Jealousy




 一人きりで部屋に戻り、出る前と同じくベッドに力なく尻をついたマッシュは、気の抜けたガラス玉のような目でじっと膝を見つめて動かなくなった。
 あのままドアの前に立っていたら気が狂ってしまったかもしれない──なかなか開かないドアからエドガーが出てくるのを今か今かと待ち続け、数十分で根を上げた。
 もしもエドガーが部屋から出たら、目の前にいるマッシュに驚き不信感を持つだろう。マッシュにとって兄から非難の目を向けられることは胸に槍を突き立てられるにも等しかった。
 しかしそれ以上に、あのまま居れば待ち続ける時間が延びていく恐怖に押し潰されてしまっただろう。まだ自身をコントロールできるうちにとマッシュはそこから離れることを選択した。
 きっとすぐに戻って来るはず、と自分に言い聞かせるように口の中で呟きながら、顔を上げたマッシュは時計を見つめて祈るように目を細めた。
 あと五分、あと十分、先程待っていた時とは裏腹に時間の経過が速く感じる。エドガーが帰らぬまま時計の短針は数字を二つ進め、マッシュの葛藤は続いた。
 ようやく静かに扉が開いたその瞬間、見開いた目を即座に戸口に向けたマッシュと、部屋に灯りがついていることに戸惑った顔をしたエドガーの視線がぶつかる。頼りなく下がっていたマッシュの眉が、エドガーを視界に捉えたと同時に愕然と吊り上がった。
 部屋を出た時、いや数時間前に廊下で見た時には確かに髪留めをつけていたはずのエドガーの髪が下ろされている。身支度の途中や眠る間際でしか、すなわち普段はマッシュしか見られないはずのその姿でエドガーが戻ってきたという事実は、マッシュの頭に一気に血を昇らせるに充分な出来事だった。
「……何してたんだよ」
 語調の荒いマッシュに眉を顰めつつ、エドガーは静かにドアを閉めた。辺りを憚るようなその仕草はマッシュの苛立ちを増幅させる。
「何って、知っての通りだ。例の中将殿と話を、」
「本当に話してただけかよ?」
 エドガーの眉間の皺がやや深くなった。表情が険しくなったのは、ほとんどマッシュが睨みつけるような目でエドガーを見ているからだろう。
「……どういう意味だ」
 首のスカーフを解いたエドガーは、溜息混じりの疲れた声で問いかけた。その口調に真剣味が感じられないことが更にマッシュを焦らす。
「あの男と部屋で何してた」
 エドガーの目が一回り大きくなった。
「……何だって? お前、何故……」
「酒場で話すんじゃ足りないのかよ? 何で髪まで解く必要があるんだ」
 マッシュの言わんとする意味を嗅ぎ取ったのか、エドガーの顔色が確かに変わった。その強張った表情が、マッシュに確信と言う名の絶望を与えることに気づいているのかいないのか、エドガーはふいとマッシュから顔を逸らして不機嫌に外套を脱ぎ始める。
「……髪には理由がある。言いたいことがあるならはっきり言え。お前らしくもない」
「俺らしい? 兄貴の言う俺らしいってのは、兄貴が情報収集とやらで動いてる時にぼーっと待ってるだけの使えない奴って意味か?」
「おいマッシュ、」
「俺が何にも知らないと思ってるんだろ? ……誑し込んだのか……あの男を」
 元々色白のエドガーの肌が青みを帯びるほどに白くなり、薄く開かれた唇はしかしすぐには言葉を紡ぐことはなかった。しばし絶句したエドガーは、ほとんど瞬きをしない青い目でマッシュを凝視する。
「お前……、誰に何を吹き込まれた……」
 絞り出したようなエドガーの声でマッシュが自嘲気味に笑う。マッシュが自身で考えついたと思いもしないエドガーの言葉は、胸を刺して貫いて行った。
