途中でタクシーを捕まえて慌てて向かったカミューのマンションは、チャイムを何度か押しても反応がなかった。 ひょっとして居留守を使っているのだろうか。いや……合鍵を持っていることはカミューも知ってる。 何処かに出かけてしまったのだ。 二人でいるようになってからカミューが一人で何処かへ行ったことがないので、場所の見当がつかない。 ……ひょっとしたら今夜は帰って来ないつもりかもしれない。 待っていようかとも思ったが、朝まで帰って来なかったら意味がない……今日は場合が違うから勝手に上がり込んでいたら怒られるかもしれないし。 (……一旦出直すか) 終電までまだ時間がある。 朝になったら電話してみよう……明日こそ何があってもカミューとの時間を作るのだ。 明日こそ…… ……と思っていたのに。 地下鉄に揺られて自宅に戻ると、アパートの駐車場に見慣れた派手な車が停まっていた。 まさかと思って階段を駆け上がると、そこにカミューはいた。 俺の部屋のドアの前、手持ち無沙汰に座り込んでいたが、足音に気づいてはって立ち上がった。 「カミュー……」 「……遅かったね……」 「何……してるんだ……。中に入っていれば……」 「……勝手に入ったら怒られるかと思って」 カミューが顔を伏せた。 「来なくてもいいって言ったのはどっちだって、怒られたくなかったから……」 「……馬鹿だな」 近付くと、暗がりでカミューがどれだけ情けない顔をしているか分かる。 そんな弱々しい目をして。 「いつから、いたんだ……?」 「……会社から部屋に戻って、その後」 「ずっといたのか……こんなところに……」 着替えもしないで。こんなサマにならない格好で。 本当に子供っぽくて、逢ったばかりの頃は想像もつかなかったほどに。 カミューに会えたらまず謝ろうと思っていたのだが、そんなことではカミューを完全に安心させることはできないのだなと気づいた。 項垂れるカミューの肩にそっと手を置いて、部屋の鍵をカミューに渡す。 開けてくれ、と合図すると、カミューは少し戸惑いながらも鍵穴に鍵を差し込んだ。 開いたドアの向こう、カミューの背中を押して中に入り、扉を閉ざして鍵を閉めた。 二人だけの空間を作るために。 部屋には言って鞄を置き、所在なく立ったままのカミューと向き合った。 カミューは俺に何か言われると思って少し身構えている。 「カミュー」 「……何」 「しよう」 カミューがきょとんと目を丸くた。 あまりにストレートすぎただろうか。 丸まった目がみるみる怪訝そうな色に変わる。 「……え?」 「言葉でどうこうやって俺達はうまくいった試しがないだろう? このほうがてっとり早い。……不安をなくすには……」 「……」 「だから、しよう、と……」 カミューが口を開けたまま呆然と俺を見ている。 だんだん恥ずかしくなって来た。 いつも必要以上にべたべたしたがるくせに、こんな時に反応が遅いのはわざとだろうか。 「……、しないなら俺はもう寝るぞ!」 たまりかねてついそう口に出した。 するとカミューは慌てたように、 「す、する」 「よし」 咄嗟に出たらしい承諾の言葉を受け取り、俺は早速皺にならないようスーツのジャケットを脱ぎ始めた。 未だぼんやりしているカミューを横目で眺めて促す。 「しないのか」 「い、いや、する……けど、……びっくりして」 「大袈裟な顔をするな。俺だって恥ずかしいんだ」 部屋に備え付けのハンガーを手に取り、ジャケットをかける。 シャツのボタンに手をかけたところで、カミューが背中から腕を回してきた。 「……後は私にさせて」 身体の力を抜く。 後でズボンはきちんとプレスしなければ。 |
次は一応裏あり。
しかし色気もへったくれもないので、
読まなくても大丈夫なようにはなってます。