかすなよ〜と捲簾が心配していると。 天蓬は、自分に一番視線が集中しているのを見計らい、ニッコリと微笑んで見せた。 整った顔で、整った笑顔を見せられ、意味深な視線を送っていたモノたちが、ついゴクリとしちゃう。 しかし天蓬は、ゴクリされたのとほぼ同時ぐらいに、ゆっくりと片手を上げ、中指を立てて見せた。 『これ以上苛つかせたら、そこら辺にあるモノをブチ込みますよ?』 という、無言の合図である。 完璧な笑顔と、立てられた中指と、辺りに飛び散る黒い靄。 天蓬に邪な思いを送っていた連中は、耳も尻尾もペタリとさせて別の意味でゴクリとし、ブルブルと震えだした。 自分の知ってるウサギさんじゃない。こんなのウサギさんじゃなくて、むしろ大型の獰猛な肉食獣だ。 獣らしく瞬時に悟り、天蓬に送られていた視線は消え、ついでに辺りの人も消えた。 「歩きやすくなりました〜v」 周りを動揺と恐怖に陥れた張本人は、全く気にせず、嬉々として捲簾を見上げる。 「お前な・・・」 「だって鬱陶しいんですもん。折角のデートなのに・・・」 ぷぅと頬を膨らませて抗議する。 「・・・視線を気にしないようにしてやろうか?」 「どうするんですか?」 「こうすんの」 キョトンとしている天蓬の腰に、捲簾がスルリと腕を回し引き寄せた。 「け、けんれん・・・・v」 「こうして俺だけ見てりゃ、視線なんて気にする暇ねぇだろ?」 ん?なんて片目を軽く細められて、確実になにかの意図を持っているらしい手つきで腰を撫でられて。 そんな事されりゃ、天蓬に周りを気にする余裕なんてあるはずがない。 回した腕の下で、天蓬の尻尾がピコピコピコピコピコし続けて、これ以上すると取れんじゃねぇかな?なんて捲簾は心配する。 天蓬は捲簾の心配に気づかず、自分の片方の耳を、キューッと引っ張った。 「なにしてんの?」 「あまりに嬉しいので、自分をこうして戒めないと暴走しそうだったりそうでなかったりいややっぱりするのかな・・・」 相当嬉しいらしく、言葉遣いが危うい。 「可愛いヤツ」 本心からそう思い、キューッとされてない方の耳に、ちゅっと口唇を落としてやる。 「はうっ!」 思いがけないご褒美に、キスされた方も持っていた方の耳も、勝手に勢いよく持ち上がり喜びを表した。 「あわわっ!」 自分ではどうする事も出来ない本能に、天蓬が耳の根本を抑え下ろすモノの・・・。 手の下で、「負けるモノか〜っ!」と耳がガンガン持ち上がろうとするのだ。 「こんな子供みたいな・・・っ・・・!」 多少ならともかく、思い切り気持ちのままに動いちゃうなんて、恥ずかしい事極まりない。 「俺は嬉しいけど?」 「・・・子供みたいですよ」 「俺に対して、素直でいるお前はとっても可愛い」 男が男に可愛いなんて思うのは、やはり愛情があっての事。 身にしみてわかっている天蓬は、微笑む捲簾の顔に促され、喜びを表しすぎてしまう耳を解放した。 |
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