「……帝国兵が言ってたよ。でなきゃフィガロを維持できなかったって」
 ゆらりと立ち上がったマッシュがエドガーに一歩近付き、マッシュから目線を外さないエドガーが圧されるように一歩後ずさる。
「本当、なのか……?」
 何が、と問うエドガーの眼差しは後ろめたく揺れているように、マッシュには見えた。
「俺がフィガロを出てから、帝国の奴らに、ガストラに……身体で取り入ってたってのは……!」
 エドガーの見開いた目が睫毛の先まで凍りついたように動かなくなった。
 呆然とマッシュに向けられた視線には姿が映っているのかいないのか、どんな時でも冷静さを失わないエドガーらしからぬ様子をマッシュは肯定と受け取った。
「さっきの男にも抱かせたのか……!」
 もう一歩大股で詰め寄ったマッシュはエドガーの二の腕を掴む。痛みのためかエドガーの眉間の皺が深くなった。
 それでも腕を握り締めて離さないマッシュを睨みつけたエドガーは、挑発するように小さく鼻で笑った。
「……そうだ、と言ったら……? お前は俺を軽蔑するのか」
 聞くや否や視界がカッと赤く染まり、マッシュは掴んだ腕を恐ろしい力で引き寄せ、エドガーを振り回すように引きずり始めた。ろくな抵抗もできないままのエドガーはベッドに放り投げられて、毛布に埋まった背中を浮かせるより早く伸し掛かったマッシュの身体に潰され呻く。
 一瞬怯えるように歪んだエドガーの目がマッシュの支配欲を煽った。結われていない長い髪が散らばる様を前に、先程の男も同じ光景を見たかもしれないと想像するだけで胸の中の炎が燃え上がる。
「触らせたのか、髪も、身体も……!」
 マッシュを押し退けようと伸ばされる腕を払い、薄手のシャツの襟に手をかけたマッシュは、怒りに任せて引き千切るように胸元を暴いた。露わになった白い肌にあの男が触れた形跡がないか、指で弄りながら調べていく。
「よ……せ、マッシュ、何をっ……」
 エドガーの制止の声も、掴まれた肩への圧力も、再会して初めて間近で見た青白い胸とその頂を前になんの効果も成さなかった。押し殺して来た触れたいという気持ちが、そしてすでに誰かがこの肌に触れたかもしれないという妬みが行動の暴走を加速させる。
 腕と背に引っかかっていたエドガーのシャツを乱暴に剥ぎ取り、その反動で浮いた身体を強い力で掻き抱いた。
 初めての感触、初めての熱、目眩のように思考は揺れて、膨れ上がった欲を満たすことしか考えられなくなったマッシュは、長い髪が纏わりついた首筋に顔を埋めて唇を当てた。柔らかい皮膚を強く吸うと、腕の中の身体が大きく震えた。
「マッ……」
 エドガーの掠れた声が耳のすぐ傍から聞こえることに心は昂ぶり、抱き締めた背を情緒も何もない乱雑さで撫で回す。首から鎖骨へと唇で辿り、狂ったように吸い付いた。日焼けしていない肌に、赤紫の花の様な痕が面白いほど簡単に散りばめられた。
 マッシュはこれまで誰かと交わったことはなかった。伝え聞く噂話で多少の知識はあっても、多感な時期に修行三昧の日々を過ごしたこと、そして胸の中に常に在った憧れの存在が、人肌に触れたいという欲求を抑え込んでいた。
 しかし今はその憧れが腕の中にある。
 凹凸の少ない身体に柔らかさなどなくとも、引き締まった肌の滑らかさはあまりに魅力的にマッシュの理性を惑わせた。
 全てに触れたいと身体のみならず頭から髪から荒々しく撫で摩るマッシュに自由を奪われながら、エドガーはマッシュの胸を押して苦しげに爪を立てた。
「マッ……シュ、もう……、よせ……」
