口唇と指が首から胸の間を行き来している。 指先は確かめるように胸の突起を、口唇が鎖骨に優しく舌を当ててくる。 辿々しく彼の肌に触れようとして、右手の指先がピリッと痛んだ。 「……大丈夫……?」 カミューに右手を捕らえられる。指先に口唇を寄せるカミューに、一瞬昨日の彼の姿を思い浮かべて手を引きかけたが、……すぐに頭から振り切ってそのまま委ねた。 舌の熱で、指にじわりと痺れに似た痛みが広がる。 目を閉じて、左手でカミューの髪を緩く掴んだ。 何度かこうして触れられるうちに、いろいろなことが気にならなくなった。 例えば、帰ったばかりで身体が汚れているとか。明るいところで裸をまじまじと見られるのが嫌だとか。 初めてそんなことばかり考えて気が散って仕方がなかったのに、いつの間に慣れてしまったんだろう。 そんなに長く一緒にいただろうか。 それだけ肌を合わせたのだろうか。 俺が隠すことをしなくなったのと同じように、カミューも俺を受け入れてくれたからだろうか。 口唇を合わせるのに目を開いたままで。 全身を這う腕に応えようと、その首筋に噛み付いて吸い上げた。 本当はただこうして触れあうだけでもいい。今なら大分お互いの考えていることが分かる。 でもそれだけでは身体の熱がおさまらないから、だからもう少し続けるのだ。 やっぱりぐだぐだ言い合わなくて正解だったと思う。このほうがずっと簡単だ……。 ……そんなふうに思う日がくるなんて、やはり俺も変わったのだろうか。 「……マイク……」 身体の中心が程よく熟れてきて、そろそろカミューが焦れて来た。 口付けをしながら脚に手をかけ、その付け根に指を伸ばしてくる。 中枢を探る指先がくすぐったくて、早くしてくれ、と小さくせがんだ。 「慣らさないと、明日辛いぞ」 「いつもロクに慣らしたりしないくせに」 「そんなことないよ……」 カミューは軽く笑い、一度身体を起こして用意しておいたオイルに手を伸ばした。 手のひらに出した液体で両手を擦り、指先を俺の身体の奥に潜らせ、残りをカミューの腹部で首を擡げている分身に塗り付ける。 両脚を抱えられ、その部分にゆるりとあてがわれて、同時に折り曲げられた脚が痛いと訴えた。 「広げ過ぎた?」 「関節が痛い」 「うん、じゃあおいで」 カミューは俺の背中に腕を差し込んで、自分の胸に引き寄せる。 半端に俺の中に入っていた先端がぐっと奥に潜り込んだ。 座ったままのカミューに跨がるような格好で、楽になる為にカミューの背中にしがみつく。 カミューは脚を移動して胡座をかき、改めて視線を合わせた。 「動ける? マイク」 「……疲れるから嫌だ」 「意地悪」 カミューは目を細めて微笑むと、口唇を深く深く重ねて来た。 今度は目を閉じてそれに応える。知り尽くしたお互いの口内を飽きる程貪って、そのままカミューが腰を動かし始めた。 まだ完全に収まり切らなかった部分がずぶずぶと呑み込まれて行く。その度に先端の凹凸が腹の中で擦れてつい呻き声を上げた。 「もう少し……ゆっくり……!」 「さっき早くしろって言ったくせに」 「んん……!」 何度かカミューに揺すられて、とうとう根元まで呑み込んだ瞬間我慢し切れずに、カミューの肩に力いっぱい噛み付いた。 「痛っ!」 「あ、すまん……」 くっきりついた歯形をカミューが涙目で見た。 「痛いよ、マイク……」 「仕方ないだろう」 「もっと可愛く噛み付いてくれればいいのに……」 「無茶言うな」 それでも赤くなってきた噛み痕をそっと舐めたら、少し機嫌がよくなったようだ。 「横になっていい……?」 脚が痛いからあまり好きではないのだが、カミューは動きたいらしい。本当はこうやって抱き合ってるのがいいなんて言ったらどんな顔するだろうか。 「いいぞ」 カミューはうん、と頷いてもう一度キスをくれた。そのまま身体を倒されて、再び持ち上げられた脚を自分からも少し開いてやる。 もぞもぞと動く度に内壁が擦れて苦しい。相変わらず痛みと微妙な点は紙一重で、漏れる声はどちらのものかいまいちよく分からない。 セックスなんて色気もへったくれもないものだ。最初こそ気を使ったものの、今では隠しようのない日常の一部、生活臭が漂っている。 もし綺麗に身体を重ねられるのなら、それはお互いのことを知ろうとしていないからだ。 何も知らないままなら、きっともっとドラマティックなのだ。 でも進歩はない。 「つらい?」 「……から、早く。」 「分かった」 カミューの腰が一定のリズムを刻み始める。 突き上げられる時の快感と引き抜かれる時の違和感が混じって、閉じていた口唇が薄く開いた。 苦痛と快楽は紙一重、きっと今なら噛み付いてもカミューは気にしないだろう。 俺も無意識にカミューの背中に手を伸ばし、ヒリヒリ痛む指で彼の肌を掻いた。 短く切り揃えた爪がカミューの背中にめり込んだ。 「……ッ」 小さく吐息を漏らした瞬間、カミューが俺の中から解放せんばかりの自身を引き抜く。 その刺激で俺の身体が大きく跳ねた。 同時に性欲を吐き出したカミューは、俺の腹に白い水たまりを作って息をついた。 そのままぐったりと隣に倒れこんできた彼に数枚ティッシュを抜き取って、俺ももぞもぞと腹を拭く。 心と身体の排泄行為が終わると、とりあえず照れくさそうにお互いを見つめあった。 そうして最後に口唇を合わせた。 さっきの言葉を少し訂正する。確かにほとんど色気なんてないが、その瞬間だけは別だ。 一番最後に、ようやく恋人同士に戻ることができるのだ。 |
所帯じみててほんとに色気がないのです。
ソフトえろということで。