深く舌を潜らせて、ヒカルはアキラの口内を思うがままに蹂躙する。アキラは床に倒された格好で、自分の上に跨がっているヒカルにされるがままになっていた。 どのくらいそうしていただろう、ヒカルは息苦しさにようやく顔を上げた。二人の舌の間に透明な糸が引く。 ぼんやりと潤んだ目でヒカルを見上げるアキラを見下ろし、ヒカルはどうだと胸を張った。 「……まいったか」 アキラはふふっと微笑み、眩しいものを見上げるように目を細める。 「まいってるよ。もうずっと……キミに」 「……!」 アキラの言葉にかっと頬を染めたヒカルは、その隙にぐいっと腕を引かれてアキラの胸に倒れこんだ。そのまま身体を回転させてヒカルの上に馬乗りになったアキラは、形勢逆転とばかりににっと笑みを見せる。 アキラの下に転がされたヒカルは、まだ赤い顔のままむうと口唇を尖らせた。 「……ゆっくり対局すんじゃないのかよ」 「対局はするよ。後でね。……ボクは先にキミが欲しい」 「もう……しょーがねえやつ」 「なんとでも」 アキラの開き直った態度はヒカルの表情を弛緩させた。 ぷっと吹き出したヒカルは、アキラに向かって腕を伸ばす。 ヒカルの腕がアキラの背に絡まり、アキラはヒカルに向かって身体を沈めた。口唇を何度も啄ばみ合うと、否が応でも気分が高揚していく。 二人のキスがより深く激しくなり始めた時、ふいに世界に闇が落ちた。 「!」 いくら行為に没頭しかけていたとはいえ、辺りが突然真っ暗になれば嫌でも異変に気がつく。 二人は暗闇の中、床に転がって抱き合ったままぱちぱちと瞬きし、何が起こったのかを確かめるべく渋々身体を起こした。 誰かが来た気配はない。つまり、他の人間が電気を消したわけではないということだ。 「……停電?」 「みたいだね」 さっきからひっきりなしに雷が鳴っている。いつ停電したっておかしくはない。 おまけに、窓から見える景色一帯が真っ暗になっていた。当然空も暗黒の雲がざんざん雨を降らせていて、碁会所はすっかり闇の中。 「……真っ暗だな」 「しばらく仕方ないね。でもまあ、別に……支障はないわけだし」 闇の中で、アキラがヒカルに手を伸ばしてくる。 確かにこれから行うことを考えれば、灯りなどあってもなくてもどうでもいい。寧ろ、暗いほうが雰囲気が出るというものだ。 「ヒカル……」 アキラに低く囁かれ、ヒカルはぶるりと身を震わせた。アキラの手探りに自ら身体を飛び込ませ、ヒカルもまたアキラ、と耳元で囁く。 口唇を重ねながら互いの背や腰を撫で回し、焦れた指はすぐにでも衣服を脱がそうとする。せっかちな二人は上半身には頓着せず、真っ先にベルトに手をかけた。 競い合うように下半身の衣服を脱がし、少し悪戯心がくすぐられたのか、ヒカルはアキラから奪ったトランクスをぽーんと遠くへ放り投げた。 「こら」 「へへ」 アキラに優しく咎められて、ヒカルは素肌になったアキラの下半身に顔を近づけた。輪郭は分かるようになったとはいえ、周りは正真正銘真っ暗である。時折雷の光が窓から二人を照らすが、それも一瞬のこと、表情まで読み取ることは難しい。 「なんか……下だけハダカってえっちいな」 ヒカルは笑い混じりにそんなことを言って、探り当てたアキラの分身に指を這わせ、すでに硬く勃ち上がっているものにそっと口唇を寄せた。 「ボクだけこんな格好させる気か……? っ……」 ヒカルの口内に下腹部で反り返っているものを包まれ、アキラは小さく呻く。 足から力が抜けてきそうで、アキラはそのままゆっくりと床に腰を落とした。ひんやりしたフローリングの床が腿や尻に鳥肌を立てるが、体勢的にはずっと楽になった。 ヒカルは四つんばいの格好になってアキラの中央部分に顔を埋め、以前よりはずっと慣れた様子で舌と口を動かしている。 アキラは少し高く上がったヒカルの尻に手を伸ばし、まだその下半身を包んでいるトランクスに指をかけた。 距離があるせいでうまくいかないが、布切れに引っ掛けた指をするすると遠ざけて、その下着を確実に脱がしていく。やがてヒカル自身がもどかしくなったのか、アキラの根本を掴んでいた手を一旦離し、自らトランクスを下ろしてしまった。 「しょーがないから俺もつきあってやるよ」 「確かに下だけ脱ぐのはちょっといやらしいな。暗くて残念だ」 「スケベ」 くすくすと笑い合って、再びヒカルはアキラの分身に舌を這わせる。アキラもまた、先ほどヒカルを脱がそうとした時と同じように手を伸ばし、むき出しの蕾に指を当てた。 指の腹で襞をくすぐってやると、アキラのものを咥えているヒカルの口がびく、びくと奇妙な動きをする。 二人の呼吸が徐々に荒くなり始めた、その時―― ガタン! 二人は弾かれたように顔を上げた。 明らかに不自然な物音。電気が戻ったような音でもない。 ヒカルとアキラは闇の中で顔を見合わせ、それから碁会所の入口付近を振り返った。 薄暗くてはっきり見えないが、人影らしきものがガラスの自動ドアの向こうで揺らめいている。 青冷めた二人は、慌ててその場から碁会所の奥へと逃げ出した。 (だ、誰か来たぞ! ど、どうすんだ?) (慌てるな。どう見てもここの碁会所は閉まってるんだ、すぐに帰るだろう) (でも、そもそも客がこんな天気の日にこんなとこ来るかよ? まさか市河さんとかが忘れ物でもして戻ってきたんじゃ……!) (そ、それは……、まさか……) 二人の焦りをよそに、人影は自動ドアに手をかけているようだ。先ほどのガタン、という音はまさにドアを開けようとしている音だったらしい。 (そういや停電の時ってあのドアどうなんの?) (……非常に言いにくいが、停電になると自動的に手動モードに切り替わる) (えっ!? ってことは、あのドア……手で開いちゃうの!?) ガコン! 少々乱暴な音の後、ガラガラとドアの開く音が聞こえてきた。 暗闇で分かりはしないが、二人の顔は真っ青になっていただろう。 何しろ、二人とも下半身だけすっぽんぽんなのだから。 (どどどどーすんだよ! 俺らこんなとこ見られたら言い訳できねえぞ!?) (どうするって、どうしようもないじゃないか!) (開き直るなよ!) その時、激しい落雷の音と共に碁会所の中が眩い光で照らされた。 碁会所の奥で入口の様子を見守っていた二人は、今まさに碁会所に侵入してきた人物の姿を確認して、あっと声をあげるのをやっとのことで抑えた。 雷に照らされたその人は、二人がよく見知った人物――アキラの兄弟子である緒方精次だった。 |
今回の被害者は白スーツ……
しかしこいつら碁会所でなんてことしてるんだ。