 力で押さえ込まれているのを解こうともがくエドガーの息は絶え絶えで、頬が薔薇色に上気している。悩ましく眉を寄せたその表情はかえってマッシュの欲望を煽り、マッシュは再びエドガーの胸に顔を寄せた。
 ぷくりと桃色に立ち上がった胸の頂を辿々しく唇で触れ、思い切って口に含む。
「んっ……」
 ビクンと跳ねるような感触が肌から直に伝わって来た。コリコリと芯のある突起は舌で転がすと小さく硬く尖り、明らかな変化はマッシュを夢中にさせた。
「んっ、あ……」
 エドガーがマッシュの髪を掴む。マッシュは構わずに痕をつける時と同じ強さできつく胸を吸い、エドガーが身を捩るのをほくそ笑む反面、過去に誰かに同じことをされたからこその反応では? と心に広がる黒いものを止められない。
 マッシュが唇で触れた場所に他の人間が残した痕は見つからず安堵しても、何処かにあるのではと疑心暗鬼に陥ったマッシュはエドガーの身体の隅々を調べ始めた。胸も脇腹も、強引に伏せさせた背中も、他人が触れた形跡が見つからない代わりにマッシュが幾つも痕をつけた。
 まだ確認していない場所を暴くために下衣に手をかけた時、ぎょっとして顔を上げたエドガーが動揺を隠さずに首を横に振った。
「だ、だめ……だ……」
 弱々しい制止にもしや見られたくないものでもあるのかと勘繰ったマッシュは、生地が裂けるのも構わず無理矢理衣服をずり下げる。下着を押さえようとするエドガーの手首を捩じれば抵抗は呆気なく封じることができた。
 城を出る前とは違い、体格も力もエドガーに勝るマッシュは最早兄を組み敷くことも訳が無い──これまで感じたこともなかった征服感が何処か頭のネジでも外してしまったのか、躊躇いという感情が麻痺したマッシュはエドガーから最後の一枚も奪い取ってしまった。
 長い下肢が反射的に膝を折り、マッシュの目から秘部を隠そうとする。そのささやかな抵抗を見て酷く凶暴な気分になったマッシュは、血走った目をエドガーに向けてしなやかな脚に手をかけた。
「調べてやるよ。あいつが触れたのかどうか」
 自分の声とは信じがたい低い声で言い放ったマッシュは、力任せにエドガーの脚を割り開いた。
「あっ……」
 隠すことが不可能だと察したのか、エドガーは大きく顔を背けて目を閉じ歯を食い縛る。
 マッシュはまじまじと兄の裸体を見下ろした。
 子供の頃でさえここまではっきりと見たことのない、一糸纏わぬ肌は何処もかしこも白く澄んで美しく、その場所が汚れているのかどうか分かるはずもなかった。
 じわじわと腹の奥から熱が生まれて迫り上がってくる。綺麗だと素直に思った。乱れてバラバラに散った金の髪も、顔を背けたせいでくっきりと浮かび上がった顎から喉のラインも、滅茶苦茶に痕をつけた胸や腹も、震える両脚のその付け根も。
 この身体をあの男が、過去の誰かが自由にしたかもしれないと考えるだけで、臓腑を掻き回されるような吐き気と焦慮がマッシュの理性を壊していった。
 エドガーの腹の下で竦んでいるものを掴み、乱暴に扱き上げる。目を閉じたままのエドガーの顔が歪み、奥歯を強く擦り合わせる耳障りな音が聞こえて来た。
 怯えているのか、縮み上がったそれはなかなか熱を帯びてはくれなかった。ムキになって力を強めても痛みが大きくなるだけだと分かっているのに、マッシュは手を止めることができなかった。
「うっ……、くっ……ん」
 不快感を少しでも払おうとしているのか、左に向けていたエドガーの顔が苦しげに大きく右を向いた。
 ごろりと動いた頭に気を取られたマッシュが思わず目を向けると、エドガーもまた深く眉根を寄せたまま薄っすら瞼を開いてマッシュを見ていた。請うような眼差しで、潤んだ青い目が小刻みに瞬きを繰り返していた。
