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続・芦原さんは言いました

「緒方さんもねェ、タイトル取ったんだから、いい加減身を固めりゃいいじゃないかと思うんですけどねぇ」
 口火を切ったのは、いつもの如く芦原だった。
 何故か塔矢門下の笹木と、森下門下の白川と冴木を交じえた ―― 一応、合コンか?―― 飲み会でのこと、懐具合の丁度いい居酒屋の個室で、杯も進み、彼等は盛り上がっていた。
「緒方さん、まだ予定ないの?」
「ないですよ、白川先生。大体緒方さんって、理想が塔矢先生夫婦ですから、どこから見ても非の打ちどころのないステキな大和撫子を見つけるまではって、はりきっちゃって」
「アキラくんが女の子だったら、何の問題もなかったんでしょうけどねぇ」
 笹木が言ったのを受け、一瞬考えてから皆、大爆笑した。
「アキラくんが女の子だったたら、さぞや綺麗な女の子だったでしょうねぇ」
「趣味はお茶とお花で、俗世間から思い切り外れた、純粋培養のお嬢様って感じですね」
「あはは、それで小学生の時から、白のダブルスーツの緒方さんが張りついてるんですね」
 芦原は一人で笑い転げていたが。
 今日び見ないようなぬば玉の黒髪を腰まで伸ばした、肌も見事に透き通った玲瓏な美少女(イメージ)にぴったり寄り添っている、あの緒方を想像してしまった皆は、凍りついてしまった。
 それって犯罪なんじゃ…!?
「緒方さんのことだから、もうアキラが5つ位の頃から先生に申し込んじゃってさ、許嫁同然って感じですか?ムシがつかないよう、いつも学校まで送り迎えに来るんですよ。あの目立つ赤い車で」
 それも犯罪…!? アキラくん、女の子だったら12歳の頃にはもう人生終わってるんじゃ…!?
「うん、そのまま16になったら緒方さんのお嫁さんかしら、と漠然と考えていたアキラくんの前に突然、嵐のように現れる訳ですよ、運命の人が」
「進藤くんか!」
 何故にか、白川が身を乗り出す。
 もしかして、大河ドラマとか好き…?と思っても、他の二人は凍ったまま口に出せない。
「今まで回りに全くいなかったタイプの彼に、心揺れるアキラくん」
「そして進藤くんも、碁石を持った途端、武者の風格を漂わせる清楚な美少女に、魂を奪われてしまうんですね。いいなァ」
 やっぱ、少女マンガとか好きかも、白川先生。
 にこにこして物語る白川を横目で見ながら、冴木はようやく酒に救いを求める。
「うんうん、でも緒方さんは強敵ですからねぇ、阻まれてしまうんですよ。碁でコテンパンにやられて、アキラくんと付きあいたかったらここまで上がってくるんだな、とか言われて」
「あの人らしいですね。それで進藤くんは屈辱の中、誓うんですね。必ずプロになって、緒方さんからタイトルを奪ってやるっ!と」
「そうなると最大の見せ場は、あれですか?」
 口を挟んだのは笹木だった。
「進藤くんの新初段シリーズ、塔矢先生が自ら動いて、進藤くんがアキラくんと付きあうのにふさわしいかどうかね実力を見ようとする。渾身の力を振り絞り、先生に向かって行く進藤くん」
「それを、真剣な面持ちでモニタールームから見守るアキラくんと緒方さん。そうだ、桑原先生はこんな時にチャチャを入れるのが大好きだった!ぜひ、いてもらわなきゃ!」
「うん、そして、結局6目半で負けて、肩を落とす進藤くんに、塔矢先生が声をかけるんだね。緒方先生と同じスタートラインにようやく立ったねって」
「事実上のアキラくん解禁宣言かァ、萌えるなァ…!美少女を巡って競う、二人の若き実力者!」
「どっちが勝つかなァ…?」
「やっぱり進藤くんだよね」
「進藤くんでしょう」
「若き獅子に敗れ、恋にも破れた元タイトルホルダーは、自分を見つめ直す為、イタリアに旅立つんです。ヴィトンのトランクケースを引きずって」
「新しい白いダブルスーツが仕立て上がってくる頃には、彼にもきっと新しい人生が巡ってくるんでしょうね」
「さぁ、どうでしょう?」
 うっとりと、話を完結させて遠くを見つめる三人は、気付いていなかった。
 5cm程開いた襖の向こうで、非常に困惑している5シャツを着た少年と、拳を握りしめ震えている白のダブルスーツを着込んだ青年が、佇んでいることを。
 冴木は気付いていたが、気付かないフリをして、ひたすら酒をあおった。目が合ってしまったその日には、振り向いたその日には、惨劇の幕が上がりそうだったので。
─ fin. ─■■

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