ヴィトクリア「聖金曜日のレスポンソリウム」
トマス・ルイス・デ・ヴィクトリアは、16世紀後半のスペインを代表する作曲家であり、ちょうど絵画のエル・グレコと同時代に活躍した。現在残されているヴィクトリアの作品は、すべてラテン語でうたわれる典礼のための宗教曲である。それらは、ミサ曲18曲、レクイエム2曲、モテット52曲、イムヌス34曲、マニフィカト18曲であり、決して多作とはいえないものである。
ヴィクトリアの作品の中で、その頂点をなすとされているのが、「聖週間聖務曲集」と2つの「死者のための聖務曲集(レクイエム)」である。1585年に出版された「聖週間聖務曲集」は復活祭前の一週間に当たる聖週間で歌われる曲を集めたもので、聖週間の最初の日の枝の主日(イエスがイスラエルに入城した日)で歌われるものが3曲、聖木曜日(捕らえられた日)のためのものが12曲、聖金曜日(十字架に架けられた日)のためのものが12曲、聖土曜日のためのものが10曲となっており、合計37曲の作品が含まれている。
ヴィクトリアの聖週間政務曲集に含まれるレスポンソリウムについては、昨年の第12回演奏会のプログラムノートに詳しく紹介したので、ここでは簡単に紹介する。
教会暦の肝要な一週間である聖週間の毎日、早朝に「朝課」および「賛課」と呼ばれる祈りが捧げられた。しかし後には、「朝課」は「賛課」共々前夜のうちに済まされるように変わり、それとともに、これらの聖務には「暗闇の」という形容詞が付せられるようになった。「暗闇の朝課」は3つの「夜課」に分けられ、それぞれにおいて「レクツィオ(朗踊)」の朗吟あるいは歌唱、レスポンソリウムの歌唱が行われる。聖週間政務曲集のレスポンソリウムはこれに作曲されたものである。
私達は昨年、「聖木曜日のレスポンソリウム」を演奏したが、本日は「聖金曜日のレスポンソリウム」を演奏する。聖金曜日はイエスが十字架にかけられた日であり、聖書の様々な部分から取られたテキストが用いられている。第2曲「暗闇とはなりぬ」のイエスの十字架上での死の場面の不気味な暗さ、第6曲「わが眼は曇り果てたり」のすべての民への問いかけなど、一段と悲痛な趣を深めている。
<坂本尚史>
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2002/01/20 10:44