「マッシュ……、痛、い……もう少し、ゆっくり……」
 か細い声が乾き切った唇から零れる。その懇願に、マッシュはざわっと背中が総毛立つのを感じた。
 今のは制止の言葉ではない。力尽くで蹂躙されることを諦めて受け入れたものだ──誇り高い兄が無理矢理足を開かされている現状を受け入れようとしている──この状況を作り出したのは自分だと言うのに、マッシュは自分勝手な怒りで目を血走らせた。
「他の奴にもそうやって媚びたのか? それとも自分から脚を開いたのか?」
「くっ、んっ、マッシュ、痛いっ……」
「答えろよ!」
 エドガーは顔を顰めて痛みを堪える苦痛の声を漏らすのみだった。焦れたマッシュは、反応しないエドガーのものから手を離し、もどかしい手つきで自身の下半身に手を伸ばして腰紐を解き始めた。前を寛げて取り出したものは、微かに膨らみかかっていた。
「咥えろよ」
 膝立ちになって腹の下のものを見せつけ、力なく横たわるエドガーを冷ややかな眼差しで見下ろす。エドガーは歪んだ表情のまま、一瞬目を見開いた。
「他の奴にしたみたいに、咥えてみろよ……」
 押し殺した声での脅しにエドガーは小さく息を吐いた。
 気難しく顰めた眉の下で一度瞼を下ろし、気怠げに身を起こしたエドガーは、乱れた髪を掻き上げてのろのろと四つん這いに近づいてくる。
 拘束を解いたにも拘らず、逃げないエドガーにマッシュは息を呑んだ。晒しているものが硬度を増す。
 マッシュのすぐ目の前まで来たエドガーは、微かに青い目を揺らしてささやかな躊躇いを見せてから、おずおずと持ち上げた右手で壊れ物を扱うかのように優しくマッシュのものに触れた。それだけでグンと勃ち上がったものを、エドガーは意を決したように口へと含んだ。
 頭を殴られたに等しい衝撃がマッシュを襲った。エドガーが本当に咥えたということ、他の人間にもしたというのを否定しなかったこと、それらが入り混じって混乱する感情に加え、初めて与えられた直接的な快感がマッシュをますます追い詰める。
 辿々しく口を動かすエドガーの口内と舌の暖かさに包まれ、ただの生理的な処理とは比べものにならない心地良さで頭の芯が痺れていった。
 エドガーが手馴れているかどうかなど確かめることもできず、このまま腰を突き立てたい衝動に駆られて思わずエドガーの頭を掴む。それに応えるように口の動きが速くなった。ヒクヒクと腰を揺らしたマッシュは、堪え切れずにエドガーの髪を引っ張りその口を無理に剥がした。
 口を開いたまま仰向けに倒れたエドガーの上に伸し掛かり、再び大きく開かせた足の付け根の再奥へ、マッシュは猛った自身のものを当てがった。濡らしてもいない、慣らしもしていないその場所にぐいぐいと先端を押し付けるが、拒むように窄んだ肉は開かない。
 苛立ったマッシュは尚も強引に頭を突き立て、尻の肉を割り開いて無理に開かせた蕾を貫いた。
「う、あっ……!」
 エドガーの悲鳴じみた声が上がる。
 酷く狭いそこは侵入者を押し出そうとしているのかギュウギュウとマッシュのものを締め付けて、それだけでマッシュの脳裏に絶頂がチラつく。堪えて更に腰を突き入れて、抱え上げた脚をベッドに押し付けた。
「くっ、んっ、んんっ!」
 絡みつく肉を突き破る感触があまりに心地良く、マッシュは必死で腰を打ち付けた。自分の下で苦痛を堪えて呻く兄の声を聞かないように、顔を見ないように目を閉じて、まだ狭いその場所を酷く傲慢な気持ちで侵略し続けた。
 ふと、押さえ付けている脚から力が抜けたような気がしてマッシュは瞼を開く。だらりと横たわったエドガーは虚ろな目でぼんやり宙を眺め、四肢を投げ出してただ身体を揺さぶられていた。
 ガラス玉のようになった青い目を捉えて、冷や水を浴びせられたようにマッシュの頭に昇りきった血が冷めていくのを感じた。昂ぶっていた気分が一気に萎んで竦んでいく。
 怯えて見下ろした腹の下は、繋がっている部分に血液が付着していた。その痛々しさに愕然としたマッシュは、浅ましく醜い自分の理不尽な暴力をようやく思い知った。
 動きが止まったことに気づいたのか、エドガーが力なく頭を動かして瞬きをした。一度閉じられた瞼が次に開いた時、先程よりも色が戻った青い瞳がマッシュの呆けた表情を見つけて仄かに揺れた。
「……マッシュ」
 呼びかけにマッシュの肩がびくりと揺れた。咎めるような声ではなく、寧ろ優しく囁きかけられたことにマッシュは戸惑う。
「……大丈夫だ。動いていい……」
「あに、き……」
「もう少し、優しい方が、いいな……」
 弱々しく微笑んだエドガーの疲れ切った顔を見て、マッシュは青ざめて唇を震わせた。
 なんて事をしてしまったのか──後悔など何の救いにもならないというのに、押し潰されそうな胸が呼吸を拒んでうまく息ができなくなった。
 大切に護ると誓ったはずの相手に取り返しのつかない酷いことをしてしまった。カタカタと歯を鳴らして涙ぐむマッシュに対し、また小さく笑ったエドガーは垂れていた両腕を上げてマッシュに向かって伸ばしてきた。
「マッシュ」
 自分に捧げられた腕に戸惑うマッシュへ、尚もエドガーは腕を広げる。安心させるように頷くエドガーに導かれ、マッシュは怖々身体を倒して兄に胸を重ねた。
 エドガーの腕がマッシュの背に回り、優しく抱き寄せてくる。その暖かさに包まれて、マッシュは堪え切れずに嗚咽を漏らし始めた。
「ご、め……ごめん、兄貴、ごめん」
「うん……、大丈夫だ」
「ごめん、俺、ううっ……」
「そんなに泣くな……。大丈夫だと言ってるだろう……」
 やや戯けるような囁きが耳から入ってマッシュの身体に沁み入る。
 酷い事をされた側であるというのに、マッシュを慰めるように背を撫でるエドガーは額をそっとマッシュの肩に擦り寄せて、誘うように脚を腰へ絡ませた。
 萎えかけていたものが再び熱を帯びていく。恐る恐る、言われた通りにゆっくりと腰を動かすと、背に回されたエドガーの腕に力が籠った。
 傷ついた場所を無理に拡げないように、少しずつ抜き挿しをすると自分のものから滲んだ液が潤滑剤の役割を果たしたのか、割り入るような感覚は緩くなった。
 同時にエドガーも努めて力を抜いたようで、押し出されることがなくなった場所を優しく突くと、耳の傍で湿度の高い吐息が空気を震わせたのが分かった。
「……あっ……」
 その日初めて官能的に色づいたエドガーの声は、怒りとは違う形でマッシュにくらくらと眩暈を起こさせる。
 もっと声を聴きたいと腰を揺らすのに合わせて漏れる喘ぎが愛おしくて、マッシュは赤紫の痕が散りばめられたエドガーの身体に改めて唇を寄せた。
 きゅうっと一度締められたその刺激で呆気なく達してしまったマッシュは、脈打つものがエドガーの中にどくどくと溜め込んだ欲を吐き出しているのを放心した表情で見下ろした。
 しばらくそのまま動かずにいて、萎れたものがずるりと抜けたことにハッとしたマッシュはエドガーに目を向けた。半分夢の中にいるようなぼんやりした顔で、伏せ目がちの瞼をゆっくりと瞬きさせた艶っぽいエドガーの仕草に胸が鳴り、マッシュは言葉を失う。
 エドガーはマッシュを促すように胸に触れながら緩慢に身体を起こし、まだ荒く上下するマッシュの肩にことんと頭を乗せて、しばらく無言で目を閉じていた。